大型書店につき、参考書のコーナーに行く。
椅子と机が用意されていて、購買しなくても自由に本を読めるらしい。
俺は芹霞の参考書と、目に入った雑誌、それから以前から世間で話題になっていた分厚い経営学の本を持って椅子に座った。
そして、経営学の本を見ていた時。
どさり。
凄い音がして、目を向ければ隣に参考書を山積みした芹霞の姿。
「あれ…櫂って、眼鏡なんかしてたっけ?」
「え? ああ…こういう細かい文字を見るときにはね。お前見たことなかったか?」
「昔は時々見てたけど…最近は全然」
ああ、そうだ。
8年前の俺は、眼鏡をかけているだけで近所の悪ガキに囃し立てられて、その度に芹霞が喧嘩するものだから、人前で眼鏡をかけなくなったんだ。
惰弱な俺には、眼鏡はからかわれる絶好の材料だったらしい。
芹霞がじっと俺の顔を見ている。
「……なんだ? そんなにおかしいなら…」
眼鏡を取ろうとしたら、芹霞に止められた。
「何か新鮮だなって。櫂は櫂なんだけど、櫂じゃないみたいで…なんかドキドキするね」
少し顔を赤らめた芹霞に…俺の方がドキドキしてしまって。
「由香ちゃんが、眼鏡は"萌え"のアイテムだって言ってたけれど、このドキドキは"萌え"なのかな?」
眼鏡…。
こいつの"萌え"ポイント?
何とも複雑な心境だ。
出来るなら、世界から"眼鏡男"を一掃したい。
そうしたら、このもやもやとした心は落ち着きを見せるかも知れない。
「お前が眼鏡姿がいいというのなら、ずっと眼鏡をしてようか?」
世界で俺だけがお前の"萌え"になるのなら、きっと俺は……。
「いや、時々見せてくれるだけでいい。ずっとしていたら、また櫂のファン増えるもの。そしたら本当にもう櫂とおでかけできないし」
「周りなんてどうでもいいだろう? 俺達は俺達だ。何を遠慮することがある?」
「櫂はそういうけどね…平々凡々な女には、紫堂の御曹司には判らない悩みってもんがあるんですよ」
なんだそれは。
芹霞はすぐ俺と線を引きたがる。
俺は、いつでも芹霞の側にいるというのに。
これからも。
どんなことがあっても芹霞を守っていけるよう、その為の紫堂財閥だというのに。
優先順位というものが、芹霞は理解していない。
「眼鏡姿は…あいつらとお前以外には見せない。それならいいか? それなら俺とでかけられるか?」
「そそんな真面目な顔して!!! 何、そんなにあたしとおでかけしたいの?」
俺の迫力にたじろいだ芹霞が、引き攣りながらそう軽く返してきたから、
「ああ、凄く。お前が玲とおでかけしたいと切望する程には」
その切り返しがくるとは思わなかったんだろう、芹霞は変な顔をした。
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