15内に宿る感情

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***


中忍試験というものが始まって5日が経った。
その間カカシさんとは会えていない。

帰ってきてはいたみたいだけど、それも夜中に着替えとシャワーをしに来ただけで、あとは殆ど待機所で待機をしていたみたいだ。

でも今日その第二試験が終わり、本戦までの間は落ち着くとの事だったので今日はカカシさんがお店に来てくれる事になっている。


(あれ以降会ってないから…なんだか緊張しちゃう。)


カカシさんと2度目のキスをしてから顔を合わせていなかったので、今日会ったらどんな顔をすればいいのか悩んでいた。

(……極力普通に、いつも通りに……)

本当は、彼のキスを受け入れるべきではなかった。
私が彼に惹かれているという事を気付かれたくない気持ちは、まだ心に残っている。


蓮との"約束"が、私の中で何より大切だから。


でも…最近の自分が少しわからなくなってきていた。


彼に触れられて嬉しい。
彼にもっと触れたい。


その想いが、日に日に大きくなっている気がする…カカシさんが私の力を受け入れてくれたあの日から。


(触れたいなんて……
思う事自体間違いなのに────)



「おーい、姉ちゃん注文いいかー?」


そんな事を頭で考えていた時、お客さんに声をかけられハッと我に返る。

『あっ…はい、すぐ伺います!』

(いけない…初日でこんな考え事して手が止まってちゃダメじゃない私!)


自分を戒め、注文を聞く為お客さんの元へ駆け寄った。

       




(…ふぅ、結構増えてきたなぁ。)

あれから数時間が経ち、丁度時刻は夕飯時を指している。
その為お客さんが増え、注文もそれに比例して増えるので忙しさもピークを迎えてバタバタしていた。

そんな忙しさの中、私がオーダーを受けたものを厨房に伝えていると。


「名前、忙しくなってきたけど大丈夫かい?」


少し白みがかった髪を高く結い上げ、こちらに笑顔を向けながら声をかけてくる女性。

それは、このお店のオーナーだった。


『マツバさん!はい、忙しいですけど久しぶりに働けてとっても楽しいです!』


そう言いながら、オーナー…マツバさんに笑顔を向ける。
彼女は三代目火影様の古い知り合いで、元忍だという。歳は60歳を過ぎているらしいがそんな風には見えないくらい若々しく、笑顔がとても素敵な女性だ。


「そうかい、それはよかった。
でもアンタの出番はこれからなんだから、あんまりバテないようにね!」


私の肩をポンと叩き店の奥へと戻っていく後ろ姿を見送り、自身は再度ホールへと足を進める。

一通り注文を取り終え店内の様子を見渡していた時、キィ、とお店の扉が開く音が耳に届いた。


『いらっしゃいま……』


瞬時にそれに反応しお客様を出迎える言葉を発したが、途中で途切れてしまった。


中に入ってきた人を見た瞬間、胸が高鳴る。


その銀色の髪も、少し眠たそうな目も。
いつもしている口布や額当ても、
すべてが彼だと認識できるもので。

久しぶりに顔を見た瞬間、咄嗟に駆け出して
抱きついてしまいたい衝動に駆られた。

『……っカカシさん!』

それを必死に理性で抑え込み、でも嬉しさから少し小走りで彼のもとへ駆け寄った。
カカシさんも私を見つけると、唯一でている右目を弓形にし微笑む。


「…名前、久しぶ「名前ーーー!!!」


カカシさんの言葉を遮り、後ろから勢いよく駆け出し私にしがみ付いてきた1人の女性。


『……っ!?アンコさん!?』


……何故か会うなり、突然アンコさんに抱きしめられてしまった。
びっくりしてオロオロしていると、カカシさんの後ろからアスマさん、紅さん、ガイさんもお店に入ってきて。
そして私とアンコさんの姿を見ると、全員で呆れた表情をしため息を吐いた。


『え?あの…アンコさん?どうしました?』


私が尚も困惑していると、カカシさんがアンコさんの襟を掴んで私から引き離す。


「…アンコ、名前が困ってるだろ。」

「…っ何よカカシ!!別にいいじゃない抱き締めても!!文句ある!?」


そう、カカシさんに食ってかかるアンコさんを見てはっと気付く。


(……"恐怖"と"不安"で満ちてる……)


アンコさんの纏うソレが、とても不安定だった。


『あの、アンコさん…何かあったんですか?』

「え!?あ〜いや、その…「名前、アンコは今回の試験の試験官だったから少し疲れてるだけだよ。気にするな。」


動揺するアンコさんのかわりに、カカシさんが言葉を続けた。


『そうなんですか?そんなお疲れのところ、態々来て頂いてすみません…。』

「な、何言ってんのよ!!アンタの歌うところ絶対見たいと思ったから来たのよ!!だからそんな顔しないで、ほら!」


私の謝罪の言葉にアンコさんは笑顔で嬉しい言葉をかけてくれて。
……しかし、彼女の纏っている"気"は相変わらず不安定だ。


『……はい、ぜひ聴いていってください!じゃあ皆さんの席へご案内致しますね。』


でもアンコさんが笑顔で話す以上、私は詮索してはいけない。
感情が目に見えるだけであって、それを本人が隠すなら踏み込んではいけないと常に思っているから。

そうして席へ案内すると、アスマさんが口を開いた。


「……へぇ、特等席じゃねぇか。」


アスマさんが言った通り、その席はステージが一番見やすいテーブルだった。
4人掛、6人掛テーブルが舞台を囲うように並んでいて、その中の最前列のテーブルに案内したのだ。


『はい!せっかく皆さんに来て頂いたんですから、いい場所で聴いて欲しくて。』

「こんないい席で聴けるなんて、益々楽しみだわ。名前、ありがとうね。」


紅さんの言葉に私も笑顔を向けていると、ガイさんが横からズイっと私の方へ近づいてきた。

「名前さん!!今日は俺の為に歌ってくれますか!?」

「…おい、ガイ。お前まだそんな事言ってんの?」

カカシさんが私とガイさんの間に立ちながら、呆れた声で彼に問う。

「当たり前だ!!そんなに嫌ならカカシよ、名前さんの歌を懸けて今からライバル勝負でもするか!?」

「は?なんでそうなるのよ…。っていうか、名前の意見は完全に無視なわけ?」

そんな2人のやり取りにクスクスと笑みをこぼしながらカカシさんの向こう側にいるガイさんに声をかけた。


「ガイさん、今日は皆さんを想って歌いますね。だから楽しみにしていてください。…あ、先にご注文伺いましょうか?」


そう言ってメニューを見せ注文を聞こうとした時。


「注文なら私がとるから、名前、アンタは今から裏に回って自分の準備をしてきな。」


マツバさんが私たちのいるテーブルに現れた。


『マツバさん!どうしてここに?』

「いや、アンタが世話になってるっていう男を一目見ておこうと思ってね。」


そう言って、マツバさんがちらりとカカシさんの方を見る。


「初めまして、ここのオーナーのマツバだ。…名前が一緒に暮らしてるっていうのはアンタだね?」

「はい、名前がお世話になってます。私は…「はたけカカシ、だろう?」


コピー忍者のカカシとも言われてるか、とマツバさんが言葉を続ける。


「これでも元忍だからね、流石にアンタの名前くらいは知ってるよ。…まぁ、私が忍をしていたのは30年も前の話だけどね。」


その言葉を聞いて彼はとても有名な忍なのだと驚いていると、マツバさんがこちらに振り向いた。


「…で、名前。アンタは早く裏行って準備してきな!」

『へ?でもまだ演奏まで30分以上ありますよね?』


そうきょとんとして答えると、マツバさんは呆れた表情に変わって。


「アンタまさか……そのままの格好で演奏するつもりなのかい?」

『……?そのつもりでしたけど……』

「そんな格好で演奏させるわけがないだろう!ほら、ちゃんと服も用意してあるから早く裏行っといで!後から私も行くから!」


そう言って私の背中を押し奥に行くよう促した。


『わっ…ちょ、マツバさん分かりましたから押さないで…っ!それじゃあ皆さん、ゆっくりしていってくださいね!』


なんだか反強制的にその場を追いやられたような気がしたが、マツバさんの言うことを聞いておいた方がよさそうだと判断し、カカシさん達に声をかけてその場を後にした。



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