聖なる夜に唄声を(前編)ー番外編ー
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──────輪廻祭、当日。
話していた通り、お店に行くまでの間は彼と2人の時間を過ごした。少しだけ人混みにも慣れた為、以前行けなかった繁華街を見て回ったり。
普段行かないような少しお洒落なお店でお昼を食べて、手を繋いで綺麗に装飾された街並みを眺めながらゆっくり歩いたり。
『…凄い、普段から大通りは人が沢山いますけど、今日はそれ以上ですね。』
「年に一度の祭典だからねぇ。毎年こんなもんだよ。」
『そうなんですね…なんだかクリスマスを思い出します。』
「くりすます……?」
頭に疑問符を浮かべ首を傾げる彼に、向こうの世界でも同じような祭典がある事を教える。
『輪廻祭と然程変わりませんよ。街が電飾などで飾り付けられて、恋人や家族と過ごしたり、プレゼントを送りあったり…とは言っても、私自身そんな経験した事はないんですけど…』
向こうの世界にいた時、私はずっと独りだった。父や母とは不仲だったし、以前はあの力もあったから極力人と距離を取って関わらないようにして。
『ですから、こういった行事を大切な人と…好きな人と過ごすのは初めてで、今とても幸せです。』
言いながら見上げると、優しい表情をした彼と視線が交わる。
「そうか……じゃあ俺と一緒だな。」
『え?』
「俺も、好きな女性と過ごすのは初めてだから。」
そう言って目尻を下げて笑う彼に、胸の奥が温まりこちらまで笑みが溢れてしまった。
そうして街並みを見て十分楽しんだ後、家に帰宅しゆったりとした時間を過ごして。お店に行く前にいつも通り先に夕飯の準備をしようとしたところ、「今日は俺が用意するからいいよ」とカカシさんが言ってくれた為、お言葉に甘えてギリギリまでゆっくりさせてもらった。
そして今、出掛ける時間となったので家を出ようと玄関に来たのだけれど────………
『あ、あの……もう出ないといけなくて……』
「うん、知ってる。」
玄関まで見送ってくれる彼。
いつもは私が見送る方だからなんだか新鮮だなと思っていた時、突然腕を引かれ気付いた時には彼の胸の中にいた。
そうして暫くそのままでいたけど流石に遅刻してしまうからと伝えるも、中々離してくれなくて。
どうしよう……と困り果てていた時、抱きしめる腕の力が弱まりホッとしたのも束の間。
顎に指を添えられ上向きにされ、彼の顔が視界いっぱいに広がると同時に重なる唇。
恥ずかしさに咄嗟に目を瞑ると唇を割って彼の舌先が私のそれを捉えた。少しの抵抗を見せて拒もうとするけど、敵うはずもなく。
しばらくその口付けに翻弄されていると、やがてゆっくりと引き抜かれた舌がペロリと私の唇を舐め離れていく。
『……っ、は…ぁ…』
「……かわいい、名前」
彼の口が弧を描いたと思ったら、今度はおでこに優しく口付けられて。
それは瞼、鼻、頬と段々と下に降りていく。そうして首筋にたどり着いた時、熱い舌の感触に思わず叫んでしまった。
『カカシさ…ダメです…っ、痕つけたら見えちゃいます!!』
「なんで?見せつければいいでしょ。」
『な、何言ってるんですか!って、ちょ……っ
本当に隠せなくなっちゃいますから……!!』
いつも舞台に立つ時、髪は巻いてサイドに寄せている。それにウェイターとして仕事をしてる時も髪は束ねてるから絶対見えてしまう。
(それを分かってて痕をつけようとするなんて…っ)
本気で抵抗しているのが伝わったのか、カカシさんが小さく息を吐き抱きしめていた腕を解いてくれた。
「……ま、いいか。別に後で───……」
『……?後で……?』
「いや、こっちの話。」
早まる鼓動を落ち着かせながら疑問を抱いていると、彼がフッといつもの優しい笑みを浮かべてくれた。
「いってらっしゃい、気をつけてな。」
『……はい、行ってきます。』
その表情を見て、早く仕事を終わらせてここに帰ってこようという思いが強くなる。そうして彼に見送られながら、扉を開けお店へと向かった。
***
バタン…と扉の閉まる音が響き、訪れる静寂。
名前が出て行った扉を暫く見つめていたが、
ふぅ、と息を吐き印を組んで術を発動させ影分身を一体作り出す。
「……さてと、」
「じゃあ、ま!早速準備しますかね。」