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***



今日の任務は合同任務。アスマ率いる十班と共に、畑を荒らす猪の駆除をしていた。

……ま、俺とアスマは見てるだけだけど。


「………はぁ。」

「……おい、その溜息どうにかしろ。いい加減鬱陶しい。」


横で俺の溜息に文句を零すアスマを無視し、今朝の名前とのやり取りを思い出す。


(…勝手に嫉妬して変な態度で家出てきちゃったけど、名前は怒ってないよな…?)


名前の性格からして、護衛してもらってる人にお礼を言いたいという気持ちはわかる。
ただ、その相手がテンゾウってのが癪だ。
しかもアイツ、たぶん名前に気があるし。


(…俺って、こんな心狭かったっけ…?)


名前の事となると、どうも自分が自分でいられなくなってしまう。
その時ふと、今朝名前に言われた言葉を思い出した。



――『早く、帰ってきてくださいね。』――



「………。」

「…溜息吐いた後にニヤけてんじゃねぇよ。」


アスマが俺の顔を見て呆れた表情で言葉を漏らした。


「なんだよ、名前と何かあったのか?」

「いや…何かっていうか…
言葉の破壊力が凄まじいというか…」

「あ?破壊力?」

「すごい懐かれてるのは分かるんだけど…
なんかこう…嬉しいんだけど、生殺し状態で結構キツいのよ…」


名前にキスをしてから、あの日以降また触れる事を我慢している。
彼女が俺に対して心を開くようになったのは俺が彼女の力を受け入れたからだ。
そしてあちらの世界で頼れる存在がなかった分、今は俺に甘えてくれているのが分かる。

それは嬉しい事であり、そんな名前を
甘やかしてやりたいという気持ちも嘘ではない。


ないのだが………


「……あー、触りたい。」

「……末期だな。」

「…アスマはいいよなぁ、遠慮なく触れるんだから。」

「……っ俺の話にすげ替えるな!!」


顔を少しだけ赤くし、アスマは煙草をふかしながら言葉を続けた。


「お前ら、なんでそれで付き合ってねぇんだよ」

「…名前に忘れられない奴がいるから。」


俺の言葉にアスマが目を見開いた。


「……異世界からきたって話にも驚いたが、まさか名前に男がいたなんてな。」


以前飲み会で名前と面識ができた同僚達には、名前が異世界から来たことだけを話し、誰かに狙われている可能性があるからと協力を仰いだ。

その話を聞いた同僚達は心底驚いてはいたが、二つ返事で名前を守る事を約束してくれた。


「男がいるっていうか、ソイツとの"約束"を守ってるんだよ。」

「約束?なんだ?」


こんな話をアスマにしていいか迷ったが、少しだけ話を聞いてもらいたいのもありその"約束"の経緯を説明した。

すると――――――


「……そりゃ、言葉の"呪い"だな。」

「…なんて事言うんだ。人が大事にしてるものを"呪い"だなんて。」


アスマが発したその言葉に怪訝な顔をしていると、再度アスマが口を開く。


「よく考えてみろよ。これから自分が死ぬって時に"自分の事を想ってずっと生きろ"なんて普通言うか?しかも"また会える"なんてご丁寧に殺し文句まで添えて…とんだ束縛野郎だな。」

「……確かに。」


しかし、彼はそうまでしてでも名前を自身に繋ぎ止めておきたかったのかもしれない。
それだけ彼女を愛していたということだ。

そして名前もまた、そんな彼を愛していたからこそ今でもその"約束"に囚われている。


(……俺が入る隙なんて、ないんだろうな。)


そう考え、自身でも分かるほど気持ちが沈んでいたらアスマに声をかけられた。


「まぁ、あれだ。名前の事もそうだが、今は目先の事を考えるんだな。…3日後にはアイツらの中忍試験が控えてる。気引き締めていかねぇとな。」

「ああ…そうだな。」


先日、三代目から正式に中忍試験を開始するという通達があった。

これから更に忙しくなる。


(…その前に名前から沢山癒しを貰っておこう。)


先程アスマに気を引き締めろと言われたばかりだが、それとこれとは話が別だ。
早くこの任務が終わるようにと、少しだけ猪駆除の手伝いをする為ナルト達の方へ駆け寄った。








「ただいま。」
『カカシさん!おかえりなさい!』


任務を終え名前の待つ家へと帰宅すると、パタパタと嬉しそうに駆け寄ってくる名前。

その姿はまるで、飼い主の帰宅を待ちわびていた犬のようで。


(………犬の尻尾が見える気がする。)


満面の笑みで俺を見る名前の頭を思いっきりわしゃわしゃしてやりたい。その衝動を必死に耐え、こちらも名前に笑顔を向ける。


「今日どうだった?お店見てきたんでしょ?」


言いながら家の中へと足を進めると、後ろから名前が俺の後を追うようについてきた。


『はい!お店のオーナーにもご挨拶してきましたし、お店も見てきました。すごく優しくて気さくな方で…あ!元忍だとおっしゃってました!』

『忍はなかなか心休まる時がないから、少しでもこのお店がそういう癒しの場になれば…とおっしゃってて。ですからお店も忍の方が来やすいようにと、カジュアルな作りになっていたんです。』


とっても素敵な方でした、と笑顔で話す名前。

余程そのオーナーとお店が気に入ったのだろう、いつもより饒舌に話す名前を見てこちらも嬉しさがこみ上げてくる。


「よかったな。で、いつから働くんだ?」

『はい、来週から働く予定です。なのでカカシさん、もしご都合がよろしければぜひ皆さんと来てください。』

「あぁ、アイツらにも言っとくよ。」


そう言ってソファに腰を下ろし、名前は夕飯の支度をする為にキッチンの方へ行ってしまった。
残された俺はいつものように愛読書に目を通す。


…しかし、本の内容が全く頭に入ってこない。



チラ、と名前を盗み見る。

名前はいつも料理をする時は長い髪を1つに束ねている。
その後ろ姿を見ていると名前が動くたびにその束ねられた髪が左右に揺れ、普段は見えない白くて細い項が見え隠れしていた。


―――また、触りたくなる衝動に駆られる。


(…後ろから思いきり抱きしめたい…)

そしてその首筋に顔をうずめて、名前の匂いで自身を満たしたい。

……いや、それだけじゃ足りない。

そのまま首筋にキスを落として、
彼女の唇にも深く口付け、そして――――……


(…って思春期真っ盛りのガキじゃあるまいし
何考えてんのオレ……)


自身の身勝手な欲望に呆れつつも、未だその衝動が抑えられない事に頭を抱えた。


(…俺、この先ずっとコレに耐えなきゃいけないのか?)


名前の居場所になってやりたいと思う反面、どんどん自身の欲望が大きくなる。


(…もういっその事またキスをしてしまおうか…)


だってあの時、名前に殴られなかったし。
嫌なわけじゃない……って事だよな?
…いや、でもダメだ。それをして万が一嫌われて出て行かれたら俺立ち直れない気がする。


あぁでも触りたい、抱きしめたい。


どうしたら──────────



『……カカシさんの"気"が百面相です……』


突然名前の声が聞こえ、ピシッと体が硬直する。
顔を上げると、いつの間にか夕飯の準備を終えた名前が目の前に立っていた。


……俺、仮にも上忍なのに考え事して気配に気付かないってどーなのよ。


自身に情けないツッコミを入れつつも、先程の名前の言葉が気になったので恐る恐る尋ねた。


「……あー、名前?お前の目には今の俺ってどう映ってるの?」

『え?えっと…何に悩んでるのかはわかりませんが、恐れや苦しみといった感情が前面にでている感じがします。…あ、でもその中にもっと大きな…何か別の感情が隠れ「ごめん、もういい。ありがとう。」



……これは、マズいんじゃないか?

きっと俺のこの感情は、いつか絶対名前にバレてしまう。いくら必死に隠していようと、彼女はその目で見えてしまうのだから。


そんな事を悶々と考えていたら、名前が
『あっ、そういえば…』と話を続けた。


『忍の方は花木を咲かせる事もできるんですね!私、本当にびっくりしました!』

「……へ?花木?いや、そんな事できる奴なかなか居ないと思うけど。」

『え?そうなんですか?私てっきり皆さんできるのかと…じゃあテンゾウさんはすごい方なんですね!』


名前が口にした名前にピクリと反応してしまう。

「…名前、テンゾウと会ったの?」

『いえ、お会いしたわけじゃないんですけど…私が近くにいるだろうと思って声をかけたんです。そしたら返事の代わりに木が何もないところからでてきて…そのあとその木がピンク色の花を咲かせたんです!とっても綺麗でした…。本当にこの世界の方達は優しくて温かくて…感謝してもしきれません。』


ふふ、と嬉しそうに笑う名前。


『…っあ、もうお夕飯できてるんでした!カカシさん冷めない内に食べ…っきゃあ!』


名前が俺に背を向けた瞬間、その腕を掴み自身へ引き寄せ、そのまま俺の間に座らせると後ろから包み込むように抱きしめた。


『っ……カカシさ「やめた。」

『…え?何を…、』

「我慢するの、やめた。」



「どうせ名前にはバレちゃうんだし、これからはガンガン攻めていこうと思うから覚悟してね…?」


そう名前の耳元で囁くと、彼女の顔が後ろからでもわかるくらい赤く染まっていく。


『そ…んな事…カ、カカシさん!何して…っ』

「ん〜?名前が俺を妬かせるのが悪い。」


言いながら、名前の首筋に顔をうずめる。
柔らかく甘い香りが俺の心を満たすと同時に、
もっと触れたいという欲求も膨れ上がる。


「……名前の嫌がる事は絶対しないから。
そのかわり、ちゃんと抵抗してくれないと俺どんどんつけ上がっちゃうからね?」


先程のように耳元で囁くと徐に口布を外し、
そして―――ちゅ、と音を立てて首筋にキスをした。


『…カカシさん!いい加減にしてください!!』


口布を元に戻し顔を離すと、名前はキスをしたところをバッと手で隠し顔を先程よりも赤く染めこちらを見上げて。


(……その顔、逆効果なんだけど。)


しかしこれ以上は本気で怒られかねないと思い、渋々名前の身体を解放した。
彼女はソファから立ち上がると、顔を真っ赤に染め涙目になりながら俺から距離を取るように後ずさる。


『いっいきなり何するんですか!
もう…っほんとに…っ』

「…ごめん、もう首にキスはしないから。」


……抱き締めるのは大丈夫みたいだからするけど。


『…っほら、もう!お夕飯できてるんですから!
冷めない内に食べましょう!』

未だ顔に赤らみが残っている名前を見て、
今後少しずつ俺を意識させていこうと心密かに思った。





        

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