08言わざる本音

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***


家で一人、黙々と片付けをする。今後必要なもの、必要でないものを分けてゴミとして処理するものを選んでいく。
まだ住み込みの話を受けるとは火影様に伝えていないが、こうして早めに物の整理をする事で自身の気持ちも整理できるんじゃないかと思った。

(…あんな酷い事を言ったんだから、もうここには居られない。)

昔、母に言われて傷付いた言葉で今度は私がカカシさんを傷付けた。…自分の逃げ道をなくす、それだけの為に。

(私には、蓮との"約束"があればそれでいい。)

彼を想い唄い続ける事で蓮は私の中で生き続ける。そうやって、これからも生きていくんだ。


―――――――ひとりで。


そう思った瞬間、身体が恐怖で震えた。


『……あ、……なん、で……』


怖い。独りは怖い。
そんな事、前は思わなかったのに。
今は独りになるのがこんなに怖い。


(……カカシさん……っ!)


声にならない声が、唇から漏れる。
その時、玄関から鍵を開ける音がした。


『……っ!』


(いけない、動揺しちゃだめ…!普通にしなきゃ……っ)


廊下を歩く音が聞こえ、そして私のいるリビングの扉が開いた。

「ただいま……って、何してるんだ?」

荷物を広げ整理をしている私を見て、カカシさんは困惑した表情を見せる。

『…っおかえりなさい!ここを出ていく為に徐々に荷物の整理をしていこうかと思いまして…。』

「…まだ、三代目にも返事を返してないのに?」

『……こういうのは早い方がいいんです。』

そう言って、カカシさんに笑顔を向ける。
彼はとても悲痛な表情でこちらを見ていた。

(…あぁ、そんな顔をさせてしまってごめんなさい。)


側にいると言ったのに…
自分の為に、貴方を傷付けてしまって
本当に、ごめんなさ――――




「……………行くな。」



……………え?


カカシさんが発した言葉を、すぐに理解できないでいた。

『え…なんて、「行かないでくれ。」

私の声を遮るように、先程の言葉を繰り返す。
カカシさんの漆黒の右目が私を捉え、


「俺は……お前に側にいて欲しい。」


そう、言葉を溢した。


(……な、んで……そんなこと……)


カカシさんのその言葉に、意思が揺らぐ。


『…カカシさん、私が昨日言った言葉…覚えてますか?』

私は確かに貴方を拒絶する言葉を口にした。
それなのに、どうして。
困惑する私に、カカシさんは静かに答える。

「分かってる、お前が俺を嫌ってるのは…でも、それでも俺には名前が必要なんだ。」


――――――なんで、そんな事を言うの。


『…私、もう監視対象者じゃないんですよ。』

「あぁ、知ってる。」

『…っ、もう1人で生活できる環境になったんです。』

「知ってるよ。」

『わたし…っ、私は独りで、生きていかなきゃなんです…っ!』

「……。」

『や…っ約束したんです…!だから「名前」


いつの間にか流れていた涙を、カカシさんが優しく掬いとる。


「…俺は名前が"ここに居たい"のか"居たくない"のか…それが聞きたい。」

『………っ!』


そんな聞き方、ずるい。
だって、私は…わたしは―――――



『………ったいです……』


――――あぁ、止まらない。
気持ちが溢れて、止まらない。


『……っここに、居たいです……!』


涙でぐちゃぐちゃになった顔を両手で覆い、その場にしゃがみ込む。胸の奥の、奥の方に押し込めていた想いが溢れ出してしまった。


『独りは……怖い……っ!』


―――カカシさんが居る、この場所に居たい。
泣き続ける私の身体を、カカシさんはゆっくり抱き寄せる。


『わ、私…っカカシさんの事嫌いじゃないです…っ!』

「…うん」

『カカシさんのいる…っ家にいたいです…!』

「うん」

『…っでも、彼と約束したんです…!だから、「それでもいいよ。」


カカシさんの手が、優しく私の頭を撫でる。


「俺は、どんな形であれ名前が側にいてくれる事が嬉しいんだ。」


―――なんで、こんなに優しいんだろう。
その優しさに甘えてしまう自分は、どうしようもなく弱い人間だ。


(ごめんなさい…カカシさん…っ、ごめんね、蓮…っ)


私が還る場所は、蓮…あなただから。
だからお願い…今だけは。
ここに居たいと思う気持ちを許して。



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