21差し伸べられた手

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***


―――――……声が、聞こえる。


辺りを確認すると景色は薄くぼやけ、ここがどこなのか、私は何故ここにいるのか理解できないでいた。


(……わたし、何してるの……)


ぼんやりとした意識の中で、私の顔を覗き込む1人の男の子。
しかし顔はぼやけてよく見えない。


「―――――………」


男の子が何かを呟くと同時に、首元に違和感を覚える。

温かいモノが、首を伝う。

それが何なのか、彼は誰で一体私に何をしたのか、何もわからない状況の中。


「……また迎えに来るよ―――……」


彼はそう呟くと、私に背を向け立ち去っていった。

その後ろ姿を茫然と見つめていると、視界はどんどん薄れていき。

男の子も、景色もすべて


光の世界へと溶けていった―――………




         








『…………』

最初に目に映ったのは真っ白な天井。
そして鼻を刺激する薬品の匂い。

まだ思考が定まらない中、その天井をぼぅっと見つめていると。

「…苗字さん?目が覚めたんですね…!今、先生を呼びますから…!」

女性の声が聞こえ、慌てた様子でその場から離れていった。
暫くすると再度足音が近付いてきて扉を開ける音が聞こえ、中に人が入って来る気配がする。


「苗字さん?気づかれましたか?気分はどうです?」


私の顔を覗き込む1人の男性。
意識が徐々にはっきりしてきたので、白衣を身に纏ったその男性が医師である事が理解できた。

"大丈夫です。"

そう言おうと口を開き声を出そうとした。

『――――………』

しかし私の口からは空気が漏れただけで、声が医師に届くことはなかった。

「……苗字さん?貴女まさか…」


―― 「声がでないのか?」――


突然聴こえてきた"コエ"に、今までの出来事がフラッシュバックする。



――触れてないのに、聴こえる――

――「……名前、今"コエ"が……」――

――『この世から消えて』――



『………っ!』

「苗字さん!?どうし…」


咄嗟に頭を抱え身を縮めると、医師が私に触れようとした。……その瞬間、パニックに陥ってしまった。

医師の手を払い除け、そのままベッドから降りようとする。

「…っ!苗字さん、落ち着いてください!」


しかし看護師達に取り押さえられ再度ベッドに戻されてしまった。


『……っ!――……っ!!』


尚も暴れる私に、医師が誰かに向かって叫ぶ。


「おい!鎮静剤を持ってこい!すぐにだ!!」


そのまま暫く押さえつけられ新たに来た人の手で注射を打たれると、徐々に意識が遠くなり再度深い眠りへと落ちていった――――……



 

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