22止まらぬ時間、離れゆく距離

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あの後家に帰ると、散々アンコさんに叱られた。

それでも私が"これからはもっと強くなる"と伝えると満面の笑みを浮かべ私の頭をクシャッと撫で、「よく言ったわ、偉い!」と褒めてくれて。紅さんとアスマさんも優しい眼差しを向けてくれた。

そして私が出て行った後の事を、アスマさんが教えてくれた。

私が家を出た後、サスケくんが来たこと。
そしてナルトくんを狙っているという人はサスケくんの実の兄であり、彼が復讐したいと思っている人だということ。

その事を聞いたサスケくんが家を飛び出し、慌ててガイさんが後を追ったということだ。


『サスケくん…大丈夫でしょうか…』


「なぁに、心配することはねぇよ。アイツは強い…それにガイだっているんだ。名前は、自分の事だけ考えていればいい。」


アスマさんのその言葉に少しだけ安心し、彼に笑みを返した。
そうしてその後、時間も遅くなってきた為今日はもう解散することになったのだけれど…カカシさんがこんな状態の為夜の護衛も引き続きテンゾウさんがすると言い出したので、その申し出を頑なに拒否した。


「でも名前さん、それじゃあ夜の間に何かあったらどうするんです?それこそ先輩が悲しみますよ。」


そう言われるも、そこまで負担をかけるのは申し訳ない気持ちでいっぱいになる為首を振って拒否の意思を伝える。
暫くそんな攻防が続いたが結局折れたのはテンゾウさんで、窓と玄関の扉に結界を張り、次の日また来た時に解除するという条件で同意してくれた。


「…それじゃあ名前、また来るから。カカシを頼んだわよ。」


そう言う紅さんとアスマさん達に、笑顔を向け見送る。玄関の扉がバタン、と閉まる音と共に訪れる静寂。暫くその場に佇んでいたが、踵を返し部屋の中へ足を進める。
そして静かに寝室の扉を開け、ベッドの縁に腰を下ろした。

『…………』

目を覚さない彼を見つめながら、これからの事を考える。


(……心を、強く……)


そうテンゾウさん達に誓っても、すぐに強くなることなんてできなくて。
彼がこのまま目を覚さなかったらどうしようという、焦りと不安の気持ちが心を覆い尽くす。


その時ふと、今日アンコさんに言われた言葉を思い出した。


――――――・・・・


「…忍はいつ死ぬかわかんないからね。
後悔だけはしないでよ。」


――――――・・・・



(………後悔しないように……、)



……それは、殆ど無意識の行動だった。

左手をベッドにつき、もう片方の手を彼の頬へと伸ばす。少しだけ彼の方に重心をかけると、ベッドがぎしりと音を立てた。


そして頬を指でなぞりながら―――


『―――    ………』
『―――好きです………』



それは自然とこぼれ落ちた。
声にはならなかったけれど、心の"コエ"として、驚くほど自然に。

しかしすぐにハッと我に返り、彼から手を離しベッドから立ち上がる。


(……わ、たし……今なんて……)


口元を手で覆い急いで寝室から出て扉を閉めると、深く深呼吸をし気持ちを落ち着かせようとした。


(……っ、蓮を裏切っちゃいけない……!)


しかしそう思えば思うほど、先程の想いが溢れて止まらなくなる。


彼に触れたい。


もっと一緒にいたい。


できるなら、1番近くに――――……



『……〜っ!』



…止まったままだと思っていた時間は、着実に進んでいた。
そして変わらないと思っていた蓮との距離が少しずつ離れていっているという事も―――


だけどもう少し…
もう少しだけ気づかないフリをしよう。


きっともう…"サヨナラ"を告げるその時は、
すぐそばまで来ているから。



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