「
さあ、うたおう」
ユーとサクその後
ショコラみたいな男の子01
2月14日。
ユーくんと出会ってから、だから……今年で10年め、毎年、決まって渡すのは手作りのチョコレート。
この前遊びに行った時にチョコレートを食べてたら、今年も作ってくれるの? ってユーくんに聞かれた。
どうしようかなぁって意地悪に言ったら、格好いい顔が悲しそうに歪んだから凄くびっくりして。
慌てて、作るよって抱きついたら、顔じゅうにキスされちゃった。
すごく嬉しそうにするから、ボクもつられて幸せになっちゃった。
こんなのほんとに大した物じゃないのに。
ザクザクと刻むチョコレートから甘い匂いが立ち上る。
料理が苦手なママに似て不器用なボクが作るのは、板チョコを溶かして型で固めただけのチョコレート。
小学生の女の子が作るのみたいに、色とりどりのスプレーを不格好に散りばめたハート型のチョコレート。
でもね、ほんとはね、頑張ればきっとブラウニーくらいなら作れるんだ。
料理もママより上手い。
家事も一通りこなせる。
でもそれは秘密。
ボクはまだ、ユーくんの特別じゃないから。
ユーくんの特別な人たち。
大人なユーくんの横に立っていた、大人の男の人。
小さな頃に鉢合わせしたその人たちに、まだボクは適わない。
18歳は子供じゃないのに。
知識も体も、それに性欲だって大人と変わらない。
ユーくんの特別になりたくて、ボクは頑張った。
恋人だって言ってくれたのは1年前。
嬉しかった。
幸せだった。
やっと、やっと、ユーくんの隣に立てるんだって思った。
なのにユーくんはボクとエッチしてくれない。
おねだりしても、いつも誤魔化されちゃう。
コレじゃ、恋人になる前と同じだよ。
幼なじみの息子。
近所の子。
周りをちょろちょろ付きまとう、ガキンチョ。
ボクはまだユーくんの特別になれてない。
だから、まだ、子供でいようと思うんだ。
手が掛かる子供でいたら、いっぱい構ってくれるでしょ?
料理が苦手ならご飯の心配してくれるでしょ?
独りで置いていったりしないでしょ?
ユーくんをつなぎ止めるためなら何でもする。
何でもするけど、18歳のボクにできることは限りがある。
分かってる。
やっぱり子供だ。
子供のふりなんてしなくても、十分子供なんだ。
悔しいなぁ。
溜め息をひとつ。
手についたチョコレートをペロリと舐めると、甘くて、ほんのすこし苦かった。