23優しさの理由
『…ずっと、来れなくてごめんなさい。』
あの後テンゾウさんに連れてきてもらった場所
…それは三代目火影様のお墓だった。
本当はお世話になった方だから、すぐに来て挨拶をしたかった。でも、どうしても"コエ"の事があったから中々来る勇気がでなかったのだ。
その場にしゃがみ込み、目を瞑り火影様に心で問いかける。
(…火影様は、私の力をカカシさんから聞いていたんですね。)
本当だったら幽閉されてもおかしくなかったはず。それでも今こうして私がここに居られるのは、きっと火影様とカカシさんのおかげなのだろう。
(火影様…私はこの里にいてもいいのでしょうか…?)
きっとこの"声"の力は…心のコエを聴く力よりも遥かに危ないものだ。この力はなんなのか、なぜ急にそんな事ができるようになったのか。この"声"の事を自身でもわかっていないのに、果たして私はこの里にいてもいいのだろうか…
閉じていた目を開き、ゆっくり立ち上がる。
木々が風に揺れ、葉が音を響かせる。そこに鳥の囀りも合わさり、まるで葉音に乗せて歌を歌っているみたいだと思った。
(……私も、歌いたい。)
空を見上げ、この世界の空気や風を肌で感じる。そして小さく息を吸い、想いを乗せるように声を紡ぐ――……
『―――………』
…しかし、自身の口からは空気が漏れるだけだった。
歌を歌いたいという気持ちは大きくなるけれど、どうしても恐怖心が拭えない。不意に今まで後ろで私を見守ってくれていたテンゾウさんに声をかけられた。
「……まだ、怖いですか?声を出すのが。」
『…怖いです。だってまた…人を傷つけてしまいそうで…。』
彼はカカシさんの他に、唯一この"声"が起こした出来事を目の当たりにした人物だ。
(…だからきっと、テンゾウさんも心ではこの声が出ない方がいいと思ってるかもしれない。)
しかしそんな私の思いとは裏腹に、彼は静かに話し始めた。
「その"声"の力は…正直ボクもどういった状況下で事が起こるのかわかりません。でもきっと名前さんが"それ"を望まなければ大丈夫なんじゃないかと思ってます。」
「それに貴女の声を、歌を待ってる人がいる…ボクも含めて。それだけは忘れないで欲しいです。」
こちらをまっすぐ見据え、温かい言葉をかけてくれるテンゾウさん。そんな彼を見て胸に熱いものがこみ上げてくる感覚を覚える。
『…っ、なんでそんなに優しいんですか…!』
気付けば、涙が頬を伝っていた。
あれだけ強くなると言ったのに、すぐにそれは目からこぼれ落ちる。また泣いている私を見て、きっとテンゾウさんは呆れているだろう。
涙が止まらず俯き黙っていると、彼がこちらに近づいてくる気配が感じられた。そして私の目の前にくると以前と同じように頭にポン、と手を置いてくれて。
「なぜ優しくするのか…そんなの理由は一つしかないですよ。…今まで先輩に遠慮してたんですけどね。でも、ボクも男ですから。」
その言葉に顔を上げようとした瞬間、頭の上にあった手が後頭部に回りそのままグッと引き寄せられ、気付いた時にはテンゾウさんの胸の中にいた。
―――途端、顔に熱が集まるのを感じる。
『あ…っ、あのテンゾウさ「…まぁでも、先輩が意識がない時に言うべきじゃないか。」
そう自分の中で何か納得をすると、すぐに身体は離れていった。
それは本当に一瞬の出来事だったけれど、未だ熱が引かない顔に手を当てテンゾウさんを見上げる。
『えっと…あの、なんで…』
彼は面の奥にある目を細めると「…さぁ、何故でしょうね」とはぐらかし、そろそろ帰りましょうか、と言葉を続けた。
私はそれ以上聞いてもきっと何も答えてくれないだろうと判断し、心臓の音を落ち着かせる為少しだけ深呼吸をしてから、テンゾウさんの後を追った。