ザクザクと、イオニルの村を出てから代わり映えのない雪景色の中をガジとラーラファは歩き、何度も「何も見えてこないね」などという会話を繰り返していた。
ラーラファも村から一度も外に出たことがない故、お互い目的地もわからないまま雪景色を歩き続ける。
なんとか気の遠くならないほどの時刻にようやく一つの村を見つけ、ガジとラーラファは二人で喜んだが…
「……寒いね、らーらふぁさん」
ガジが言い、
「そうか?私は寒さは平気だ」
と、ラーラファは答える。
そこは白銀世界から一転して、薄暗い倉庫の中。
それは、村に辿り着いてすぐのことであった。
この村の名前はまだ知らないが、村人達がよそ者であるガジとラーラファの姿を見た瞬間、驚きと、まるで恐怖も帯びた声が響き渡ったのだ…
わけのわからぬまま、ガジ達は村人達に薄暗い倉庫に放り込まれた。
厳重に外側から鍵を閉められ、内側からは開けられない仕組みになっている。
これは、あれだろう。
村を発つ前にラーラファが言っていた、
『私達人間は、生まれた地から外に出てはいけないと言う決まりがあるんだ』
確実にそれが影響しているのであろうとガジは思い、
「やはり、危険だったかな、すまないらーらふぁさん。私に着いてきたばかりに」
「大丈夫だガジ。こんな場所、抜け出そうと思えばいつでも出れる。壁の造りが脆いだろう?簡単に壊せそうだ」
「でも、それをしたらもっとマズイことになりそうじゃ……」
「大丈夫だガジ」
何が大丈夫なのか、本当に大丈夫なのか、ラーラファは自信ありげに何度も大丈夫だ、とガジに言ってのけるので、なんだかガジも、ラーラファならなんとかしてくれるのではないか、と思った。
ラーラファが立ち上がり、壁際に向かおうとした……のだが……
「あらん、お姉さん。ドアならこっちよー」
どこからか男……であろう声がして、ラーラファはピタリと立ち止まり、ガジも慌てて周囲を見回す。
だが姿がなくて…
「誰だ?顔ぐらい見せろ」
ラーラファが低く言えば、
「ちょっと待ってよ!怒らないでお姉さん。今、開けてあげようと…」
ガチャ――
「ほら、開いたでしょ!」
なんて言って。
開いたのは頑丈に閉めきられていた扉であった。
そして、その開けられた扉の先には、濃い茶の髪に明るい茶の目、土色の服に身を包み、頭にはピンクのバンダナを蝶々結びにしている青年の姿があった。
「あら、素敵なお姉さんに素敵なおじさんね。初めまして、私はイチカ。ピチピチの22歳よん」
青年……のはずだが、見た目は女っぽく、口調もなよなよしていて。
「なんだお前は。オカマか」
ラーラファは表情一つ変えずにそう聞くので、
(私もそれは気になったが…凄いならーらふぁさん。単刀直入に聞けて)
ガジは感心していた。
「まあ、失礼しちゃうわね!まあいいわ。あなた達って不法侵入者よね?」
イチカに言われて、ガジとラーラファは不思議そうに彼を見る。
「他所の土地から来たのよね?ってこと。ほら、私達って生まれた地から外に出たらいけないらしいじゃない?ま、私が生まれる前からある決まりだから理由なんて知らないけど」
イチカは続け、
「ま、あなた達の理由は追々聞くとして…ほら、行くわよ。今の内にここから出ましょ」
「え?!助けてくれるのかい?!」
ガジが驚いて聞けば、
「ええ。だって面白そうなんだもの!私の家で話をしましょ、見つからないようにコッソリとね!」
イチカはウィンクをした。
唖然とするガジとラーラファに、
「そうそう。ここはハナグサの村よ」
イチカはそう言った。
突如あらわれた謎の青年イチカに助けられ、ガジとラーラファは戸惑いつつも彼に着いて行くより他なかった…