「
痛い」
手
軟派な先輩×意地っ張り後輩
両思い
--------------------
痛い。
手が痛い。
やけに痛いと思っていたら、骨折だった。
「ここ、ヒビね」と爺の医者がにこにことレントゲン写真を見つめる。
何が嬉しいんだか。
念のためとギブスで包まれた左手に溜息をつく。
大事になってしまった。
「お大事に」という受付のおばちゃんにぺこりと頭を下げながら、月曜に出社する時には外そう、と決心した。
病院の扉を開くと木枯らしが吹き付けてきて、慌ててコートの襟を立てる。
今夜は冷え込みそうだ。
「先輩……!」
「! ハニーちゃん!?」
耳に届いた愛しい声に条件反射的に笑顔で振り向く。
落ち葉舞い散る中、愛しい後輩が青い顔で佇んでいた。
「わっ、寒いでしょ? 大丈夫? あ、ほら、こんなに冷えて……ボクが暖めてあげようか? もちろんベッドでさ」
冷たい頬に右の掌を当てれば、いつもならば飛んでくる冷たい視線と言葉がない。
不思議に思って覗き込むと、形の良い目が涙でいっぱいになっていた。
「ギブス……」
「ああ、大丈夫。大したことないよ。心配してくれたの? うっれしいなぁー」
「……ごめんなさい」
しゃくりあげながら謝罪する後輩に苦笑する。
「自業自得なんだから、君は全く悪くない」
「でも、俺がドアを閉めて……」
「ボクが嫌がる君にしつこくしたからでしょ? 謝るのはボクだよ」
日課のようにアプローチするボクを迷惑がる顔が可愛くて、しつこく絡み過ぎた事を今更ながら後悔する。
こんな顔をさせたかったわけじゃない。
そうは見えないかもしれないけど、これでいて本気なんだから。
「先輩!」
きっと顔を上げた後輩の赤い顔に頬がゆるむ。
可愛いなぁ。
「ご不便でしょうから、何でも言って下さい。俺、お世話しますから」
「…………」
一瞬、下世話な事を考えてしまった自分を戒める。
待て待て。
今反省した所じゃないか。
「んー、気持ちは嬉しいけど、大丈夫だよ?」
「でもっ、でも……先輩独り暮らしだし……左、利き手じゃないですか……」
「!」
理性を総動員してやんわり断ったボクに食い下がった後輩の言葉に驚く。
子供の頃に矯正された為、日常生活で左手を使うことは殆どない。
ボクが左利きだなんて
「良く知ってたね?」
思わず漏れた呟きに一瞬間を置いて、後輩の顔が茹で蛸の様に真っ赤になった。
え?
え?
これって勘違いじゃないよね?
今夜の冷え込みは、きっとボクには無関係になりそうだ。
--------------------
入社したての後輩に一目惚れした先輩。
憧れの先輩に、毎日、好きだ可愛いだ言われて戸惑うしかない後輩くん。
んー。
ベタな甘々って良いですね!