10大きな確信
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『本当に申し訳ございませんでした…っ!!』
布団の上で正座をし頭を下げる私。
目の前には、仁王立ちして腕を組んでいるカカシさん。
「ホントに、まさかあのまま寝るなんてね。」
じとっとした目で私を見下ろす彼からは、
若干"怒り"が感じ取れた。そう…昨日の夜のぼせてしまった私は、あのまま寝てしまったのだ。…バスタオル1枚包まれたままで。
当然、カカシさんは私を起こそうとしたらしい。でも幾ら声をかけてもまったく反応を示さない私を見て、諦めて布団に運んだんだそう。
でも、バスタオル1枚では風邪をひくからと…着替えまでしてくれたのだ。
私は今きちんとパジャマを着ている。
……下着まで、きっちりと。
『…穴があったら全力で潜りたいです…』
「そのまま暫く潜って反省するのもいいかもね」
『……返す言葉もありません。』
頭を下げたまま動かない私を見て、カカシさんは小さくため息を吐いた。
「…一応言っとくけど、何もしてないからね俺。極力見ないようにしたし。」
その言葉に、バッと顔を上げてカカシさんを見る。
『そっ、そんな事疑ってないです!カカシさんはそんな事するような人じゃないって分かってます!』
そう、カカシさんの目を見て言うと
とても居心地悪そうに視線を逸らされた。
「そんな純粋な目で見ないで…いたたまれないから。」
『……?』
「…ま、とにかく。これに懲りたら長湯はしないこと。いいね?」
『はい……っ!二度としません!!』
「ん、よろしい。じゃあ俺もう出るから。」
そう言うと玄関の方へ足を進めるカカシさん。
私もその後について行き、いつものように見送る。
すると彼が「あ、そういえば…」と思い出したようにこちらに振り向いた。
「今日なんだけど、夕飯作らなくていいから。」
『え、そうなんですか?』
「ああ、飲み会なのよ。同僚達とね。」
とても面倒だ、という顔をしてカカシさんがぼやく。
『いいですね、飲み会。普段忙しいんですし、
楽しんできてくださいね。』
夜いないのは寂しいけれど、そういうお付き合いも大事な事は知っている。だからその寂しさを見せないように笑顔でそう伝えた。
しかしカカシさんはきょとんとして首を傾げる。
「何言ってるの、名前も行くんだよ?」
『……へ?』
予想外のその言葉に、彼と同じようにきょとん、としてしまう。
『えっ、でもそれって忍の皆さんの集まりなんですよね?私が行ってもいいんですか?』
「むしろ名前を紹介する為の飲み会みたいなものなんだよ。だから名前が来なきゃ始まらないの。」
…いつの間にそんな話になっていたんだろう。
「ま、そういう事だからよろしく頼むね。任務が終わったら1度家に戻ってくるから、そしたら一緒に行こう。」
『はい、わかりました。気を付けて行ってきてくださいね。』
そう言って彼に笑顔を向けると、何故かじっと見つめられて。
『……カカシさん?どうしました?』
「……いや、なんでもない。」
じゃあ行ってくる、と言って家を出たカカシさんを暫く不思議に思い見ていたが、特に気に留める事もなく、そのまま扉を閉めた。
「名前準備できた?」
『はい、もう大丈夫です。』
夕方、任務から帰ってきたカカシさんにそう問われ準備ができた為側に駆け寄る。すると彼にじっと見つめられること数秒。
「……なんか、今日お洒落してない?」
そう、不満気に言葉を漏らした。
確かにいつもは化粧も薄くしかしないし服装も動きやすいパンツスタイルが基本だ。
でも今日は化粧もしっかり施し、服も膝丈のワンピースを着ている。
『カカシさんの親戚として、恥ずかしくない格好をと思いまして。』
一応周りにはカカシさんの親戚として通ってるのだから、同僚の方には恥ずかしくない格好で会わなければ…という思いからした行動だった。
しかし彼は不機嫌なままで、尚も眉を顰めこちらを見つめてきて。
「…だめ、スカートなんて。着替えてきて。そもそもその考えズレてるよ。それって普通彼女が考えることじゃない。」
『かっ、彼女って…!そんな事…っ!!』
その言葉に顔が赤くなるのを感じる。
そんな私を見てカカシさんはニヤリと笑うと、ジリジリと詰め寄ってきた。
「ん〜?それとも、何?彼女って紹介してほしいの?」
『ち、違います!それに、別にスカートでも何も問題ないじゃないですか!着替えるのも面倒ですし!』
ふ〜ん、と目を細めながら近づいて来るカカシさん。
ついに壁際まで追いやられ、私の頭の横に手をついた。そして口布に指を掛けると、ゆっくりと顔を近づけてきて。
「…名前、着替えないならこのままキスするけど、いい?」
『キっ……、い、今すぐ着替えてきます!!』
なぜここでキスをするという行動になるんだと思ったが、それを口に出せる状況ではなかった為急いでその場から離れ着替えをしに寝室へ戻った。
「…そんな格好、他の野郎に見せるわけないでしょ。」
ぽつりとカカシさんが呟いた言葉は、私のいなくなったリビングに溶けていった。
「そういえば名前ってお酒飲めるの?」
結局あの後着替え、いつものパンツスタイルでカカシさんとお店を目指して歩いていた時、彼に問われた質問にギクリとする。
『……あまり、強くはありません。』
本当はそこそこ飲める方だと思う。
でもお酒が入り酔っ払ってしまうと、まったくと言っていい程力のコントロールができなくなるのだ。
だから基本的に飲めない事を装い、外でお酒を飲む事はあまりなかった。
「そうか…じゃあ、気を付けないとな。」
『…?一応自分の限界は分かってるので無理はしませんよ?』
「いや、名前じゃなくてね。いるんだよ1人…無理に飲まそうとする奴が。」
頭を掻きながらため息を吐く彼を見て、
ある事を思い出したので問い掛けた。
『そういえば、同僚の方って事は…アスマさんや紅さん、ガイさんも居るって事ですか?』
「あぁ、いるよ。…あ、でもガイはいない。」
『へ?そうなんですか?任務で来れないとかでしょうか?』
そう聞くと、カカシさんはバツが悪そうな顔をした。
「あ〜いや、ウン。そんな感じ。…さ、着いたよ。」
歯切れの悪い言い方に少々疑問を抱いたが、お店に着いた事で気持ちがそちらに逸れた。
『……なんだか、緊張してきました。』
「そんな堅くならなくってもいーよ。それに、俺もいるし。」
そう言って笑いかけてくれる彼に少しだけ緊張が和らぎ、彼に促されるままお店の中へと足を進めた。