奏でて?

08

秀和の悩ましい困惑に気が付かないのか、洋二は器用な指先をやわやわと動かしたまま話続ける。

「でもさ、俺以外には普通じゃん? むしろ、小悪魔?」

「……んぁ……くまっ、なん、かじゃあ……なぃ、っしっ……」

気持ち良くて仕方ない。
秀和の日に焼けてない肌は紅潮して、うっすらと汗ばんでいた。
その首筋に洋二は鼻を寄せて匂いを嗅ぐ。

「ンん……」

秀和はくすぐったさにぶるぶると震えた。

「小悪魔じゃん。わざとらしいワガママ言ったりさ。ベタベタひっついたり」

「……ぁぁ…………はっ、ああっ」

低い声が耳に吹き込まれる。
ぞくぞくと背筋が痺れて、頭の芯がボーっとする。

早くも、秀和の中心は固くそそり立っていた。

「なのに、俺には何なのさ? おかしくない?」

太一の友人であるサークルの先輩たちとの事か、と秀和はぼんやり思う。

サークルに在籍していた当時からよく太一に引きまわされた為、その年周りの先輩とはかなり仲が良い。
なぜだかマスコット的に扱われてしまい、そのころは恥ずかしかったこともある。
だが、その扱いに慣れてしまった今では、それ見合う振る舞いをすることで笑いを取ることもよくあった。

特に太一の店だと皆の悪乗りもエスカレートしていく。
女王様キャラなんかに発展していって、何が何だか分からなくなることもしばしばだ。

何も知らない人間から見たら、眉をひそめるような場面もあったかもしれない。
とは言え……

「……ヤキモチ…………?」

「!!」

小さいけれども、確実に声に出してしまった。
それに反応して、洋二の動きが止まる。

そんな洋二の様子に、秀和の心拍数があがる。
じわじわと体の中心から末端まで、喜びが満ちていく。


これは、勘違いしてもいいだろう?


と、次の瞬間に秀和の体は洋二の長い腕に力強く抱きしめられていた。

「だって、ヒデさん、俺の事……好きだろ?」

肩口に押しつけられた顔からくぐもった声が響く。
洋二の体が微かに震えているような気がする。

緊張、しているのだろうか?
……何と答えたらいいのだろう。

秀和も、喉が張り付いてしまったかのようにうまく声が出ない。

「なあ?」

捨てられた子犬の様な、哀れを誘う声。
甘えたような、縋るような、必死さが秀和の心をときめかせる。


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