聖なる夜に唄声を(前編)ー番外編ー

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寒さに身が凍えそうになる季節…けれど道ゆく人々は何処か浮き足立っている。

その理由は、もうすぐ輪廻祭だからだ。
木ノ葉で一番大きな冬の祭典である輪廻祭は、大切な人と共に過ごす日でもある。

そんな中、俺自身も名前と初めて過ごすその日を楽しみにしていたのは言うまでもなく。何とか1日空ける為に、それこそ休む暇もなく任務をこなし綱手様に無理を言い、あれやこれやと根回しして漸く1日休みをもらえた。


………それなのに。


『ごめんなさい…ま、まさかカカシさんがその日お休みを取る為に今まで頑張ってたなんて知らなくて…』


ソファに座り、申し訳なさそうにする名前を見て心の中で溜息を吐く。

いつものように食事を終えソファで寛いでいた時、輪廻祭当日に休みをもらえた事を伝えたところ…返ってきた言葉は予想していなかったものだった。


『あの……本当にすみません……』

「…謝らないの。確認しなかった俺も悪かったから。」


マツバさんが経営しているレストラン。
食事をしながらピアノの旋律や綺麗な歌声を聴けると噂が広まり、人気店になってから半年。

…そしてそこで歌を披露するのは、紛れもなく今目の前にいる彼女で。そんな彼女が輪廻祭当日休めるわけもない。

少し考えれば分かったことなのに、自分のことばかりになっていた俺はその事をすっかり見落としていた。


『普段より忙しくなるのは間違いないので、どうしてもとマツバさんにお願いされて…』

「ま、あそこは輪廻祭で恋人と過ごすには打って付けの店だしな。…それ以外に1人で来店する客も増えるだろうけど。」

『……え?』



そう、例外もいるはずだ。
輪廻祭の日に1人寂しく過ごすくらいなら、名前の歌声を聴いて癒されようという男共は少なからずいるはず。

そしてあわよくば付け入ろうとする野郎も――


「あーー……」


そんな光景が頭に浮かび、思わず名前を抱き寄せその華奢な肩にグリグリと頭を押し付ける。


『あの、でも夕方までは一緒にいれますし…!お店が終わった後もきちんと帰ってきますから…っ』

「それはそうなんだけどね……」


(…名前が歌う事を生き甲斐にしてるのは知ってるし、それを邪魔する気もないが…)


どうしても黒い嫉妬心が拭えず、抱きしめる腕に力が篭る。と、彼女が何かを感じ取ったのだろう。耳元で心地良い声が聞こえた。


『カカシさん、私…公園で唄ってる時もお店で歌ってる時も…いつもカカシさんを想いながら歌ってるんです。』


その言葉に、肩に埋めていた顔を上げる。
すると彼女が頬を赤らめながら──────


『…ですからその日も、カカシさんに届くように想いを込めて歌いますね。』


……そう言って、はにかんだような笑みを溢した。


「………それは反則でしょ。」

『え?……きゃあ!!』


堪らず彼女の背と膝裏に腕を回し抱き上げると、何処に向かってるのか察した名前が慌てだす。


『あっ、え、待ってくださいまだお風呂に「ダーメ、待てない。」


先程の嫉妬心はどこへやら。
すっかり名前の可愛い発言にやられてしまい、暴れる彼女をベッドに降ろし覆い被さる。
その時戸惑う彼女を見下ろしながら、ふとある事を思いついた。


「……そーだ。いい事思いついたかも。」

『……へ?いい事って何を……って、カカシさん!本当に待ってくださ──────』


思いついた"いいこと"を彼女に話すことなく、顔を赤く染め尚も抗議しようとする彼女の口を塞いだ。


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