31心のコエで名を呼んで

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***


ゆっくりと私に近づいて来るその人から距離を取ろうと後ずさる。
しかし、蓮に腕を掴まれそれを阻まれてしまった。


『………っ!』

「名前、下手な事はするな。お前は大蛇丸様の言葉に、ただ"コエ"で答えればいいだけだ。」


蓮にそう言われこれから何を問われるのか恐怖に駆られていると、不意に包帯を巻かれた腕が視界に入り、その手が私の足に触れる。

ビクッと肩を揺らし顔を上げると、その人は目を細め笑みを浮かべながら静かに話し始めた。


「アナタのその"声"でね…治してほしいのよ…この両腕をね。たったそれだけの事よ、ワタシの願いは。簡単でしょう…?」

『……腕を……?』

「ええ、少し厄介でね。
もうアナタしか頼れる人がいないのよ。」


そう話す彼を見ると、呼吸は乱れ表情も辛そうで。
相当その腕の怪我が酷いことがわかる。
…でも私はこの人がどういう人で、今まで何をしてきたかカカシさんから聞いている。


『……その腕を治したとして、貴方はまた木ノ葉を襲うでしょう?』


そう小さなコエで伝えると、腕を掴まれていた手に力が込められ蓮が少しだけ声を荒げた。


「名前、お前今の状況が分かって「いいのよ、蓮。」

「…その言魂の力はアナタが強く想わなければ発揮されないものよね。だからワタシはこの腕を治す事…そして今後もその力をワタシ達の為に使ってくれる事を約束してくれたら、アナタの望みはなんでも叶えてあげる。…木ノ葉を襲われたくないのなら、それも約束するわ。二度と手は出さないと。」


その人が言う言葉に、少しだけ意思が揺れ動いた。

木ノ葉には私の大切な人達がいる。
その人達を傷つけるような人には協力したくはないけど、でももし本当に私がこちら側につくことでそれが免れるのなら……

そんな考えが顔に出ていたのか、目の前のその人はニヤリと笑みを溢した。


「……少しだけ時間をあげるわ。さっきの蓮の態度からして、貴方は私達に従わない気持ちも持っているようだしね。…でも一つだけ教えてあげる。」


途端に彼の表情や声が冷たくなり、私に恐怖を植え付けるかのように小さく囁いた。


「仮にアナタが私達につかなかった場合…強硬手段にでるわ。こちらも長年言魂の力については研究を重ねていてね…アナタだけに効くとっておきの薬を用意してるのよ。ただそれを使うとアナタ自身の"想い"ではなくなるからその力は半減してしまう…できれば使いたくないから、いいお返事期待してるわ。」

「蓮、この子を少し1人にしてあげて…ああ、でもこの部屋じゃなく牢屋に移しなさい。もう少し自分の置かれている状況を把握してもらわなくっちゃね…」


「……わかりました。」


そう言い終えると、その人は私の足から手を離し部屋を出て行った。
それを確認すると蓮は私に視線を戻し、先程の冷たい目ではなく、いつもの優しい笑みを浮かべて口を開く。


「…名前、大蛇丸様はお前にチャンスを与えてくださった。最初で最後の、な。だからちゃんと考えろよ?どうする事が正しいのか…お前に必要なのは誰なのか…。もう一度言う…お前を本当の意味で理解し、守れるのは俺しかいないんだからな?」



「俺を裏切るなよ……名前。」

『………っ……』


耳元で、囁くように告げられた言葉。
再度言われたその言葉は、私の意思を揺るがすのに十分なものだった。
蓮は言い終えると私の身体を抱き上げ、牢屋がある場所へと足を進めた。








ガチャン、と重たい鉄の扉を開け私を牢屋の中へと入れる蓮。
口と両手、更に両足まで拘束されてしまいこの状況にパニックに陥りそうになるのを必死に堪えた。

そんな私を見て、蓮がニコリと微笑む。


「大丈夫だよ名前。お前が俺たちにつくなら拘束もすぐに解くから。だから今だけ我慢して、ちゃんと今後の事を考え……ん?お前、何持ってる?」


不意に蓮の手が私のポケットに触れ"ソレ"に気付いた。
瞬間、今まで忘れていたその存在に気付き咄嗟にコエを発してしまった。

『……っだめ!それは……!』

私の静止も虚しく、蓮はポケットからそれを取り出し不思議そうに見つめる。


「……なんだ?何かの種……?」


それは以前テンゾウさんから貰った送信木だった。これを持っていると私の居場所が特定でき、たとえ攫われても見つけ出す事ができる為常に持ち歩くよう言われていたものだ。

蓮はそれが何なのか分かっていなかったが、私の先程の反応で何かを勘付いたようで。


「…まぁコレが何かは分からないけど、さっきのお前の"コエ"で十分理解できたよ…壊しとくべきだってね。」


そう言うとその場に立ち上がり、ソレを地面に落とすと思いきり踏みつけた。
それを見て、助けが来てくれる僅かな可能性も無くなったことを理解し絶望する。


「じゃあ名前、また少ししたら戻ってくるから。それまで1人でよーく考えろよ?」


そう言って、蓮はその場を後にした。

残された私は自分がどうすべきか、何が正しい選択なのか必死に頭で考えた。


(……っ、私は…どうしたらいいの……?)


あの人に従えば木ノ葉は助かるかもしれない…でもそれを本当に信じてもいいのだろうか?

一度木ノ葉を襲った人だ…また同じ事をする可能性だって十分考えられる。
それでも私はその願いを聞いてくれる可能性を信じて、あの人の言う事を聞くのが正しいの…?


わからない、わからない。
どうすればいいのか、わからないよ。


(……カカシさん……)


ぽたぽたと、涙が頬を伝って地面に落ちる。
私のせいで彼が死んでしまったという事実がまたも自分の身体に、心に、重くのしかかる。

もういない彼を心に浮かべ、その名を強く呼び続けた。

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