青春の爪痕

9 当たり前のように二人は

 全ての中間考査を終え、また今日から部活動が解禁される。賢二郎はともかく私と太一は勉強の甲斐あって結構な手ごたえと共にテスト期間を終えた。私はひっそりと賢二郎の順位を抜かしたいと近年稀に見るかなりの時間を使ってテストに臨んだ。さて、何位なのか。

「おっす」
「はよ」
「おはよ〜今朝も会ったけどね」

 朝練を終えて制服に着替えた賢二郎と太一が本日二度目の挨拶を交わして、この時間帯でだいぶ減った掲示板の前へ行く。三年生は勉強の神様と謳われる男子生徒がやはりトップを独走していて、二位と12点差をつけて君臨している。これもある意味、才能なんだろう。
 凄いな、と感心しつつ二学年の掲示に視線を移して、

「あ」

 と、声が被った。
 視線の先には【11位 白布賢二郎 475点 12位 鷲谷紅花 469点】と貼りだされていて、6点差で、負けている。

「え、紅花ってこんな頭よかったワケ? 賢二郎に教えてもらわなくてよかったんじゃないの」
「いや、今回隠れて抜かそうと思ったんだけどやっぱりそう簡単にうまくいかないや」
「でも6点差はすげぇよ」

 太一の驚きと賞賛に照れながら先程から会話に口を挟まない賢二郎を覗えば、なんとも形容し難い表情をしていてびびった。え、顔怖いっすよ。

「ど、どうしたの」
「あー……いや、あーーー」

 らしくもない声を発してそのまま頭を掻きむしるように抱え、再度掲示物に視線を遣る。そこには変わりない順位と名前がある。どうすることもできず太一と顔を見合わせるが何もわからず、黙って賢二郎を見つめることしかできない。
 ふと一学年の順位を見て、鞄に入っているあるメモ用紙を思い出し取り出して照らし合わせるように名前を探す。入試と入ってからの学業成績維持は違う。この掲示に名前がある人で絞っていこう。

「萩沼優……萩沼優……げ、トップじゃん」

 早速見つけた名前の生徒が一学年トップであることに驚きを隠せない。
 それからも次々メモ用紙にある名前を見つける度に赤ペンで丸印を付けていく。

「マネ候補の添削?」
「あ、復活した?」
「復活も何も別に落ち込んでねえから」
「えっ? じゃあさっきのはなに」
「何でもないよ」
「いやいやいや、なんでもなくないでしょ」
「何でもないっつってんだろ」
「あるね絶対」
「お二人さん仲良しを発揮するのはいいんですけどHR始まるんですが」

 わけのわからない言い合いをしていると、真顔で太一に注意をされ微かに頬を引きつらせながら、自分の教室へ向かうために足を動かした。そうだ、着替え終えたらHRなんてあっという間なんだった……!
 チャイムと同時に教室に駆け込めばまだ担任は来ておらず、助かったと溢す。

「おはよー紅花」
「おは!」

 前の席で教科書の準備をしていた友人と挨拶を交わして「今日から部活解禁でしょ? お疲れ様」と労いを貰う。マネージャーは日々努力を惜しまない選手を支えているだけであって、本来その労いを貰うべき存在はバレー部員そのものであることはしっかり認識しているのだが、やはり他意のない労いは聞いていて嬉しいものだ。
 今日の授業は平常通りで四限のみ特別授業というかなんというか、比較的勉強が得意で一、ニ年のとき一度でも50位以内に入っている人は実習棟のB教室で、普通の生徒が受けるものとはまた違った授業が展開されるらしい。うちのクラスからは私と賢二郎だけだった。ちなみにこれは白鳥沢ができた頃から続けられている伝統みたいなもので、大平さんに聞いてみたところ「受けておいて損はないよ」とのこと。

「連絡として白布と鷲谷は四限、実習棟B教室に自習用ノートを持って行けなー」
「はい」


▽▽▽


「あ、牛島さんと大平さんだ」

 移動教室の友人と別れて賢二郎と実習棟へ歩いていると、目の前に同じ部活の先輩が見えつい名前を出すとあちらも気がついたようで「おお鷲谷、白布」と片手を上げている。

「おふたりも?」
「連続だ」
「ああ、まだお前らは知らないんだったな。この特別授業は2、3学年合同なんだよ」

 少し頭使うかもな、と忠告する大平さんに牛島さんが僅かに頷いているのが見えた。
 そういえば、スポーツもできて茶道も(いつだったか天童さんが言っていた)できて、さらに勉強もできるとか……使いたくない言葉だけど、本当に人間なのかな。賢二郎ちょっと嬉しそうな顔してる。ハイハイ牛島さん大好きだもんね。知ってる知ってる。

「……あ、すみません、ちょっと」

 いつもならブレザーのポケットに長い休み時間しか使用しない携帯に特別な着信音が漏れ、相手を確認して賢二郎たちを先に行かせるために声をかけたのだけれど、なぜか私を待つ様子で立ち止まっている。
 件名には『報告』とだけあり、首を傾げながらスクロールしていくと、

【 先月、青城と練習試合をしたんだが、勝った。
まあ主将の及川が終盤までいなかったという影響もあると思うんだけどな。だけど、少し光が見えてきた気がするよ 】

 青城? 青城って青葉城西のことだよね……? え、練習試合に勝ったって……。

「青葉城西に勝ったァ!?」

 脇目も振らず大声を上げたからか肩をビクつかせる生徒が見えたけれどそれどころではない。
 青葉城西といえばここ三年は確実に県内ベスト4に食い込み、白鳥沢と決勝でぶつかることの多い強豪校だ。一番と四番の阿吽の呼吸コンビネーションの完成度はひときわ目立っているし、リベロやそれ以外の選手の自力も強い。そんな彼らに、私のいとこは……大地は勝ったと言っていた。驚かずにはいられない。

「青葉城西に勝ったって?」
「あ、あっ、ごめんなさい……いとこからのメールで、練習試合のフルセットで青城を下したって」
「本当か、及川無しとはいえ青城に勝つ高校があるなんてな」

 怪訝そうに見つめる三つの視線に謝りながら先程のメールを要約して説明をする。

「鷲谷とそのいとこはいくつ離れてるんだ?」
「ひとつです、あっちが上で3年です」
「俺らと同い年か」

 返信はまとめて昼休みにすることにして移動を再開させながら話題はいとこの話となった。大平さんには五つ年下の弟がいるとか、牛島さんはひとりっ子だとか。部活中では聞けない話を四人でしながらB教室に入ると、中には既に席についている生徒が多数で、空いている席に座って先生を待つ態勢をとる。賢二郎が隣にいるのはなんだか不思議な感じだ。

「いとこって、もしかして男?」
「え? うん、バレー部のキャプテンだよ」
「ふーん」
「え、なに、不機嫌になるところあった?」
「別に」

 隣に座って筆記用具を取り出す男はなぜか不機嫌になっていて、原因がわからず首を傾げているとそれを視線だけで見たのか、

「……まあ、お馬鹿な紅花にはわからないよね」

 と、小馬鹿にしてきた。とりあえず、

「馬鹿で悪かったですね、すみませんね」

 微かにイラッときたのでこう返しておこう。たぶん昼休みには治っている。そういう間柄なのだ私たちは。とてもいい関係なんだと思う。

 でも、それだけでは満足できない私は、傍目から見たら欲張りなのだろうか。




執筆日:2018/11/01
公開日:2018/11/04
 賢二郎クン、いとこの存在に嫉妬する、の巻。あー、ね。小さい頃とか知ってるからね、そりゃ嫉妬しますね。表には一切出さないけど内心やばいことになってる。


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