12もう一つの花言葉

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力の事や過去の話を聞いた後、彼女は『聞いてくれてありがとうございました』といつものように微笑んだ。

俺は結局あの後何か言葉をかける事もできず、その日はお互い眠りについた。


そして―――………



「…そうか、彼女にはそんな力があったか。」

任務を終え、俺は今三代目の元へ来ている。
…名前の力の事を伝える為に。


「…はい。彼女の話では、生まれつき備わっていた能力だと。そしてその力をコントロールする術も身につけてはいるようですが…心を乱された時等、自身の意識が保てない場合は無意識に力を使ってしまう事があるようです。」

「ふむ…カカシよ、それを聞いてお前はどう思った?」

「…以前からお伝えしている通り、彼女自身に害はありません。それは確かです。ですが…」


そこまで言い、言葉を詰まらせる。

名前自身が何かをするというのは考えられない。…ただ、その能力自体が問題なのだ。


「…彼女が他里や敵忍に幻術をかけられ、我々木ノ葉の忍の情報を得る事ができてしまう、というのは考えられます。」


俺たちとは違い、彼女は印もチャクラも必要としない。一般人の女性という事もあり、なんの疑いもなく接してしまうだろう。
そうして彼女に触れられている時に、里の秘密や情報を心に浮かべていたら―――



「彼女の存在が…里を危険に晒す可能性がある…そういうことじゃな?」



はい、という言葉がでてこなかった。
里の忍として冷静な判断を下さなければならない。そう頭ではわかっていても、心がついていかない。


三代目は暫く沈黙し、やがて静かに口を開いた。


「成程…彼女をこちらの世界に連れてきた者は、その力を利用しようとしている可能性が高いということか。」


三代目の言葉に、自身の鼓動が早くなるのを感じる。
きっとこのあと続く言葉は、今俺が思っている事と同じはずだ。


その時ふいに、脳裏に過ったのは―――



―――『カカシさん』―――



「…里に危害がでる可能性がある以上、彼女をそのままにしてはおけん。最悪の場合、幽閉も――「私が守ります。」


「―――私が、彼女を守ります。」


離れないと、独りにしないと誓った。
その言葉を嘘にしてはいけない。


「…守ると一言で簡単に言うが、どのように守る?カカシよ、お前が四六時中見張るとでも言うのか。」


三代目が俺の目を見、語気を鋭くして言い放つ。


「…私が任務でいない時、以前監視としてつけていた暗部を…テンゾウを護衛につけます。それ以外に、何かあった時の場合の協力者として私が信用のおける上忍を数名…名前の素性を明かし協力を得られるよう許可をください。」

「……そこまでして、守りたいか。」

「はい。」


目を瞑り煙管をふかせながら暫く沈黙すると、三代目は静かに目を開き言葉を発した。


「…わかった、お前の言い分を聞き入れるとしよう。幸い彼女が働く店のオーナーもワシの古い知り合いで元忍じゃ。客として訪れる忍も多い。そこで何か起こる事もあるまい。」

「それ以外の護衛についてはカカシよ、お前に全て任せる。彼女の素性を明かし、協力を得られる忍を数名抜擢するのじゃ。だが1つだけ…」


そこで言葉を途切らせ、先程よりも鋭い視線をこちらに向ける。


「彼女の能力に関しては、他言無用じゃ。極力外部に情報が漏れる事は避けたい。協力者にはあくまで異世界からきた者、という事だけを伝えるのじゃ。」

「…御意。」







三代目との話を終え、協力者として誰を選抜するか考えながら家路へと急ぐ。

(…ま、名前と面識があるアイツらしかいないか。)

ふと、昨日彼女が見せた儚げな表情を思い出した。



―――・・・・


『……私は、彼と交わした最後の"約束"の為に生きるんです。』


―――・・・・


(あの時名前に…何も言ってやれなかった…)


俺は彼女に何がしてやれるのだろう。
孤独を抱える彼女に、何が―――……


そんな事を思っていると、自宅前に辿り着いた。
なるべくいつも通り接しよう、と心に決めドアを開け彼女が待つ家へと入る。

「ただいま。」

いつもの様に中にいるであろう名前に声をかける。…しかし奥から名前が出迎えてくれる事はなかった。


―――瞬間、胸がざわついた。


今まで彼女が出迎えてくれなかった時は"何か"があった時だ。

「…っ名前!?」

急いで靴を脱ぎ家の中へと足を進めるが、リビングに彼女の姿はなく。…しかしよく見るとその奥にあるベランダに彼女の後ろ姿が確認できた。
家の中にいた事に一先ずホッと息をつき、彼女がいるベランダへ足を進める。


「…名前ただいま。そんな所で何してるんだ?」

声をかけると名前がこちらに振り向き、微笑んだ。

『カカシさん、おかえりなさい。…いえ、ちょっと星を眺めてまして。』

「…星を?なんで?」

『…私がいた世界は背の高いビルや建物が多くて、灯りが絶えない街だったんです。そのせいで中々星を見る事もできなくて…。』


『…ですから、この目できちんと焼き付けておこうと思って。』


そう言って、再度夜空を眺める名前。

…その横顔は昨日と同じ表情をしていた。
こんなに近くにいるのに、すぐ隣にいるはずなのに。
そのまま溶けて消えていってしまいそうな。


そんな、儚げな表情を―――


「……名前は、向こうの世界に帰りたい?」


突如どうしようもない不安に駆られ思った事を口にしてしまった。言った瞬間しまった、と思ったがその言葉を無かった事にできるはずもなく、次に返ってくる言葉を待ち続けた。

そして名前は暫く沈黙し、


『…向こうの世界で、私に帰る場所はありません。』


…そう言って、憂いを帯びた表情で微笑んだ。


その表情と言葉で、自身の中に答えを見つけた。

俺が彼女にしてやれる事。
俺が彼女に伝えられる言葉。


そうだ、それは至ってシンプルな―――……


「…名前、もっと星が綺麗に見える場所、今から行こうか。」

『…え?今からですか?』


そう言って、戸惑う彼女を連れてある場所へ向かった。



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