さあ、うたおう
ユキとキラその後
お好きです? 03

なんて、甘かった。
畜生、計算外だ。
こんなハズじゃなかったのに。

「可愛いね、アキラ“くん”」

「っせ……」

ハズい。
これは、ハズい。
顔が発火しそうなほどに、熱い。

「真っ赤です……あ、違う、真っ赤だよ?」

「くっそ」

火照った頬に触れる深雪の指は微かに冷たい。
真っ黒な学ランの袖から延びる白くて長い指の動きが優美で、目を奪われる。


深雪の家。
しかも妙に片付いた深雪の部屋。
どうもそわそわする。
先ずそこからして、マズい。

何より余裕だと思ってた学ラン。
約束でしたよね、と渡された黒いずしりとした重さに、昨日のやり取りを思い出した。
まあ、約束、したわな。

昨日の今日でこんなもの用意するとか、こいつはどういうバイタリティしてんだろう。
深雪をチラリと睨んで、ため息をつく。

とはいえ、約束は約束。
するりと袖を通せばひんやりとした裏地の感触が、ああ、こうだったなと懐かしく感じた。
しかも短ラン。
先輩にもらった短ランを更に詰めて、怒る教師から逃げて回ったのを思い出す。

青春だった。
ホント懐かしい。

「これきり。もうやんねえからな?」

「えー」

「えーじゃねえっての」

釘を刺しながらも少し浮かれていた気分は、鏡を見た瞬間に墜落した。




何だこれ!




ハズい。
アリエナイ。

5年。
多分、5年前なら平気だった。
でも今。
この年でこの格好は……。

とんでもなくイケナイ事をしているような気がする。
ヤバイ。
犯罪っぽい。

「アキラ“くん”」

鏡を通して目が合った深雪も、いつの間にか漆黒の学ランを着込んでいた。
サイドの髪の毛を無造作に後ろに流した深雪は、なんと言うか、不思議な雰囲気を纏っていて、思わずドキリと心臓が跳ねる。

「こっち、座りましょ」

手を引かれる軽い力に何故か逆らうことができず、そのままソファに導かれた。
微かに軋む音を立てて、オレの体が艶やかな皮に沈み込む。

「可愛い」

ゆっくりと覆いかぶさってきた深雪に背もたれに押し付けられてそっと唇を食まれる。
リップ音すら立てないその初心な接触に顔が更に熱くなった。

「ふふ。同い年ごっこ」

「無理、あるだろ」

「そうかな? アキラくん可愛いから問題ないよ」

問題オオアリだ。

つか、ホントねえわ。

今すぐに脱いでしまいたい衝動は深雪の長身に阻まれる。
それを押しのけて立ち上がろうともがいても、尻が沈み込むソファが強敵だった。
なんだこの魔法のソファは!!
ケツが離れねえ!!
吸盤でもついてんじゃねえの!?


ほんと、こんなハズじゃなかったのに。


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