22止まらぬ時間、離れゆく距離

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***


あの高台での出来事から5日が経った。

この5日、カカシさんがいない時はアンコさん達が代わる代わる訪れ他愛もない話や力のコントロールの練習等に付き合ってくれている。

私はこの力を理解してくれた事が心の余裕に繋がり、少しずつではあるが"コエ"を聴こえないようにする事もできるようになってきていた。


「…な〜んか、もっと時間かかると思ってたけど案外余裕でコントロールできそうね。完璧に聴こえないようにできる日も近いんじゃない?」


お茶を飲みながら、そう話すアンコさん。

今日は偶然休みが重なったアンコさん、紅さん、アスマさんが家に来てくれている。
カカシさんはサスケくんと用事があるとの事で出かけていた。

そして今はアンコさんがお団子を食べたいと言ったので、その買い物に紅さんとアスマさんが出掛けた為2人きりだ。


『そうですね、元々聴こえなくする事は出来ていましたし、案外コツを掴んだらすんなりいけそうな気がしてきました。』



そう、コエで伝えお茶を飲んでいると、じっと見つめてくるアンコさん。


『………?』

「……アンタ、カカシの事どう思ってんの?」

『―――っ!?』


唐突に投げかけられた質問に、危うく飲んでいたお茶を吹きそうになった。


『へ!?ど、どうとは!?』

「とぼけんじゃないわよ。好きなんでしょ?カカシのこと。」

『す…好きとか、そういうのではないです…大切な人ではありますけど…』

戸惑いながらもそう答えると、アンコさんは盛大に溜息を漏らした。


「…まぁアンタの事だから、またグダグタ考えて踏み切れないのかもしれないけど。…でもこれだけは言っとくわ。」



「…忍はいつ死ぬかわかんないからね。後悔だけはしないでよ。」


先程よりも真剣な表情で私を見据えながら発せられた言葉に、鼓動の音が早くなる。

"忍は死と隣り合わせ"…以前カカシさんから聞いた言葉が蘇る。


と、その時。



――――――ドンッドンッ


玄関の扉を強く叩く音が響き、続いてガイさんの声が聞こえた。


「名前さん!!開けてくれ!!」


いつになく焦った声で私を呼ぶ彼に違和感を覚える。


「なんでガイがくるのよ……ん?ちょっと待って……私が出るわ。」


アンコさんが何かに気付いたような声を出し、玄関の方へ向かい鍵を開錠し扉を開けた。


「……っ!?何があったのよ!!なんでカカシが……っ!!」


その声色に、言葉に、背筋に冷たいものが走る。

急いで玄関へ足を進めると、そこにはカカシさんを肩に担ぎ険しい表情をしたガイさんが立っていた。

その後ろにはアスマさん、紅さんも同じ表情でこちらを見つめている。


『……カカシさん……?』


彼に向け小さくコエを伝えるも、反応はなくて。


「名前さん、まずカカシをベッドへ運ぶ。…説明はそれからします。」


そう言葉を発し寝室へと足を進めたので、自身も震える足でその後を追いかける。
そして彼をベッドへ下ろしたガイさんに、痺れを切らしたアンコさんが声を荒げ問いかけた。


「で、何があったのよ!?カカシが…なんでカカシがやられてんのよ!」

「……イタチだ。奴がこの里に来ていた。狙いはナルトみたいだが…奴らの口ぶりじゃまだナルトを見つけていないみたいだった。」

そこまで言い終え、ガイさんが視線をこちらに向ける。

「…名前さん、カカシは今術による精神的ダメージを受けています。…正直、いつ意識が戻るかわかりません。」



……何を言われているのか、すぐに理解できないでいた。
でも、次第にその言葉が頭の中へと浸透していく。



―――"いつ意識が戻るかわからない"―――



『………っ……!』



―――途端、恐怖心が全身を駆け抜けた。



『…イヤ、カカシさん起きて…!
目を覚まして…ねぇ、カカシさん…!!』



寝ている彼の手を握り、必死に"コエ"を伝える。
…しかしいくら呼びかけても彼はピクリとも動かない。


(……いや、いやだ…こんな……)


もし彼がこのまま目を覚さなかったら…
私はまた…置いていかれる―――


『……っ!!』

「…!?名前待ちなさい!!貴女どこに行くの!?」

紅さんの制止を振り切り、玄関の方へ走りだす。

「……ったくあの子は…!「アンコさん、ボクが追います。」

後ろから聞こえてきた声を無視し、そのまま家を飛び出した。











そのあと走って、走って辿り着いたのは…いつもの公園。走ったことで上がった息を整えようともせず、その場に座り込み涙を流した。

(……怖い……っ、また失うの…?)

蓮みたいに、また突然いなくなってしまう。
いやだ…そんなのもう見たくな―――



「……ずっと泣き続けるつもりですか?」



背後からした声にビクッと肩を揺らす。ゆっくり振り向くと、そこにはテンゾウさんが立っていた。


『……なんですか…?』

「そうやって、泣いてばかりでいいのかって聞いてるんです。」


その言葉に、ついカッとなってしまった。



『…っ何も知らないくせに…!私の事、なんにも…っ
「えぇ、知りませんよ。」

「貴女が過去何を失ったのか、どんな人生を歩んできたのかなんてボクにはわからない。」

言いながら、テンゾウさんは私に近づいてくる。

「それでも…これだけはわかります。カカシ先輩は貴女をとても大切に想っている。そして…何を犠牲にしてでも守ろうとしていることも。」


……何を犠牲にしてでも……?

その言葉に疑問を抱いていると、テンゾウさんが再度口を開いた。


「……貴女には、心の"コエ"を聴く他にもう一つ力がありますね?」

それを聞いた瞬間、鼓動の音が早まる。


『……な、何を
「ボクはあの時、貴女と先輩の近くにいた。」

「……そして、貴女の"声"が起こした出来事もこの目で見ています。」

『………っ!!』


途端、あの時の光景がフラッシュバックした。


『…ご、ごめんなさ…っ、私――
「あの事を責めてるんじゃないんです。」

口元を両手で押さえ蹲る私の前に来て、テンゾウさんが言葉を続ける。

「あれは不可抗力だった。名前さんが気に病むことはありません。……でも、」

「その力は里にとって…いえ、この"世界"にとって脅威になるものだ。本来ならばすぐに上へ報告し、貴女を今後どうするのか決めなければいけない。でも先輩はそれをせず、ボク達にすらその力の事を話さない。…何故かわかりますか?」

『………?』


顔を上げテンゾウさんを見ると、こちらを真っ直ぐ見据え小さく呟いた。


「…貴女が幽閉される可能性が高いからです」


―――"幽閉"―――


その言葉に、身体が恐怖で震えるのを感じた。


「…でも精神が不安定な貴女がそうなれば…今度こそ貴女は壊れてしまう。先輩はそれを何としても避けたかったんでしょう。…それがたとえ、里の掟に背くことになっても。貴女を常に第一に考え、守っているんですよ。」


(……里に背いてでも、私を守ってる……)


そんなカカシさんの想いを初めて知り、止まっていた涙が再度溢れ出す。
俯いて泣き続けていた時、不意に頭に温かな感触が降ってきた。……それは、テンゾウさんの手で。


「…ボクは貴女自身に強くなってもらいたい。守られてばかりではなく、その力を受け入れ向き合ってほしいと思っています。」


それは、以前から自身でも思っていたこと。

守られてばかりではなく、
私にも何かできることを―――………


涙を拭き、深く深呼吸をする。そして真っ直ぐテンゾウさんを見つめると自身の想いを口にした。



『…私、強くなります。心を強く持って…私に今できることをきちんとやっていきます。…これからもカカシさんや、皆さんの側に居たいから。』



そう伝えるとテンゾウさんは、「その言葉が聞けてよかったです。」と言った。それはとても優しい声だった。


『でもテンゾウさん…なんで報告しないんですか?貴方も掟に反してしまうのに…なんで?』


私のコエに、彼は静かに話し始める。

「正直、ここでいつまでも泣いて終わるようであれば…貴女の力を上に報告しようと考えていました。…でも、貴女は変わる事を誓ってくれた。だからボクも先輩同様、名前さんを守っていく事を誓います。それに…、」

「ボクは…貴女の歌う姿が何より好きです。だからまた、この場所で楽しそうに歌う貴女が見たい。」

その言葉に顔に熱が集まるのを感じる。


『えっと…あ、ありがとうございます…』



照れながらコエを伝える私を、テンゾウさんがどんな表情で見ていたのかはわからない。
でもきっと、その面の下で優しく微笑んでくれているのだろうと思った。


「……じゃあ名前さん、皆さんも心配していると思いますし帰りましょう。」


その言葉に頷き立ち上がると、自身の胸に再度誓いを立てた。


(……もう、泣いてばかりじゃいられない。)


カカシさんは、絶対大丈夫。
私を独りにしないって約束してくれたんだから。

だから彼がまた目覚めるその日まで、
私は今できることを精一杯やっていこう。


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