語られる真実3

「ミルダに…マシュリくん。君たち二人は死んじゃったフェルサの意思を継いで復讐したいんだよね」

テンマは二人にそう言った。

「天長…って呼んだ方がいいのかな?」

皮肉めいたようにマシュリがテンマを見て言えば、

「あはは。名前なんてなんでもいいよ。テンマって名前だって、自分で勝手に付けたしね」

そう言ったテンマの言葉にジロウは首を傾げ、言葉の意味を問いたかったが…

「復讐はしたいさ。義姉さんが憎んだ魔族に、人間に。でも、君には関係ない」

低い声音で、テンマを睨みながらマシュリが言う。
それに、やれやれと言う風にテンマは肩を竦め、

「もし、フェルサが生きていたら…?もし、彼女が僕ら側に居たら…どうする?」

…そう、テンマはマシュリとミルダに微笑み掛けながら言った。

「…何を馬鹿なことを言っている」

それまで黙って聞いていたミルダが反応を示すので、可笑しそうにテンマは笑う。

「言葉のままさ。ねえ、ネクロマンサーくん?」

テンマがスケルを横目に見て言い、スケルはただ口元に弧を描いた。

「フン…気味の悪い人達だ。義姉さんはここに居るじゃないか」

と、マシュリは傍らに立つ影武者を指す。

「…私、先刻…人間界でフェルサさんに…会いました」

そこで、迷いながらもたどたどしくハルミナが言った。
当然、マシュリもミルダも驚くようにハルミナを見る。

「ハルミナさん…本当なの?」

と、ウェルが驚くように聞けば、

「はい…黒い影を、操っているようでした…」

ハルミナは頷いて答えた。そこで、マシュリが表情を険しくして、

「…モルモットごときが何を…」
「あなたが私をモルモットと呼ぶ理由を、なぜ魔界に落とされたかを…フェルサさん本人から聞きました。彼女が私の…そして…」


ハルミナはギュッと目を閉じ、それから恐る恐るミルダを見て、

「あ、あなたが…」

そこまで言い掛けたハルミナの肩にネヴェルが軽く手を置いて制止する。
――…無理に言う必要はない。
ネヴェルはそんな表情をしていた。

「ああ、本当だ。俺も見たからな。俺を見て懐かしい顔だと言っていた、本物だろうよ」

ネヴェルはミルダにそう言ってやる。

「じ…じゃあ、コレはなんだって言うんだ?!カーラが…カーラが義姉さんを殺したんだ!その場所にこの影武者は居たんだ!」

取り乱すようにマシュリは叫び、影武者の纏っているローブの右袖を捲り上げた。
そこから黒い影の、真っ黒な腕の形をしたものが現れる。
その腕の部位には、金色の腕輪が嵌められていた。

「それは…フェルサさんの…」

見覚えのある腕輪に、ウェルはそう言う。

「この黒い影は…初めて見た時から義姉さんの腕輪を付けていた!それにこの影武者は言葉を理解し、行動している!」

マシュリの証言に、しかし、テンマはニコニコ笑っているだけで…
何が可笑しいんだ…、そう苛立ちながらマシュリはテンマを睨み付けた。
そこで、

「それら全て、フェルサさんの策だとしたら?」

静かな声でスケルは言い、

「カーラさんという方に殺された…ように見せ掛けた。予め用意した黒い影に自分の腕輪を付けた。その黒い影を自分と思わせるように仕向けてきた…むしろ、彼女が操っていた…」
「そんなご都合主義…」

そう言ったマシュリの言葉を、次のスケルの言葉が消し去ってしまう。

「そう、私は彼女自身から聞きました。むしろ、私は彼女と協力関係にあります。黒い影を造る手伝いをさせてもらっています」
「……」

マシュリは目を見開かせ、その場で固まった。

「…と、言うわけ。ミルダにマシュリくん。君たち二人は僕らと来るべきだ。そうしたら、フェルサに会え…」

――カラン…

テンマの言葉を、そんな音が止めた。

「…ほらね?もう、演じる必要もないから消したみたいだ。彼女も会いたがってるみたいだよ」

と、テンマは微笑みながら床を指す。
影武者の中身…黒い影が急に消滅し、ローブだけが残され、腕に嵌まっていた腕輪が床に落ちた…

ミルダは腕輪を拾い、

「…俺達に何をしろと?」
「何も強要しないさ。好きにしてくれて構わないよ。ただ、一緒に居てくれたら色々捗るからさ」

テンマはそう言いながら、ミルダとマシュリの表情を確認する。

「決まりみたいだね」

そう言ったテンマの言葉に、その場に居る、話を聞いていた一同は理解した。

「まっ、マシュリ先輩!」

慌てるようにマグロは叫び、

「まさか、その人達と一緒に行く気なんですか?!」
「君には関係ない」
「せっ…世界を、壊すとか、冗談…ですよね?」
「君に関係ないよ、マグロくん」

関係ない、関係ない…
そう言われ、マグロは唇を噛む。

「関係なくなんかない。あなたはどんなになったって、オレの憧れなんです!だから、もう、行かないで…」
「…マグロちゃん…」

ウェルは心配そうにマグロの背中を見つめる。
マグロはマシュリの元まで動きたかった。
しかし、ミルダも居て…
そして、英雄と同じ程の力を持つと言うテンマ。
目の当たりにしなくても、彼の纏う雰囲気だけで力の差はよくわかる。

近付けば、簡単に殺されるか、もしくは他の者に危害が加わるかもしれない。
だから、マグロは動けなかった。
それが、悔しくて、俯いて涙を滲ませる…

「いい加減、先輩離れしたら?」
「お前…ほんまに最低な奴やな!!」

冷ややかにそう言ったマシュリに、マグロの代わりにラダンが叫んでやる。

「ミルダ。お前も頭を冷やしたらどうじゃ?今、世界は一つなんじゃ。世界を壊すと言うことは、もはや全てを壊すということじゃぞ?」

そう、ヤクヤが諭すような口調で言うも、ミルダは何も言わず…

「無駄だ、ヤクヤ。昔からだろう?天使の中で、そいつだけが特に話が通じなかった。何を言っても無駄なだけだ」

鼻で笑いながらネヴェルが言って。

「テンマ…」

もはや、ジロウには彼を止める為の言葉が見つからなかった。
何を言っても、恐らく届きはしない。だから、

「…オレ、守るよ。あんたが壊そうとするものを、オレは守るよ」

だから…思ったことを、ただ口にした。

「…守る、ね。そう言いつつも、君には力は無い。英雄の剣が完全でも、扱い切れないだろう?君には守れないよ、新米くん」

嘲笑うテンマに、しかし、ジロウは考える。

英雄の剣を護れと頑なに言った、守ってやれなかった魔族の少年…レイル。

魔界へ落とす時、そして、ここまで来るのにも助けてくれた、しかし、恐らく消滅してしまった英雄…リョウタロウ。

「約束したんだ。守るって。あんたとのケリもちゃんとつけるって。オレには天使や魔族みたいに戦う力は無いけど、なんでもすぐ諦めそうになったけど…」

トレジャーハンターをやり始めた時のことを、今はもう懐かしく感じながらジロウは言う。

「夢も、やりたいことも、もう中途半端にしない!諦めない!あんたがどんなに強くったって、オレはオレの出来ることをしてやる!」

そんなジロウの言葉を、マグロは自分自身に重ねていた。
テンマの異様な雰囲気を恐れ、マシュリを諦めそうになった自分の心を、今のジロウの言葉に叱られたような気がして…
マグロは目に溜めていた涙を拭い去る。

「なんでもいいよ。別にもう、君達の中に恐れるような人材もないから、好きになよ、新米くん」

それだけ言って、テンマは一同に背を向け、付き従うようにスケルが隣に並んだ。

「テンマさん!私もジロウさんと一緒に、テンマさんのこと、諦めませんから!!」

そう叫んだのはやはりカトウで…

「商人さん。新米くんはまだしも、部外者の君に言われる筋合いは…」

背を向けたまま、テンマはそこまで言い、

「私、私はっ!テンマさんが好きです!初めて会った時から好きでした!!だから、あなたのことをまだまだ全然知らないから、もっと話も沢山したいから!!ジロウさんと一緒に居るテンマさんはもっと大好きだから!!だから、私は絶対に諦めません!!」

胸を張って正々堂々と言う言葉が似合うような告白を、大人数が揃う広間でしてしまったカトウを見て、ジロウ、ハルミナ、ユウタはなんとなく気恥ずかしい気分になり、ネヴェルは笑いを堪えており、何が起きたのかわからない他の人達は目を丸くしており…

「あら。いいじゃない、そういう告白」

ただ一人、エメラだけがそう言って…

(あー…。エメラもカーラに今みたいな感じやもんなぁ…)

と、ラダンは納得する。

「……。……はぁ。何回でも言うよ?君も、新米くんも、本当に馬鹿馬鹿しいね」

と、テンマは何度目かのその台詞を吐き、

「まあ、精々、世界が壊れるまでの束の間の時間をゆっくりしててよ。君達には何も、出来ないだろうけどね」

テンマが言い終えると、黒い霧がテンマを中心に、スケル、ミルダ、マシュリを呑み込み…
四人は広間から消えた。


広間は静寂に包まれ…天長の玉座にも、魔王の玉座にも、王は居ない。

ジロウはようやく落ち着いた空間に息を吐くが、あることに気付いた。
天界と魔界の住人が睨み合っていたことに…

「…で、場は治まったがよ」

ラザルが言い、

「どこまでが味方なんだ?」

ムルが続ける。

「…一体何がどうなってるんです?」

マグロが首を傾げ、

「…そういや、ジロウの毒ってどうなったんだ?お前、さっきから平気そうだけど」

ユウタがジロウを見ながら言い…

「…実は、ちょっと気分悪い」

気が抜けたからか、よくよく見ると、ジロウは冷や汗をかいており、顔色も青冷めていた。

「ジロウさ…」
「バカ!!!」

慌ててジロウに駆け寄ろうとしたハルミナより先に、ナエラがそう声を荒げる。

「ばっ、バカってなん」

少しだけ苦しそうな声でジロウは言い返そうとしたが、ナエラの顔を見て言葉を止めた。
彼女は――…泣いていた。

「お前は魔界でのあの時だって無鉄砲だった!!戦えないくせに黒い影に向かって王子さま助けようとしたり!今だって殺されてたかもしれないんだぞ!それに、毒!!どうするのさ!?お前、お前はどれだけ心配掛けたら気が済むんだ、バカ!バカ!!」
「お、おい、ヒステリック女…?な、なにムキに…」

そんなナエラの様子を見て、種族関係なく、誰が見てもナエラの気持ちなんてあからさまにわかった。

「あ、あー、そうだ!カーラが言ってた!」

話を変えようと、思い出しながらジロウが言い、

「カーラですって?!」

エメラが驚き、

「…なぜ、ジロウさんの口からリーダーの名前が?」

ハルミナも目を丸くする。

「あ、色々あってさ、さっき会ったんだ。ハルミナちゃんのこと、頼むって。自分はもう…限界だからって。…でも、ハルミナちゃんに会わせてやるって、約束した」

そう、ジロウはへらりと笑顔を作って言う。

「り、リーダーが……限界…?」

ハルミナは放心するが、

「と……とりあえず、最高の治癒術者だっけ?その人なら、毒をどうにかしてくれるって…聞いたんだけど…」

そのジロウの言葉に、ハルミナ、エメラ、ラダン、マグロはウェルを見た。


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