23優しさの理由

(prev | next)

  


あの日から2週間が経った。

カカシさんは未だ目を覚さず眠ったままだ。
それでもいつか意識を取り戻してくれると信じて、私は自分のやるべき事をしながら日々を送っている。


そんな中―――――………



『………聴こえないです。』



その言葉に、目の前にいるアスマさんと紅さんの表情が明るくなる。

「本当…!?名前、じゃあこれで"コエ"を聴こえないようにする事は完璧に出来るようになったってことかしら!」

「それにお前の"コエ"も伝わらないように出来るから…これで外出しても問題なさそうだな。」

『本当にありがとうございます。これも皆さんが協力してくれたおかげです。』

そうお礼を伝えると、2人は優しく微笑んでくれた。そんな2人を見て今まで気になっていた事を問いかける。


『…でも、皆さんなんで私の力をそんなにすんなり受け入れてくれたんですか?普通もっと気持ち悪がったりすると思うんですけど…。』



私の言葉にアスマさんはきょとんとし、暫く考える仕草を見せた後口を開いた。


「…たぶん、あれだ。この里にも同じような事が出来る奴がいるからだな。」

『……え!?そんな事出来る人がいるんですか!?』

「まぁ名前と違ってチャクラも印も必要だがな。ほら、俺の班のいの知ってるだろ?あの山中一族が似たような能力持ってんだよ。」

それを聞き茫然としていると、紅さんが更に言葉を続ける。

「それに、この世界にはまだ色々な能力を持っている人もいるだろうから。だから名前のその力を知って驚きはしたけど、気持ち悪いなんて思ったりはしないわね。」


まるで何でもないかのようにそう話す2人を見て、ある考えが思い浮かぶ。


(この里に同じような事ができる忍の方がいるなら…もう少しこの力をコントロールして、私もこの里の役に立てる事はできないのかな。)


そう例えば…ある一定の人にだけこの"コエ"を伝えたりする事ができれば……。


そう思い、ダメ元ではあるが試しにやってみようと目を瞑り意識を集中させた。


「……?名前、何してんだ?」


アスマさんの問いかけに答えることなく、意識をある人物に寄せる。
心に思い描くのは家の外で護衛をしているテンゾウさんだ。


(…テンゾウさん、もしこの"コエ"が聴こえたら少しベランダに降りてきてもらってもいいですか?)


すると、そのコエが伝わったのだろう。
ベランダにテンゾウさんが現れ、コンコンと扉をノックした。

いきなり現れたテンゾウさんを見て、アスマさんが不思議な表情をしながらベランダの扉を開ける。


「どうした?何かあったのか?」

「いえ、名前さんに呼ばれたので降りてきただけですけど…。」


その言葉に、アスマさんと紅さんがこちらを凝視する。


「名前、今私たちには貴女の"コエ"は聴こえなかったのだけど…まさかテンゾウにだけ呼びかけたの?」


私自身うまくいった事に驚きを隠せなかったが、紅さんの問いかけに素直に答えた。


『はい。まさか1度で上手くいくとは思っていませんでしたけど…。でも、この力をもっとコントロールできれば皆さんの…里のお役に立てれないかと思って。』


そう伝えると急にアスマさんが真剣な表情になり、私の目の前に座ると静かに口を開いた。


「……名前、その考えは今すぐ捨てろ。お前がわざわざ里の為に何かをする必要はない。
…いいか、お前はあくまで一般人だ。だからその力を使う事を考えるんじゃなく、その力を使わないよう努力してくれ。…それが名前のすべき事だ。」


真剣な表情で私に語りかけるアスマさん。
近くにいる紅さんとテンゾウさんは言葉を発さず、ただ静かに私たちを見つめている。


本当は、皆さんの役に立ちたい。
こんなに良くしてくれているのだから、何か恩返しができればと思った。
でもアスマさんのその真剣な表情にそれ以上何か言う事もできなくて。


『……わかりました。』


小さなコエで、その願いを聞き入れた。
目を伏せ俯く私の頭を、アスマさんがクシャリと撫でる。


「まぁ、お前のその気持ちだけ受け取っとくよ。ありがとうな。」


顔を上げるとアスマさんが笑顔で私を見つめていて。その表情を見て、やはり自分にも何かできる事はないかという気持ちが膨れ上がる。

その想いを察してくれたのだろう、紅さんの優しい声が聞こえた。


「……名前にできる事があるとしたら、また歌を聴かせてくれる事かしらね。早く貴女の"声"が聞きたいわ。心の"コエ"じゃなく…口から紡がれる声をね。」

「あぁ、そうだな。俺もまた名前の歌が聴きたい。」



(……歌を唄う事で皆さんが喜んでくれる……)


それは今までだったら嬉しい言葉だった。
でも今は…声を出すのがあまりにも怖い。

また、人を傷つけてしまいそうで……


「じゃあ俺と紅はこの後任務があるしもう行くな。テンゾウ、後は頼んだ。」


"声"の事を考え気持ちが沈んでいたが、アスマさんのその言葉に我に返った。

あの事件があってから、木ノ葉の里は忍不足が深刻化している。なのでアスマさん達は忙しい任務の合間を縫って、こうして私の元へ来てくれていた。


『これから任務なんですね…!あの、お忙しいと思いますし今後無理に来なくても大丈夫なので…』


玄関へ向かう2人の後を追いそう告げるも、2人は「無理なんてしてないよ」と笑顔で答え、そのまま任務へと向かっていった。


(……本当に、ここの人達は優しい……)


そんな人たちに何もできない自分がもどかしい。私には、何もできない…何も―――――


「……名前さん」


突然背後から声をかけられ、ビクッと肩を揺らす。振り向くとベランダにいたテンゾウさんがいつの間にか家の中にいた。


『テンゾウさん、どうしました?』

「いえ…"コエ"を聴こえないようにする事ができたのであれば、少し散歩でもしてきたらどうです?もうずっと家にいますし、気分転換にもなると思いますよ。」


その言葉に、テンゾウさんが私を気遣ってくれているのが分かった。きっと、何もできないと思い悩んでいるこの気持ちにも気付いているのだろう。


『…そうですね、久しぶりに外に出てみようかな。…あ、テンゾウさん!』

そうコエで伝えていた時、ふと行きたい場所が頭をよぎった。


「どうしました?」

『あの、連れて行って欲しい場所が――…』



 next (1/2)
[back]
- ナノ -