一番最初のお話

買い物帰り、ガサガサと両手いっぱいに袋を持ってフォックスは街中を歩いていた、自分から買い出し係になったにしてもこの量は大分誤算だった
しかしこの時間帯はタイムセールの時刻、安さには負けてしまう
この時間帯に買い物しておいて良かった、大分食費が浮いたよ
自然と顔に笑みがこぼれ買物袋の中身を眺める、すると後ろからクラクションの音が聞こえた

「おーいフォックス、大変だろ?乗れよ」

振り返るとそこにいたのはファルコだった、今まで見たこともない青い二人乗り用の車だ、

「…いいよ、俺まだ寄るとこあるし」
「バーカそんな荷物じゃ何処にいっても邪魔だ、この車もそんな荷物入るわけじゃねーし今日は止めとけよ」
「…」
「そんな今日行かなきゃならねー用事でもねーんだろ?だったら…」
「分かった、乗るよ」

ファルコはドアを開け、フォックスを助手席に誘導する、荷物は席の後ろの空いたスペースに入れ動き出した

同じ母艦で更に命をかけて戦うチームメイトであるのに関わらず、得に会話も無しに神妙な空気の中車は勢いのまま進みエンジン音が車内に響き渡る
しばらくして信号に当たった時この気まずさに痺れをきかしたのかファルコは唐突に喋りだした

「この車な、さっきオレの昔の馴染みに会ってよ良い車があるから乗ってみるかとか言われて借りたんだ。良いだろ?色と良い形といい最高だよ。ま、アーウィンにゃ負けるけどな」
「…そうか」
「そういやお前このまま帰るだけか?帰るだけならちょっとオレに付き合えよ」
「えっ?」
「良い店そいつに教えてもらってな、一人で行くのもあれだしよ、決まりな」
「…」

フォックスはそれ以上何も言わずただ外の景色を眺めているだけだった

最近、フォックスがやけに静かだ。
いや、静かと言うよりオレを避けている気がする
こんな事が始まったのはつい数日か前、フォックスがオレの部屋に邪魔した時からだった

風呂から出たばっかのオレは突然の訪問に頭を拭きながらドアを開ける
そこには資料を見ながら立っているフォックスの姿があった、ドアが開いたのに気付きファルコの方を向く

「ファル…うわっわ…悪い風呂入ってたのか」
「おう、それよりどうした?」
「いや、次の任務の打ち合わせを…あれだったら明日でも大丈夫だz…」
「いーよ今でめんどくせぇ、ほら上がれよ」

フォックスの言葉を遮り頭を拭きながらドアを大きく開き招き入れ、少し下を向いてフォックスは中に入った。
ファルコは自分の分とフォックスの分の飲み物をテーブルに置くと向き合う形で座り資料に手を取る

「…ファルコ、服着たらどうだ?冷えるぞ」
「あ?いいよ別に今クソ暑いし、それより打ち合わせってなんだ?」
「…あぁ、それはな…」

ため息を一度吐き、意を決したように資料に指を刺し淡々と説明を始める
何分か経ってようやく話がまとまった

「…ということで、ファルコには周りこんで行って欲しいんだ」
「へいへい、分かりましたよリーダー」
「頼んだぞ」
「なぁそれは良いんだけどよ、なんでこっち見ないんだお前?」

説明している最中も、さっきの言葉の時も一向にこちらを見ない
人と会話をするときは人の目を見て会話をしなさいとそう学ばなかったのかと言いたいぐらい、こちらを見ない
昔の自分の行いから言える立場でもないのだが、ファルコは不思議がった

「…そんなことはない」
「あるから言ってんだろーが、なんだお前?まさか照れてんのか?」
「ちがうっっ!」

バンッ机を叩いてファルコに慌てて顔を向けた
冗談半分に言ったファルコだったがフォックスの反応を見て目を開く、フォックスの顔は必死すぎて一瞬少し悲しそうな表情にも見えた

「な、なんだよ冗談だって…」

それを聞くとすぐに顔を逸らし、資料に指を刺す

「これ…やるから、ちゃんと復習しておけよ」

そういうとフォックスは足早にファルコの部屋を後にした。

それ以来母艦の中でスリッピーとフォックスが会話している最中ファルコが入るとすぐにフォックスは用が出来たとかで離れ、
話している最中もまたもやファルコと目も合わせやしない、それどころか素っ気ない態度を取られ続けている
一度なにかしたかと聞いた事があったが何もしていないいつも通りだと返答され、さらに言い返そうとしたが軽くあしらわれ終わった。

ファルコはいい加減フォックスの態度に腹もたっていたしこんな空気の中仕事なんてやってられない。
口下手な自分がフォックスに何を言おうがきっとこうなったフォックスに訳を聞けられないだろう
お酒の力を借り空気が良くなった所で話すしかない
そう悟ったファルコの行く着く先はとある居酒屋だった
車を止め、中に入ると奥の座敷の方へ案内される
ファルコが座るとフォックスも少し立ち尽くした後続けて向かい側に座った。見ただけで分かるくらいフォックスはノリ気ではない
いつからオレはこんな嫌われたんだ
無性に腹がたちながらおしながきを手に取りフォックスの前に置き開く

「これがここのオススメらしくてよ、車の奴に教えて貰ったんだ…け…ど、お前特に食いたいもんとかねぇよな?」
「あぁ、まぁ」
「んじゃとりあえず酒で良いか」

店員を呼び慣れた手つきで注文を頼む、時間帯的に混んではなかったのですぐに日本酒とおつまみが何品か置かれた
手っ取り早く酔わしてやる、そう心に決めたファルコはフォックスにお酌をする

「あー…ファルコ良いよ、オレあんま今酔いたい気分じゃ」
「良いから呑めよ、明日もどうせ仕事ねーんだから」

少し苦笑気味に無理矢理呑ませる、仕方なくフォックスはファルコにススメられた分全て飲み干した
そんなやり取りが何分か続いた頃ファルコはもうそろ良いだろうと本題に入ろうとしたが、いきなりフォックスが名前を呼んだので驚きフォックスを見つめる

「な…なんだよ」
「お前、俺と居て、楽しいか?」

下を向いていたフォックスだったがゆっくりと目線をファルコに向ける
申し訳なさそうな様子のフォックスを見てファルコは意味が分からずハァ?と素っ頓狂な声が出る

「最近のお前がイライラしてる原因俺だろ?知らない間に俺…不機嫌にさせてるかも知れない今だってファルコに気使わしてることも分かる…ごめん」
「おいフォックス」
「無理して、嫌いな奴と一緒に居ることないんだ、無理矢理突き放してくれたって構わない、お前が望むなら俺は…」
「おい!フォックスちょっとまて!!」

フォックスを見ると顔がほんのりと赤く間違いなく酔っているのは確かだ、しかし雰囲気は逆にどんどん悪くなっていく
いつもの酔い方とは違う別の雰囲気にファルコは慌てて弁解し、さらに嫌ってんのはそっちだろと怒りを露わにした

「誰がいつテメェを嫌いつった!?」
「え…」
「むしろテメェがオレの事嫌いなんじゃねーのかよ!」
「そっそんなことない!!」
「っじゃあなんだよ最近のテメェの態度!あからさまに避けてんじゃねーかオレの事!」
「そっそんなつもりは!……っ」

ファルコの顔を見て酷くフォックスの顔が歪んだ、そして目を逸らして顔に手を当て下を向く。
ファルコには言いたい事が言えなくて悲しんでいるようにも見えた
あぁクソ、なんなんだよ
ガシガシとファルコは頭を乱暴にかき、ふぅーと息を吐いて気を落ち着かせる

「あのよ、オレ嫌なんだよこんな壁があるような中で仕事すんのは…一番最初によお前"隔たりなんか無くしてなんでも話せる仲になろう"って言ってたじゃねぇか、なのにこうなっちまってよ、正直なんか…寂しい…んだ」

背もたれに寄り掛かってファルコはポツリと零した。
ピクリとフォックスは身体を揺らす、何も喋らない

「こうなっちまったのはオレにも原因あると思うし、お前に言われたらちゃんと受け止めるよ、だからさ話してくれね?」

フォックスが恐る恐る顔を上げる、顔がもうすっかり出来上がっており頬や耳が真っ赤だ
うわーすげぇ飲ましちまったなとファルコは心の中で反省する

「分かった…言うよ」

ピクリと今度はファルコの身体が揺れる、何だかジッと目を見つめられ熱を感じる なんだ、この熱視線 ずいずいと前にフォックスが身を乗せてくる

「ファルコ」

久々に自分の名前を呼ばれた気がする、こんなに優しく囁かれたのははじめてだ
先程とは打って変わったフォックスの様子にファルコは少し身じろぐ、しかし何故か目が離せない
吸い込まれるようにフォックスの熱い目を見つめた


「好きだ」



好きだ

好きだ

頭の中で何度もフォックスの声がこだまする、仲間故の好きではない 愛情としての好きだと言うことはファルコでも分かった
こんな真剣に言われ、ファルコは何も考えられなかった、しかし半分パニックだったファルコはぽろりと口に出す

「…い…いつから…」

「出会って間もない時から…最初は気のせいだと思ったけど、違うんだ…お前を思うと胸が苦しい、ファルコ、好きだ」

ドクン

「ただ好きなんだ」

ドクンドクン

鼓動が速くなるのが感じる

「好きだファルコ」

顔が 熱くなる
見られたくなくてバッと腕で口を隠し横を向く
なんで、いや、これは酔ってるからだ、そう、そうに違いない、慣れてないから、そう、だからそういうあれじゃない

「ファルコ…?」

だから…そんな目で見るな…!

ダンッと財布もなにもかももたずに店から飛び出した、走って走ってついに息が苦しくなるまで走り抜き、息をあげながら路地裏につくと壁によっ掛かりずるずると下がり座って息を整える
そして猛烈に後悔した。

あぁ、やっちまった……逃げてどうするオレ、これじゃあ勘違いされてもしょうがない
グラリとうなだれため息を吐いた

"好きだ、ファルコ"

どうしても脳裏にあの光景が浮かび上がる
そして鼓動がまた速くなった

ちくしょう頼む…夢なら覚めてくれ…

フォックスはファルコが出ていった先をまだ見ていた。そしてふぅと一呼吸して前を向き力が抜けたようにテーブルに顎を乗せる

オレは散々逃げてきた

もう今度こそ絶対逃げない。

覚悟しとけよファルコ


そんなフォックスの気持ちも知らずにファルコは空を見上げる、辺りは暗く日が暮れかけている景色だった

これからどうしよう…


これが一番最初のお話である。


――――――――――――――――
フォックスの告白は直球ど真ん中ストレート


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