「
奏でて?」
07
秀和は脱力した体をテーブルに預けて荒い息を整えながら、快楽の残滓に浸った。
床を汚したことや、太一が出勤してきて見られるかもしれないことが頭の片隅から警鐘を鳴らしている。
それをぼんやりと認識してはいたが、あまったるいけだるさの虜になっていた。
そもそも、両腕は拘束されたたままだし、後ろからのしかかる洋二が離れる気配もない。
背中にぴったりと密着した洋二の温かい重さが心地よかった。
…………。
臀部にごりっと固いものが当たっている。
…………。
まさか?
いや、でも、まさかだ……。
次第に秀和の意識が覚醒していく。
そう言えば、射精直前に何だかとんでもない事を言われた気がする。
……。
いや、まさかとは思うが、洋二の言動を振り返ると自分に都合の良い想像をしてしまう。
まさか、だ。
洋二は秀和の気持ちを知った上で、そういう意味で好意を抱いている、とか。
まさか、太一にやきもちを焼いる、とか、まさか。
くちゅ……。
「ン、ふあ……ぁぁ……」
精を放出してしまい多少の硬度は保っているもののくったりとしてきた中心に触れたままの洋二の手が緩やかに動き出した。
白濁で滑る手が放出後の敏感な愛息を撫でると、快感が脳みそを揺さぶる。
「……あ……も、やぁ……」
逃れるためなのか、快感を追うためなのか、腰が揺れてしまう。
その度に尻が洋二の下半身の熱い塊に当たってしまい、湧いてくる卑しい欲求に体が火照る。
愛撫が緩やかなだけに、切なさが募っていった。
「……ヒデさん、そのまま、聞いてくれる?」
「んッ? ……んん……」
聞いてくれるも何も、捕らわれている秀和に逃れるすべはない。
「はじめさ、冴えないヤツだなって思ったんだよね。目も合わさないし。何かキョドってるし」
それはもしかしなくても俺の事だろうか。
洋二との初対面はこの店のオープニングイベントだった。
店内に足を踏み入れると真っ先に漆黒に濡れたピアノが目に入った。
それを気持ちよさそうに奏でていたのが洋二だ。
あんまりにも格好良くて緊張してしまい、紹介された時もどんな話をしたのかすら正直何も覚えていない。
洋二にそう思われても仕方ないかと思う。
──それは良いのだが。
「んっ、は……ぁっ……ん……」
息子を離してくれないだろうか。
腰がへこへこしないように我慢するのがキツい。
今更ではあるが、堪えても漏れ出る熱い吐息が恥ずかしくて仕方なかった。