「初会」-3P

振り返るとすぐ目の前に彼はいて、いつになく真剣な表情でサングを見つめていた

「ロパ」

彼が不意に醸(カモ)し出す空気
得体の知れない存在感

サングは思わず怯んで不安を露わにした

「誕生日……教えてくれればいいのに」

他人の距離を感じるほど真剣な表情とは裏腹に、差し出し、口元に触れた指の動きは優しく、相手を怖がらせないよう、細心の注意が払われていた

「ご……ごめんなさい。でも僕、あなたに特別なことをしてほしいなんて思っていないよ。ただ日々を皆が無事に生きてくれることだけで嬉しいから、他には何もいらない」
「サングはそーだけど、」

ロパは予測できた彼の答えに眉目を険しくした

「祝うか祝わないかは俺が決めることなんだよねぇ」
「うん……」

サングは短く返して俯いた

「ごめんなさい、ロパ…怒った?」
「……」

慣れない不機嫌にサングは困惑した表情で彼を見上げた

「俺が?…おまえに?」

相手の戸惑いを察して、ロパは慣れた素振りで口を左右に吊り上げ、割った唇の間から白い八重歯を覗かせた

「何才になる?明日」
「20才だよ」
「あぁ〜、そうだった。サングは俺より年上なんだよな、一応」
「一応って…。僕ってそんなに頼りない?」
「いや。頼りないっていうんじゃなくて、この時代を生きるには、おまえは少々優しすぎるのさ」

ロパの顔が一瞬神妙さを帯びたが、すぐにまた、光るような穏やかな笑みを燈(トモ)した

「だから俺がいる」
「ロパ…」

サングの目が深い悲しみに揺れた

「わかってる…僕たちの背負った運命で、こんな気持ちはわがままだよね。だけどあなたに手を汚して欲しくないよ」
「俺は平気さ、伊達に生きちゃいないぜ」

あどけなさを残したロパの太陽のような笑顔が咲いた

「おまえをずっと守ってやる…任せときなって」

低く、特別な声で囁く

それから安堵と不安を纏(マト)ったサングの憂い顔をしばらく眺め、ロパは回した左手で彼の頭を胸元に引き寄せて軽くキスをした

その行いにサングは気付いたのか、または知らずじまいだったのか

「いい考えがあるんだ、明日はいい一日にしよう」

「…うん」

消えそうな小声でサングはそう答えて目を閉じ、全ての不安を遮断した

彼と一緒ならきっといい明日になると、そう思えたのである














第三者の語らい
「初会」
-終幕-
20100112
(加筆修正:20130430)


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