幕開け
(遅くなったかな)
レトは街中の通りにある小さなボロ小屋ーーチョコ行きつけの雑貨屋の前に立っていた。
外にチョコとフユミの姿はなく、もう中に居るのであろうと思い、レトは寂れたドアノブに手をあてたが‥‥ーーバチィッ!!
「っ!?」
静電気か何か、そのような鋭い痛みに弾かれた。
「おやおや、これはーーどうやら歓迎されていないようですね」
背後でライトが言い、
「誰にだい?」
と聞くも、
「そんなの知りませんよ」
そう言われてしまう。
レトはため息を吐きながら目を細め、しばらくドアノブを見つめた。その様子に、
「代わりましょうか?」
ライトが聞けば、
「バカ言わないでくれよ」
と、レトは鼻で笑い、勢いよくドアノブを回した。
やはり鋭い痛みが走ったが、力任せにドアを開ける。
「無茶しますねぇ」
呆れるようにライトに言われたが、レトは眼前を静かに見つめた。ドアを開けたその先の光景に、一人と一本は、
「これは‥‥」
「おやおや」
意外だ、と言うような反応を示す。
ーーそれはまるで、闇。
全てが真っ黒な静寂に包まれた場所。
「雑貨屋?これが?」
レトは足元に目を遣る。
床なんてものは存在せず、足元も全てが闇で、まるで深い深い穴だった。
レトは右足だけ前に出す。
不思議と、闇の上を歩くことが出来た。
「なるほどね。しかしなぜ、こんな空間が‥‥?あれは‥‥」
状況を確認しようとしたレトだが、あるものを見つけ、
「フユミ君!?」
と、珍しく驚くような声をあげた。
どこまでも続く暗闇の道の先。同じく暗闇の床にうつ伏せになった状態のフユミが倒れていたのだ。
レトはフユミの方へ駆け寄り、うつ伏せになったその体を仰向けにして体を揺する。
息はしていた。しかし、何度呼んでも反応はない。
「一体、何が?‥‥っ!?」
急に頭に走った痛みに額を押さえる。
寒い寒い、真っ白な銀世界。脳裏にその光景が過る。そしてーー‥‥
「代わりましょうか?」
再び、ライトがそう声を掛けてきたので、
「馬鹿を、言うな」
呻くように、レトは声を絞り出す。
「‥‥あん、た」
その声にレトはハッと目を見開かせた。フユミの声だ。
「フユミ君!無事だったか‥‥一体、何が?チョコ君は?」
「‥‥ふふ」
そんなレトの質問に答えずフユミが苦笑したので、レトが疑問げにフユミを見ると、
「安心、したわん。あんたもそんな顔、するのねって‥‥」
「?」
フユミが何を言っているのかレトにはわからなかった。
フユミの見たレトの表情といえば、どこか冷めきっていて、そしてどこか、何かを諦めきっているような、疲れきっているような‥‥冷たい冷たい、雪のような表情だけだった。
しかし、理由はわからないが今は違う。
まるで、冷たい雪が溶けたような表情だ。
何に対してかはわからない。
恐らく、フユミに対してではない。
レト自身はそれに気付いていないのであろう。
「‥‥フユミ君。何があった?チョコ君は?」
再び質問をする。
「わかんないわ。なんであたし、寝てたのかしらん。でも、おかしいわねん‥‥力が、入らない」
フユミはそう言い、再び眠りに入りそうになったが、慌てて首を横に振った。
「チョコりんが‥‥奥へ奥へ行っちゃって‥‥あたし、追い掛けてたのよ。ここ、あの小さなボロ小屋なのに、なんでこんな空間なの?なんでこんな、どこまでも暗闇が続いてるの?でもま、どーでもいいわ。とにかく、チョコりんを‥‥見つけて来てよ」
「ああ、捜して来るよ。フユミ君は‥‥」
「チョコりんが、心配‥‥一緒に行きたいんだけど‥‥何かしら、ほんと、動かないのよ、体‥‥おまけに、すんごく眠いのよね‥‥ここが真っ暗だからかしらん」
「‥‥っ」
レトは再び額を押さえる。
「‥‥あんた、大丈夫なわけ?なんか、変よ?」
眠気のせいかなんなのか、フユミの声は弱々しい。その声音にレトの体は震えた。
「なーんか、今のあんた、頼りないけど、とにかく、チョコりんのこと、お願いよん。チョコりんに何かあったら、あんたを、恨むから、ね‥‥ランチもまだ‥‥済ませてないん‥‥」
その言葉を最後にフユミは目を閉じ、再び眠りに入る。
「おやおや、これはいけませんね。まるで、あの日の再来、でしょうか」
ライトが言うも、レトは俯いたまま、震えたままで‥‥
その様子にライトは小さくため息を吐き、
「代わりましょうか?」
三度目のそれを言う。その言葉がレトの体に熱を走らせ、
「お前の出る幕じゃない!」
あらんかぎりの声を絞り出して叫んだ。
「そう言うと思いましたーーが、今回は聞きません」
「!?」
ライトの言葉にレトは目を大きく開け、慌てて立ち上がる。
そして背中に背負った剣ーーライトを引き抜き、ガシャンと床に投げ捨てたが‥‥
「くっ‥‥!!」
身体中に重みが走り、立っていられなかった。レトはその場に膝をつく。
「やめろ‥‥私は、チョコ君の所に」
「レトさん。今の貴方ではこの先に進めないでしょう。動揺し過ぎです。ほら、簡単に私に力を奪われる。貴方は常に冷静でいなければいけませんのにねぇ?状況は酷似していますが、チョコさんもフユミさんも貴方とは無関係です。酷似を重ね過ぎてはいけません。苦しいことは全部、私に代わればいいんですよ。だから、たまには少し寝ていなさい」
レトは立ち上がろうとしたが、床に投げ捨てた剣がせせら笑うように言葉を紡ぐ。紡いで、自由を奪っていく。
(い、意識だけは‥‥)
意識だけは保たなければ、そうレトは思うも、
「‥‥う、ぐ‥‥くそ、くそっ‥‥!ちくしょう!‥‥」
悔しげに呻き、体も意識も、全て手放してしまった。
そして、白銀ーー。
それは冷たい光と共に現れ、ぐらりと揺れたレトの体を抱え上げ、口づけを落とした。
◆◆◆◆◆
「おかしいなぁ?ごめんね、お婆ちゃん。友達‥‥って言ってもいいのかな、その、友達と一緒に来たんだけど、おかしいなぁ?どこに行っちゃったのかな、フユミさん。あ!これ、新商品だよね!可愛いリボン!」
深い深い暗闇の先。
明るく楽しそうな少女の声が聞こえてくる。
こんな暗闇には似合わない声だ。
「ねえ、お婆ちゃん。決まった?snow・e・o・wの日に欲しいもの!え?まだ決まってない?じゃあ、決まったら絶対教えてね!」
少女は笑う。
嬉しそうに、幸せそうに‥‥
「欲しいもの、ですか。聞かれてもそう簡単には浮かばないものですよねぇ」
「ーー!?」
嬉しそうに、幸せそうに話していた少女の表情は固まった。
「だ、誰‥‥?」
少女ーーチョコはキョロキョロと辺りを見回す。しかし、誰の姿も無い。
ここには自分と雑貨屋の店主の‘お婆ちゃん’の姿しかない。
しかし、声は響く。知らない声。澄んだ青年の声。
「おやおや、可笑しいですね?貴女は一体、誰とお話しているのですか?こんな暗闇の中で。私には貴女の姿しか見えませんが」
「な、なに、誰なの?お婆ちゃん‥‥助けて!」
チョコは恐怖するように目を震わせた。
「おやおや、貴女にはこんな滑稽な空間が一体、何に見えているのでしょう?それはそれで気になる所ではありますねーーありますが、長々付き合っている暇もありませんし、本音を言えばやはり興味はありません。しかし貴女が闇を抱えているのは知っていました。レトさんは回りくどいですからねぇ、それを見ないフリして放置した」
レトの名前が出て、チョコは不思議そうな顔をする。
「だからまあ、私がレトさんの代わりに解決しておきましょう。そうした方が、レトさんも必要のないことに首を突っ込む必要ありませんから、ねぇ」
「‥‥ヒッ!?」
姿のわからない声。澄んだ青年の声。
その声が急に背後ーー否、チョコの耳元で囁かれた。
声の主の姿を捉える隙も与えられず、チョコの両目は手で覆われる。
とても冷たい、雪のような手。
「さあ、今からは私の出る幕です」
そうしてチョコは誘われた。
◆◆◆◆◆
幾つかの階段を降りた先。細く薄暗い路地の奥にある、比較的綺麗な建物。
その建物には看板が掛かっているが、しかし、地下にも似たこの場所に、人通りは全くなさそうだ。
その建物の玄関で、
「知らねえよ、そんな名前の奴」
ふわぁっと、大きな欠伸をしながらセンドは答えた。
「そーかー。目立ちそーなんだけどなー。んー、他にはー」
彼はうーん、と頭を悩ませる。
「特徴とか言ってくれればわかると思うんすけど」
そう、リドが言えば、
「特徴かー。んー、あー‥‥髪色は水色‥‥いや、青?黒いコート着てて、背中にいっつも剣を背負ってる感じのー‥‥目立ちそうなんだけどなー、うまいこと動いてんのかなー」
「‥‥それ‥‥」
彼の言葉にリドは物凄く姿を想像できてしまった。
「おー、リドっち、もしかして知ってる系?」
「あ、は‥‥うっ!?」
彼に聞かれ、「はい」と、リドは答えようとしたが、背中に鈍い痛みが走る。センドの拳だ。
「はう?って何?肯定?否定?リドっち、知って‥‥」
「知らねえなぁ、そんな奴。第一、オレらの目的とは関係ねえし」
二度目の欠伸をしながらセンドが答え、その隣でリドは口をパクパクと閉口している。
「うーん‥‥そっかー、知らないかー‥‥うーん、やっと手掛かりが掴めそうだったんだけどなー、この街で」
「で?そのレト?とかいう奴が何なんだよ」
「いやー、うーん、ちょっとねー、旧知でねー‥‥まあ、事情があって取っ捕まえたいんだけどねー」
「で、話は終いか?」
うーん、うーん‥‥と、首を捻ってばかりの彼を面倒くさそうに見てセンドが言えば、
「あー、いやー、ちょっと待ってー」
「待たねえ。見てわかんねえか、こちとら今日は非番だ、それにまだ早朝だ。朝っぱらから押し掛けて来るんじゃねえクソチビ」
「えー?あのー、センちゃん、上司にクソチビとかー、酷くないー?」
「その長ったらしい話し方も苛つく。ジジイかよ?とにかくこちとら非番だからこれで終了だ、あばよ」
ーーバンッ!そこまで言ってセンドはドアを閉めた。
「えー、あれー、酷いなー。部下に恵まれないなー。上司ってツライナー。仕方ないかー、自分で捜そう」
ドアの外側に居た彼は少しだけ困った顔をして、建物の前から立ち去る。
その彼が立ち去ったのを確認し、
「せせせ先輩!なんでですか!あの特徴、絶対、あのヘラ男ですって!名前までは知りませんが、絶対それしかないですって!」
リドが頭を抱えながら言えば、
「あのクソチビ上司自らが動くってこたぁ、厄介事だ。旧知かなんか知らねえが、そのレトだかレトルトだかを始末する気だろうよ、理由は知らねえが」
「別にいいじゃないですか言っても!後で本当は知ってることがバレたらどうするんですかー!」
「知らねえよ。第一、テメェの考えてる奴が、そのレトだかルトだかって確証はねえんだからよぉ」
本当に眠たいようで、センドはまた欠伸をした。
「それに、本当にあの坊主だとして、あの坊主にまだ珈琲の淹れ方聞いてねえし。それ以降なら別にどうなろうが構いやしねえが」
言いながら、センドは部屋の中に入って行く。もう一眠りするつもりなのだろう。玄関に一人残されたリドの心境は‥‥
(もうこの先輩ヤダッ!)
◆◆◆◆◆
「先生ー、チョコさんとフユミさん、今日も休みなんですかー?」
朝のホームルームでシェラが手を挙げ、担任のアネスに聞いた。
「ええ‥‥二人共、連絡がつかなくて。二人共、一人暮らしですし‥‥最近、街で暴動も起きているから心配ですね」
アネスは困った表情をし、
(二人の姿が見えなくなって、一週間ですし‥‥)
そう、二人が姿を見せなくなって一週間。
クラス内はとある噂で持ち切りだ。
『オカマ転校生のフユミと根暗チョコはデキてるんじゃないか』ーーなんていう、幼稚な噂。
下校時刻になり、ワイトは鞄に教科書を詰めていた。そこに、
「でも、不思議よね。あれだけイジメられても一応、登校してたリボンちゃんが一週間も無断欠席。しかもフユタ君も」
妙ねと、シェラが声を掛けてくる。
「どうでもいいって。来ないなら来ないで平和だし」
「まぁ、そうだけどー‥‥フユタ君、ちょっとタイプだったんだけどなー」
そう言ったシェラを、
(うわ、悪趣味‥‥)
と思ったが、口にはしなかった。
「さて、オレはもう帰るぞ」
「あっ、待ってよ」
気付けば、皆もう帰っていて、教室には二人だけだった。二人も教室を出ようとすると、パタパタ‥‥
何やら羽音がシェラの耳元を掠め、
「キャッ!?」
思わずシェラはその場にしゃがみこむ。
「な、なんだあれ?コウモリ!?」
そうワイトが叫んだので、シェラは恐る恐る顔を上げた。
黒い翼を持つコウモリみたいな何かが教室内をクルクル飛んでいる。
それから次に、ワイトとシェラの方に顔を向けた。
その顔に、
「コウモリじゃない!?目がバッテンだぞ!?なんだよあの生き物!?気持ち悪い!」
ワイトはそう叫ぶ。
コウモリみたいなまるっこい何かの両目はバッテンマークだった。
「やあ、君達からレトの匂いがするね。レトとは知り合いかい?」
「!?」
ワイトは思わず腰を抜かし、シェラはひきつった顔をする。
だって、コウモリみたいな何かが喋ったのだから。
◆◆◆◆◆
どれ程の時間が経っただろう。
真っ暗闇の中、レトは目を開けた。
上体を起こし、隣ではあの時のまま、フユミが眠っている。
レトはフユミの喉元に指をあて、呼吸していることを確かめた。
それからキョロキョロと辺りを見回し、
「いない」
と、眉を潜める。
剣だけが床に転がっており、ライトそのものが居なかった。レトは暗闇の中、立ち上がり、
(よくもやってくれたな。でも、ちょっと寝て、お陰で冷静になれた。一体、どれほど寝ていた?妙に体が重い‥‥)
そう思い、先の無い真っ暗闇の道を見つめ、
(何をする気か知らないが‥‥嫌な予感がするな)
そう、感じる。
◆◆◆◆◆
とある家庭での話。
「はい、誕生日プレゼント」
そう言って、両親はリボンで結んだピンク色の箱を手渡した。
娘は期待を膨らませ、リボンをほどき、箱の中身を開ける。
しかし、箱の中は空だった。
毎年、毎年、箱の中は空だった。
部屋の中には毎年ほどいたリボンがたまっていく。
寒い冬の日、家出をした娘はとある雑貨屋を見つけた。そこで‥‥
「あ‥‥あぁ‥‥」
チョコは頭を抱え、その場にうずくまっている。
その様に、彼は深くため息を吐いた。
「なるほど、やはりそうでしたか。なら、尚更です。貴女とレトさんを接触させるわけにはいきませんね」
姿のわからない声。澄んだ青年の声。
とても冷たい、雪のような声がそう言う。
「と言いますか、むしろこのままこの空間に置き去りにするか、もしくは跡形も無く消す方が手っ取り早いですかねぇ」
彼は言うが、チョコは答えない。
もはやその声はチョコに届いてはいない。
頭を抱え、震え、焦点の合わない目をカタカタと揺らし、チョコはうずくまり続けた。
その様に、再び彼はため息を吐き、
「そんなに不幸がらなくてもいいと思うのですがね。貴女が後悔したのならば、それはその程度のことーーそう思いません?レトさん。もう少し寝ていて良かったんですよ?」
笑い、嘲笑、冷笑、憫笑ーーその全てを向けられ、
「ライトさん」
と、その場に辿り着いたレトは暗闇を睨み付ける。
それから、闇の中、その場にうずくまり震えているチョコに目を向け、ゆっくりと近付き、彼女の傍に片膝をついて顔を覗き込んだ。
間近だというのに、チョコはまるでレトの存在を認知せず、焦点の合わない目をちらつかせ、小さく呻いている。
「チョコ君、何があったかはわからないが、ここはあまり環境が良くない。早く出よう。フユミ君も連れて、早く」
ゆっくりとレトは語りかけるかのように言うが、チョコは反応を示さない。
「チョコく‥‥」
「‥‥、‥‥」
「?」
すると、チョコが何かぶつぶつと言っているので、レトは首を捻った。
「お婆ちゃんが、お婆ちゃんが、そこで‥‥」
チョコはそう言いながら‘そこ’と称した場所を指差す。
しかし、そこは一面の黒、闇しかない。何も、ない。
「お婆ちゃんって、チョコ君が言っていた、雑貨屋の店主かい?」
レトが聞くが、返事はない。やはりチョコはレトを捉えておらず、一人でぶつぶつと言葉を発しているようだった。
一向に会話すら出来ず、立ち上がろうとしないチョコに埒が明かず、
「ライトさん。チョコ君に何をしたんだい?」
「さて、少しばかり彼女の記憶を見させて頂いただけでしたが‥‥レトさんも見たいんですか?」
声だけの主、ライトの言葉にレトは目を細め、
「‥‥馬鹿言え」
と、吐き捨てるように言う。
「悪いけど、他人の人生に興味はないよ。ただ‥‥あなたを野放しには出来ないし、あなたのその、他人のプライバシーを勝手に覗くやり方は嫌いだ。さっさと剣の中に戻ってくれないかな?」
言いながらレトはいつも背に背負っていた‘ライトさん’と呼んでいる剣を掲げた。
剣の刃に絡み付くように刻まれていた幾つかの赤い模様が消え去っている。
「戻っても構わないんですけどねぇ。ただ‥‥いえ、まあ、チョコさんに興味がないのでしたら、別に構いませんね」
と、ライトは一人何かを納得するように話した。
「じゃあ、いつまでも闇に溶け込んでないで姿を‥‥ーー!!」
その言葉の途中、レトはうずくまったままのチョコを庇うように覆い被さり、ーーギンッ!!と、短剣で何かを弾く。
「‥‥ナイフ?」
弾いたそれを見て、レトはぽつりと呟いた。
チョコを目掛けてどこからかナイフが飛んできたのだ。
「おー、まさか随分と昔に作ってたこんな罠に引っ掛かってるとはねー。一か八かで見に来て良かったよー」
ゆっくりとした、ボーッとした、眠たくなりそうな声が闇の中に響く。
レトでもライトでもチョコでもフユミでもない声。
「久し振りー‥‥って言っても、わかんないかなー。でも、やーっと見つけたー。まあ、君じゃなくてその剣の中身に用があるんだけどねー」
と、闇の中から足音が段々近付いて来て、レトはチョコを庇いながら身構えるが、
「子供?」
闇の中から現れたのは、十歳を過ぎた辺りであろう少年だった。
その少年はレトを見てニッコリと笑い、
「レトレト、相変わらずチビだねー」
と、自分の背の方が低いのに、少年はレトにそう言った。