「
奏でて?」
03
「……ふーん……」
洋二が低い声を出す。
いつもとは違う無表情の下に怒りが見え隠れしているのに、秀和はやっと気がついた。
「……どうか、ひたの?」
思わず身を引くが、後ろはカウンターで背中が縁に支える。
それにつられた洋二が、秀和との距離を詰めた。
息遣いが感じられるほど近付いた洋二の顔を秀和の揺れる瞳が見あげる。
すっと近づいてきた洋二の手に恐怖を感じて、反射的に目を閉じた。
「!?」
咥えていたリードが口から引き抜かれ、同時にぴっと刺激が走る。
驚いて唇を舐めると血の味が舌の上に広がった。
「ち……」
リードが傷つけた唇に痛みはないが、溢れ出る血の量は多い。
しきりに舐めとる秀和の舌が赤く染まる。
「…………っ!」
洋二の長い指が、秀和の頼りない肩を乱暴に掴んで引き寄せた。
噛みつくようなキス。
何が起こってるんだ?
突然の事に秀和の頭が付いていかない。
その間も口内は洋二の激しい舌の動きに蹂躙され、止まったままの思考に対比して体は正直に反応を返す。
荒くなる息には熱いものが混じり、下半身ではむずむずとした快感の種が芽吹き始めた。
「ん、ふぁ……」
反射的に洋二のシャツを掴むと、鍵盤を叩くのに向いた長い指が秀和の上半身をまさぐり始めた。
「……ンあ……あ、はん……」
薄い長袖のYシャツを隔て動きまわる指先が感覚を敏感にさせる。
何もされていない皮膚でさえ、ひりひりしている気がする。
背骨の窪みを辿ってゆっくりと撫で上げられ、肩に力が入る。
もう片方の手が腰のラインを確かめるように動くと、ぞくぞくと快感が押し寄せて呼吸を苦しくさせる。
「んん、ア……ああ……」
はしたなく腰が揺れてしまいそうだ。
誘惑に負けてそっと舌を絡ませると、洋二の舌にいやらしく蹂躙される。
唾液が頬を伝う刺激にふるりと身を震わせた。
「っヒ! んンン……! 洋二君、やめ、て……」
胸をなで上げられて、突然の刺激に身を捩った。
微かに触れられた乳首が甘く痺れている。
これ以上何かされて理性を保てる自信がない。
とんでもないことを口走りそうだし、淫らな自分を洋二の前にさらけ出してしまいそうで、それは恐怖以外のなにものでもなかった。
秀和は、洋二の腕の中から逃れるために暴れた。