「
奏でて?」
02
酒は得意ではない秀和だったが、置かせて貰っているサックスを演奏したり、閉店時間には練習用のスタジオ代わりに使わせてもらっていた。
特別可愛がってもらっている自覚はあるが、付き合う、というのは──そういう意味だとしたら、当てはまらない。
しかも、
「太一はん、結婚ひてるひゃん」
ノーマルもノーマル。
大変可愛らしい奥様との睦まじい様子は、常連客の間では一番のイジリネタだ。
洋二が綺麗にカラーリングされた髪の毛をむしる様に掻きあげた。
「だから、昔の話」
「昔も今も、男同士だろ。なひって」
秀和は胸に抱えたサックスに視線を落とす。
洋二の顔を見ていられなかった。
女性の豊満なボディを思わせる緩やかな曲線の楽器をクロスでひと撫でする。
「だって、ヒデさん、男同士OKなんだろ?」
洋二の言葉に動きが止まる。
反対に、脳みそはフル回転だ。
何故バレたのか。
洋二は本当に確信しているのか。
俺はどう反応したらいいのか。
──洋二はそんな俺をどう思っただろうか。
「この間、兄貴のサークル仲間が飲みに来てさ、大学行ってた頃兄貴とヒデさんが付き合ってたって」
焦る秀和に気づかずに、洋二が早口に続ける。
サークルの連中の話なら、
「……ふん! ふん、なんだ。そのこと……」
「まだ、兄貴のこと、好きなの?」
「好きって……」
そういう意味で太一を見たことなど一度もない。
がっしりとした体格で男らしい顔立ちの太一は、確かに一般的なゲイには人気があるタイプだろうが、残念ながら趣味ではない。
だからこそ、普通の先輩後輩としてこんなに付き合いを続けられたのだと思う。
「あんなむさ苦しい最低男、どこがいいんだよ」
「ひやひや、先輩はひひ人だよ?」
大学1年目、上京したての秀和はストーカー被害にあって、本気で身の危険を感じた。
そんな時に、彼氏の「ふり」で守ってくれた頼りがいのある先輩だ。
「俺なんかにこんなに良くしてくれて、ホント感謝ひてるよ」
太一に出会えたおかげで大学生活が楽しかったのはもちろん、今、こうして洋二と出会えた。
現金ではあるが、ソコはかなりの重要ポイントだ。