サジャエルに仕組まれていたこと

その夜、カルトルートは思い出していた。
レムズと出会ってから旅した日々のことを。
無口だったレムズが、実はあんなに子供っぽくて活発だったなんて。
思い返すと本当に笑いが込み上げてくる。

(‥‥相棒。僕、今度は一人で旅をしてみるよ。何処まで行けるかわからないし、目的もないけれど‥‥今まではお前の目的に着いて行くだけの旅だったからさ、今度は、一人で)

カルトルートは天井に右腕を伸ばし、拳を握りしめた。


◆◆◆◆◆

「じゃあ、お邪魔しました」

翌朝、フィレアの家の前でカルトルートはぺこりと頭を下げた。

「ううん、またいつでも寄ってね。その頃にはもう、ラズの家に住んでると思うけど」

フィレアが微笑みながら言う。

「本当に最後まで手伝わなくていいのか?中途半端だが」

カシルが尋ねた。
フィレアに頼まれて引っ越し作業の手伝いに来ていたのだが、まだ途中なのにニキータ村に帰れと言われたのだ。

「いいのいいの。せっかくリオちゃんが来たんだから一緒に帰りなさい。あっ!シュイア様もリオラも、またいつでも立ち寄って下さいね」
「ええ、ありがとうフィレアさん」
「ああ、またな」

リオラとシュイアは頷く。

「クリュミケールさんもカルトルートもね!カシルは置いて来ていいから」

ラズが言って、カシルが彼を睨み付けたが、ラズはそっぽを向いた。

「はは‥‥レイラにもよろしく」

肩を竦めながらクリュミケールは言う。

「アドルとキャンドルにもよろしくね。私とラズも落ち着いたら、またニキータ村に遊びに行くわ」

フィレアが言い、一同はしばらく談笑した後で、レイラフォード国を出た。


「さてと。私とカシルはニキータ村に帰るから、港町カネラに向かってファイス国行きかシックライア行きの船に乗るけど‥‥」

クリュミケールが言い、他の三人を見る。

「じゃあ、僕はこのままフォード大陸を巡ろうかな」

と、カルトルートが言った。

「そっか」

クリュミケールは少しだけ寂しそうに微笑む。

「私達はどうする?」

リオラがシュイアに尋ね、シュイアはしばらくクリュミケールを見た後で、

「途中までカルトルートと行こうか」

気を遣ってかそう言った。

「ニキータに寄って行かないのか?アドル達が喜ぶぞ」

カシルが言うも、

「ふふ、シュイアはアドルとキャンドルが苦手なのよね」

リオラがそう言うので、クリュミケールとカシルは不思議そうにシュイアを見る。

「だって、二人ともシュイアと正反対でしょ?クリュミケールの目を通して見ていたけど、あの二人は誰にでも真っ直ぐに接していく、光みたいだもの」

それを聞き、クリュミケールは思わず納得した。すると、リオラは微笑み、

「今回は、やっとあなたに会えて本当に良かった、クリュミケール」
「私もさ」

二人は笑い合う。
こんな風に、クリュミケールとリオラが共に在る姿を見ることになるだなんて、シュイアとカシルは今でも信じられない気持ちだった。
それから、クリュミケールはシュイアとカシルを交互に見て、

「シュイアさんとカシル‥‥レイラとフィレアさんは私のことをリオと呼んでくれるし、リオって名前は本当に親がくれた名前で、シュイアさんがくれた名前だったーーでも」

クリュミケールは澄み渡る空を見上げる。

「クリュミケールって名前は、シェイアードさんがくれた名前だけど‥‥リオはさ、名も無き彼らの世界に置いてきたんだ」

クリュミケールが何を言おうとしているのかがいまいちピンとこなくて四人は黙って話を聞くしかない。

「以前ラズから聞いたけど、クリュミケールって名前は大昔の小さな国の王様の名前らしい。平民の努力劇みたいな王様って言ってたかな。私に前へ進めって、運命に足掻いていけって意味で、この名前をくれたのかもしれない。それに‥‥クリュミケールとして生きたから、アドルに出会って、私はやっと、無知じゃなくなった。自分の意思を手に入れた。自分の思うがままに生き始めれた」

だから、と。

「どちらの名前も大切だった。でも、リオは本の中の世界で生き続けるんだ。だから、私はクリュミケール。ニキータ村のクリュミケール。これから先の人生、クリュミケールとして生きていく」

そう言って、クリュミケールは笑った。それを聞いたシュイアは小さく笑み、

「‥‥そうかーークリュミケール」

初めて、その名を口にする。それから、

「俺があの日から、リオという名でお前を縛っていたのかもしれないな」

シュイアの言葉を聞き、二人は何処かの森で出会った始まりの日を思い出した。だが、

『オレ‥‥いや、私は昔はリオという名前で、今はクリュミケールという名前なんだ』

クリュミケールだって、幼いシュイアにそう名乗ったのだから。

「サジャエルは未来のお前に出会った時、お前が不死鳥と契約していることに気づいていた。それから‥‥お前の細胞をリオラに埋め込み、リオラを女神だと思い込んだ。だが、リオラは死んでしまった。だから、サジャエルはお前の存在を思い出したんだ‥‥お前を、偽物の女神だと思い込んで。サジャエルはお前が不死鳥と契約する日を待ち続けた。そして、不死鳥の力を封印する機を窺い、お前をシェイアード達の世界に放り込んだ」
「‥‥」

そのことをシュイアの口から聞くのは初めてで、クリュミケール達は静かに彼を見る。

「サジャエルは俺に言った。死んだはずのリオラはお前の命と命を司る不死鳥の力を借りて生き返ることが出来るーーと。本当なら、お前がもっと大きくなってから契約させるつもりだった。だが、フォード国で俺がカシルと対峙してからお前との旅をやめた日を覚えているか?」

その問いに、シュイアとカシルが戦い、サジャエルが現れ、自分は気を失い‥‥ハトネからシュイアはどこかへ行ってしまったことを聞かされたあの日がすぐに浮かんだ。
クリュミケールーーいや、リオはあの日、はじめてひとりぼっちになったのだ。だから、よく覚えている。

「もしかして‥‥サジャエルの策、ですか?」
「ああ。お前が気を失った後、俺はサジャエルと会っていた。一度、お前から離れろと‥‥そして」
「俺、か」

シュイアに視線を向けられたカシルが頷いた。

「ロナスもサジャエルの手駒だった。ロナスはカシルの前に現れ、世界、すなわち神々を殺す計画を持ちかけた。それが、フォード国の惨劇だ」

クリュミケールとカシルは女王が死に、燃えていったフォード城を思い出す。

「全て‥‥お前を不死鳥と契約させる為に仕組まれたことだった。カシルもロナスに騙されていた。ロナスは全ての計画を知っていて、負け戦をしろと言われていたのだからな。だから、破滅神の遺跡で奴は倒されたフリをして逃げた。レイラがロナスに呪術をかけ、殺めたのも計画の内だ。全てが‥‥サジャエルの策だった」

クリュミケールとカシルは青い顔をして、お互いの顔を見た。
確かに、カシルはレイラが呪術をかけられていたことに驚いていたし、ロナスが一人で勝手な行動をしていることも多かった。
それに、ロナスはサジャエルからカシルを監視するよう頼まれていたという。
カシルはロナスとサジャエルが組んでいることは知らなかったが、

『奴は悪魔だ。魔術持ちの俺達とは違う。その力はまだ計り知れない。レイラに掛けた術から見て取れるように危険だ。それなら、俺の近くに置いてる方がまだ被害は最小限に済むと思っていたが‥‥』

と、ロナスの危険性と何か思惑があって自分に近づいていたということは気づいていた。
だが‥‥あの一件、どこからどこまでがサジャエルの計画かまでは、今まで知らなかった。


サジャエルの手により、リオはシュイアと旅をすることになる。

サジャエルの策により、シュイアとの旅は終わった。

サジャエルの策により、カシルはロナスと協力し、シャネラ女王を殺め、レイラとも協力関係となる。

サジャエルの策により、リオは力を求め、不死鳥と契約した。

サジャエルの策により、リオは本の世界で目覚め、シェイアードに出会い、不死鳥の力を暴走させ、不死鳥の力を封印した。

サジャエルの策により、シュイアに憎まれ生きていたことを知った。


「‥‥ふ。いくつかはわかっていたことだけど、そうか‥‥そんなに、ほとんどがサジャエルの策だったんだな」

でもーーと、クリュミケールは顔を上げてシュイアを見つめ、

「その全てが、私の意思だったと言い張りたい。私は私の意思で力を求め、不死鳥と契約し、シェイアードさん達と出会い‥‥そして、シュイアさんと出会った。カシルもカシルの意思で理不尽な世界を憎み、ロナスの計画に耳を貸した。でも、私達は手を取り合えた。サジャエルの策を越えて、今を生きている」

そうしておかしそうに笑い、

「紅の魔術師だけじゃなかったですね。シュイアさんもまだ、過去のことを気にしている。でも、こうやって今、話してくれた。だから‥‥シュイアさんとカシルとリオラと私の因縁は‥‥もう何もない。サジャエルはもういない。私達は自分の意思で生きていくんだ」

力強くそう言った。それから話に入り込めないカルトルートに振り返り、

「カルーも、だ。今更の真実に足を取られなくてもいい。何も変わらず接してくれたらいい。でも、君がニキータ村に帰ってくる日があれば‥‥私は一番に君を出迎えるよーー家族として」


◆◆◆◆◆

クリュミケールとカシルと別れて数分、シュイアとリオラ、カルトルートは途中まで旅路を共にした。

「クリュミケールは本当に強いわね。強いけど‥‥でもやっぱり、背負いすぎな気がするわ、一人で」

ぽつりとリオラが言い、

「そこだけは、変わらないかもしれないな。いや‥‥アドル達が、変えていくのかもしれないな、クリュミケールのことを」

シュイアはそう答える。
別れ際、クリュミケールは言った。

『今でも、父親や母親がどんなものなのかわかりません。幼い私にとってはシュイアさんが生きる世界でしたから。でも、シュイアさんとリオラが並んでいるのを見ていたら、寄り添う二人を見ていたら、こんなのを‥‥父や母と言うのかな、なんて、感じました』

その言葉を思い出し、

「私からしたら、私がクリュミケールから生まれたようなものなのに。おかしな話よね」

クスクスとリオラは笑う。

「だが、カルトルートは本当に良かったのか?クリュミケールと行かなくて」

シュイアに聞かれ、

「はい。僕もちゃんと頭の中を整理したいし、こうやって一人でいるのって初めてなんです。ずっとレムズと一緒だったから。だから、少しだけワクワクしているんです」

カルトルートはそう言って笑い、眼前に聳え立つ、今はもう何も住み着いてはいない死の山ーー不死鳥の山を見上げた。
【回想する者】イラホーの細胞を持ったアイムが暮らし、クリュミケール、そして恐らく父が不死鳥と契約した場所。

「じゃあ、僕はここで‥‥」

そう言ったカルトルートの視線の先を見て、シュイアとリオラは頷く。
二人と別れ、カルトルートは一人、自分の道を歩き始めた。


◆◆◆◆◆

「アドルとキャンドルが待ってるな」

クリュミケールが言い、

「そうだな」

と、カシルが相槌を打つ。

「昨日から割と真剣に考えてたんだけど」
「何だ?」
「カシルとレイラが結婚したら、私やアドル達の生活がかなり裕福に‥‥」

真面目な顔をしてクリュミケールが言うものだから、カシルは呆れるようにため息を吐いた。

「あはは。冗談だって。ほら、港町が見えてきた!早く行って船の時間を確認しないと」
「ところで、昨日、クナイ‥‥クレスルドだったか?奴が言っていたのは本当か?君が幸せになるのを重く感じてるとか、恋絡みの幸せは望まないとか。昨晩シュイアから本の話は聞いた。だから、リオという名前をシェイアード達の世界に置いていくなんて言ったのか?君の幸せだった日々を、置いてきたのか?大事なリボンも本も捨てて‥‥」

カシルに聞かれ、クリュミケールは首を横に振る。

「違うさ。本当に決めたんだ。皆で前を向いて生きるって。でも、前を向いて未来を見ると、今度はリオラのことを考えてしまって。リオラは‥‥いつまで元気でいれるんだろうって。昨日、初めてリオラと会って、ますます考えてしまってさ。いっそ、私のことを憎んでくれていた方が、楽だったよ」
「‥‥」

難しい問題だなとカシルは感じた。こればかりは気持ちの問題だ。

「でも‥‥」

クリュミケールは何かを言いかけたが、言葉を飲み込み、カルトルート達が行った道を静かに振り返る。それから隣を歩くカシルを見上げ、

「そういえば、こうしてカシルと二人っていうのも珍しいね」
「そうだな。いつも、アドルとキャンドル、村の奴らが一緒だからな」
「なんというか、今でも不思議だよ。カシルがさ、アドルやキャンドルと一緒にいるの。アドルなんてカシル兄さんとか呼んでるし。出会った頃のカシルからじゃ想像‥‥ん?何笑ってるんだ?」

ふと、カシルがくくっと笑っていることに気づき、クリュミケールは目を丸くした。

「いや、こっちの台詞だと思ってな」
「えっ?」
「昔の君の方が今よりずばずば思ったことを言えていたぞ。よく叫んでいたし」
「それは‥‥ってか思い出した!昔、ずっと私のこと小僧呼ばわりしてた!でも、いつの間にか呼ばなくなったな。それに、あんまりクリュミケールって呼ばれた記憶もない‥‥帰って来てからリオって呼んでくるし」

一体なぜという風にクリュミケールが目で訴えてくるので、

「いや‥‥さ迷いの森で見た君があまりに男の子にしか見えなくて、それからつい‥‥くくっ」
「ちょっ、おい‥‥」

笑いを堪えながらカシルが白状するので、クリュミケールは目を細める。

「すまん‥‥だが、俺も迷っていたのかもな。君をなんて呼ぶべきか。リオはシュイアから貰った名前だと言っていたからそう呼ぶべきかと思っていたが‥‥そうだな。あの日から君はもう、クリュミケールだったな」

と、幼き自分の前に現れた、あの日の剣士を脳裏に浮かべた。

「そうだな。私がカシルと初めて出会ったのはリオとしてだけど、カシルが初めて出会ったのはクリュミケールなんだよな。なんか、変な話」

そう言って、クリュミケールは小さく息を吐き、

「シュイアさんにはああ言ったけど、実際に聞いたら‥‥最初から途中まで仕組まれた道筋だったなんて。そう考えたらちょっとしんどいな」
「それを、シェイアードが救ってくれたんだろう?君を助け、ニキータ村に、アドルに引き合わせた。そのお陰で、サジャエル達は君を見失い、君は、クリュミケールとしての人生を歩み始めたんだ」
「‥‥」

リオはサジャエルの思惑によりシェイアード達の世界へ行った。だが、シェイアードは自分自身の意思を持ち、リオを助ける道を選んだ。
シェイアードとリウスが、自分を救ってくれたのだ。

「でも、カシルもだよ」
「?」

クリュミケールの言葉にカシルは不思議そうな顔をする。

『俺にあの話を持ちかけて来たのもロナスだ。だが、あの時は俺もそうだったのかもしれない。シュイアやサジャエルの都合のいいように世界が壊されるのならいっそ俺が‥‥そんな風に思ってしまっていた。昔、色々あったからな‥‥』

『お前が大切な友人を失ったあの遺跡は【破滅神の遺跡】という名の遺跡だ。かつて、紅の魔術師という者が作り上げたものらしい。生と死を握る不死鳥‥‥奴の亡骸をあの遺跡の祭壇に捧げていれば‥‥サジャエルは消えていた』

カシルは‥‥故郷を奪ったサジャエルに復讐する為に、危険とわかりつつもロナスに協力したのだ。
だが、成功していたら女神であるリオも消滅していた。後にそのことに気付き、カシルは自分の行動を悔いていた。
しかし、サジャエルの指示で動いていたロナスは最初から成功させるつもりはなかった。
フォード国の一件は、リオが力を求め、不死鳥と契約し、親友を失う為に仕組まれたことだったというのだから。

『なんで思い出してくれないんだ、なんで忘れているんだ‥‥なんでそんな幼い姿で‥‥現れたんだって‥‥理不尽に、悔しくなった。だが、当たり前だったな。俺はあの日クリュミケールに出会った。そして遥か遠い後の世に‥‥リオに出会った。俺を知らないお前に、俺は身勝手に裏切られたと思い込んでしまったんだ』

『フォード国でお前に聞いたな。『お前は、約束を守る奴か?』と。お前は、『約束はきっと、守るような奴』だと答えた。だからまだ、もう少しだけ、待ってみようと思えた』

それから更にカシルは十二年待ったのだ、クリュミケールのことを。
彼の行動を思うと、以前も言ったが、本当に損な役回りをしていると思う。
何も言わず、憎まれるような道を進んでも、それでも陰ながら助けてくれていた。
リオが‥‥クリュミケールがそれに気づいたのは、本当に遅かった。
それなのに、カシルはやはり何も言わず、しかし待っていてくれた。

「着いたな」

しばらく黙りこんだ後でクリュミケールが口を開こうとしたが、港町カネラに着いたことに気づく。カシルは乗船チケットを買いに行ってしまった。

次の出航はシックライア行きとのことで、出航までまだ時間があるらしい。船の中で待っておくかとカシルが言ったが、

「たまにはお茶でもしていこうよ。昔、ラズと一緒にお茶した店があるんだ。おいしかったなって思い出した」

と、初めてここに訪れた時をクリュミケールは思い出す。

「あいつと二人で?」
「そそ。ハトネやシュイアさん、カシルを捜す為にフィレアさんと三人で来てたんだけど。カシルとハトネがラタシャ王国でドラゴン倒したって日」
「‥‥ああ。そんなこともあったな」
「そういえばその時、ラズにシュイアさんとカシルのこと、恋愛対象としてどうなのって聞かれたんだよな。ふふっ、あの頃の私に聞いたって、そんなはずないのにね。なんであんなこと聞いたんだか」
「‥‥」

それを聞いたカシルは、ラズがクリュミケールに片想いしていたことを今でも本当に気づいていないんだなと、少しだけラズを憐れむような気持ちになった。
だが、それを考えると不思議になった。
ラズにロナス、ハトネ、シュイア、シェイアード‥‥

「君は意外にモテるよな」
「はあ?それはカシルだろー?レイラちゃんとか、村の女の人にモテモテのくせに。どこ行ってもカシルはモテるから、キャンドルこの前キレてたじゃん。『お前は見た目がいいし誰にでも優しいから勘違いされやすい』って!そういえば昨日、フィレアさんにも言われてたね。老若男女に優しくしすぎーって」
「好かれる為にしてるわけじゃ‥‥」
「ははっ、わかってるよ。カシルは素で優しいもんね」

クリュミケールはクスクスと笑い、

「初めて会った時、人見知りだった私に食べれる木の実と食べれない木の実を教えてくれたし、破滅神の遺跡でフィレアさんに向けた魔術をわざと外したし、私とレイラを抱えて助けようとしてくれたし、本の中までわざわざハトネと一緒に来てくれたり、神の遺跡でも‥‥。で、ラズとハトネと一緒に私を捜してくれたり、それからーー‥‥」
「昔にも言ったが、なんでそんなに記憶力がいいんだ」
「カシルだって。私と出会った時のこと、シュイアさんよりよく覚えてたじゃん。サジャエルが私の血を奪っていたのを覚えていたからこそ、誰よりも先に私が本物の【見届ける者】なんだって気づいてたもんね」

お互いにそんなことを言い合って、埒が明かないなと二人は苦笑する。
それから、クリュミケールには七年前からカシルにどうしても言いたいことがあったのだが、機会を逃して言えないままの状況が続いていた。
今ならそれが言えそうな気がする。そう思いながら、優しい彼の大きな背中を見つめた。



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