******櫂Side
勉強をするなという訳ではない。
玲と"おでかけ"したい為だという不埒な理由が許せないだけ。
そんな芹霞に勉強を教えてしまう俺も俺だけれど。
何でそこまで玲との"おでかけ"に拘っているのか。
これなら最終日、煌と邪魔しなければよかった。
芹霞は9割の点数を賭けて、"お試し"自体復活しようとしている。
何故だ?
俺なんて目にも入っていないのか?
芹霞の…単純すぎて複雑な思考回路が、時々よく判らないし、それ故に出口のない苛立ちを抱えることになる。
「あれ、今日は櫂だけ?」
「不服?」
「いや…そういうわけじゃないけど、よく皆が櫂を1人にさせたなって」
俺がねじ伏せただけだ。
その事実は黙って。
俺達は駅に向かう。
「ねえ…なんか久々だね、こうして休みに、2人で通り歩くのって」
何だか芹霞が嬉しそうだから、俺もついつい嬉しくなる。
「だけど…"嫉妬よけ"がいないから、かなり辛いわ」
俺が訝しげに周囲を見渡せば、黄色い歓声が流れる。
うんざりだ。
何処から湧いてくるんだ、いつもいつも。
「無視しろ。あれはただの浮遊霊だ」
「ひどっ!! ねえ、あたしさ…櫂の横に居るのがこんな女なら、文句言いたい気分も判るんだよね…」
「判る必要はない。お前は堂々としてればいい、俺の横でずっと」
俺は芹霞の肩を抱いて引き寄せる。
自覚して欲しい。
お前は俺が選んだ唯1人の女なんだと。
ふわり。
芹霞の甘い匂いが鼻孔を擽り、思わず目を細める。
「か、櫂!?」
「見せつければ、諦めるだろう?」
「だけど変な噂がたって、紫堂の名が傷ついたら…」
「玲がいる。風評くらい何とでもなる。というか、傷なんてつくわけないだろう、この馬鹿」
――と、恒例となりつつある…柔らかい頬を抓る。
「いひゃい、いひゃい〜」
"カモフラージュ"
そんなものじゃない、動機はもっと単純で。
とにかく芹霞と触れ合っていたいだけ。
手を繋ぐのもいいけれど、8年前までは毎日のようにしてきたものだから、それ以上のもっと大人びた…もっと親密な空気が欲しくて。
今更乍らの俺達は、こうした平穏な日常で、肩書きとは無縁の8年前のように、ただ純粋に抱き合って歩けるはずもなく。
ただ無償の愛があれば満足出来た8年前とはまた違う、何処までも見返りを求める狡猾な想いも育ってしまっているから。
イイ子でなんかいられない。
それくらい、お前を愛しすぎた。
しかし。
どんなに恋情が募っても、芹霞の空気が…最初からそうした展開に持ち込むことを妙に俺に躊躇させるから。
きっかけさえあれば。
スキさえ出来れば。
何処までも攻めこんでいく。
「あ、あのさ…まあ、女避けの為だと判っていてもよ、白昼こんな堂々と…こんなべったべった状態で歩くのは、"馬鹿ップル"くらいしかいないと思うの、あたし」
「そう思わせとけ。俺としては、まだまだ序の口だけどな」
そうして俺は、ぎこちなく歩く芹霞の頭にわざとらしい口づけを落としながら…芹霞に色目を使う、擦れ違う男達を睨みを利かせ、即座に退散させる。
大変なんだよ、お前と2人で歩くということは。
――気が抜けない。
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