【救済の日】

「篠崎くん、おめでとう!」
「‥‥は?」

仕事も終わりかけの夕刻。
食器を洗い終えた時、それは唐突に告げられた。

「え、あの、宮内さん?おめでとうとは‥‥?今日って何か、ありましたっけ?」

ナギは満面の笑顔をこちらに向けてくるほのかを疑問げに見つめる。

「今日はね‥‥三月八日よ!」
「は、はぁ‥‥」
「何の日かわからない?」
「さっぱりです」

そんなナギの様子に、ほのかは呆れるように目を細め、はぁーっと、大きなため息を吐いた。

「なっ‥‥なんなんですか一体」
「今日はね‥‥じゃーん!」

と、大袈裟にそう言いながら、ほのかはナギが今しがた洗い終え、手にしたままの一つのティーカップを指差す。

「‥‥これが?」
「ほらっ、よーく見て!」

わけもわからないまま、促されるままにナギはティーカップをまじまじと見た。すると、カップの裏に何やら小さく文字が刻まれていることに気付く。
たまに、ティーカップに裏印があるものもあるが、特に気に止めることはなかった。

「り‥‥りーふ?」

【Relief-3.8-】という、謎の英数字だ。

「これは?」
「四年前のこの日に、とあるお客さんから貰ったものなの。ほら、昔は私と翔一だけで喫茶を建て直さなきゃって切り盛りしてて‥‥そんな時に『頑張ってね』って。わざわざそれだけの為に、このティーカップを取り寄せてくれたんだって」
「‥‥」

Reliefーー確か、救済と言う意味だったろうかと、ナギはぼんやり考える。

「‥‥その由来はわかりましたが、なぜ、俺におめでとうなんです?」
「だって、偶然とはいえ、篠崎くんがそれを手にしてたから‥‥なんだか、凄いじゃない?」
「はあ。そんなものですかね‥‥」
「‥‥もうっ!!篠崎くんはもう少し夢見勝ちになった方がいいわよ」
「男でそれは‥‥気持ち悪いのでは」

そこまで言って、まあ、確かに。ほのかには夢見勝ちな所があるのかもしれないなと、ナギは思った。
そう思うと、なんだか少しだけ可笑しく思えて‥‥
クスッと笑いながら、

「じゃあ、宮内さんも、おめでとうございます」

なんて言ってやれば、それまでぷんすかしていた彼女は目を丸くし、見る見る内に顔を赤く染め上げていき‥‥

「そっ‥‥それはちょっとずるいんじゃないかな!?篠崎くんっ」
「?」

◆◆◆◆◆

ギリィッ‥‥
喫茶ホノカの扉が壊れてしまうのではないかと言うぐらいに、彼は扉を強く強く、まるで憎しみまじりに握り締めていた。

「キョウマ様。自分達の出る幕はなさそうです、そろそろ帰りましょう」
「ぐっ‥‥テンチョーさんの顔をこの俺が拝みに来てやったって言うのに‥‥なんであの地味な一般人とちょっと良い雰囲気醸し出してんだよ!?」
「‥‥キョウマ様、おめでとうございます」
「あ?!」
「今日はキョウマ様の失恋記念日にしましょう」
「コロすぞ鴉!!!!!!!!」


・end・
【Relief★Congratulations four anniversary】

サイト四周年おめでとうございます!


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