30抱え切れない程の
***
「……やはり遅かったか……っ!!」
火影室でそう呟くのは白髪の男性…自来也様。
そして机に肘をつき頭を抱えながら五代目火影である綱手様が苦言を漏らす。
「…あの一族の生き残りがよりによって大蛇丸の部下なんてな。しかも名前の想い人とあっては…あの娘がそのままあちら側につく可能性もあるってことか。」
そう言い終えると一息つき、こちらに目を向けた。
「…で、もう体は動くんだろうね?カカシ」
「ええ…もう大丈夫です。先程まであった僅かな痺れもなくなりました。」
その言葉を聞くと綱手様は俺の隣にいるもう1人の人物に声をかけた。
「ギリギリお前が間に合ってよかったよ…
テンゾウ。」
綱手様の言葉に、面を外したテンゾウが眉を潜め悲痛な表情を浮かべる。
「いえ……そもそもボクがもっと警戒していれば名前さんを連れて行かれることはなかったかもしれないので…すみません。」
「いや、あれは防ぎようがなかった。お前が気に病む事じゃない。だが世空眼…あの眼は厄介だな。まさか目を合わせただけで別の場所に飛ばされるとは…」
そう…名前を護衛していたテンゾウが俺が駆け付けた時にはいなかった理由。
それは世空眼により里の外に飛ばされていたからだった。
テンゾウは世空眼の事を知らなかった為何が起きたのかわからなかったみたいだが、それでも直ぐにあの公園へ戻って来てくれたおかげで、俺はこうして今までの出来事を伝えることができている。
「本来すぐにでも名前を救出に向かうべきだが…問題が2つある。」
綱手様が頭を抱えながら再度重い口を開く。
「1つは、救出に向かう為の人員が不足しているということ。そもそも名前の素性を知っている人物が少ない上に、今お前達以外に名前を知っている者達は皆任務に出ていて不在だ。」
「そしてもう1つは…名前を追う手段が現状ないって事だ。瞬身の術程度のものだったら忍犬で十分追跡は可能だが…相手はあの世空眼。名前を抱えてそのまま目的地に着くのは造作もない事だろう。」
綱手様のその言葉は、俺も考えていた事だった。
今すぐにでも名前を助けに行きたい…しかし追跡できるものがない以上、打つ手がない。ただ闇雲に探したところで大蛇丸のアジトを見つけるのは至難の業だ。
どうにか出来ないかと悩み誰も声を発さなかったが、テンゾウがこの沈黙を静かに破った。
「………追えますよ、ボクなら。」
テンゾウの言葉に、その場にいた全員が視線を向ける。
「テンゾウ、本当か!?」
「ええ…前に一度襲われてますからね、彼女は。なので攫われる事を危惧したボクは名前さんに送信木を渡し、毎日持ち歩くよう伝えておいたんです。あれはボクのチャクラとだけ共鳴するので、ボクなら彼女の居場所がわかる。」
それを聞き僅かな可能性を見出せた事で、喜びの余りテンゾウに普段言わない言葉をかけた。
「…俺、今お前が後輩でよかったって心底思った。」
「やめてください、気持ち悪いです。」
「…そこは先輩の言葉を喜ぶべき「素直な先輩なんて先輩じゃないです。」
「…………」
前言撤回、やはり可愛くない後輩だとジト目で見る俺から視線を外し、テンゾウは綱手様に言葉をかける。
「……なので綱手様、名前さんの救出はボクと先輩に行かせてください。相手があの大蛇丸ですし、敵の数がわからないので偵察だけで終わるかもしれませんが…」
「いや、流石にお前達2人だけで行かせるわけには…せめてスリーマンセルで「ワシが行こう」
綱手様の言葉を遮るように自来也様が声を発した。
「大蛇丸とは最近対峙してるしのォ。それなりに奴の事は把握できてるつもりだ。…それに今回の目的はあくまで名前の奪還。奴の動きをワシが封じておけば、後はお前達2人で名前を助け出すことくらいできるだろう。」
「自来也が行くのなら名前を連れ戻せる可能性もグッと上がるな。そうと決まれば早速名前の元へ向かって欲しいところだが…1つだけ聞いておくことがある。」
言いながら、綱手様は俺に視線を移す。
「…名前はお前に向け言魂の力を使った。と言う事は、さっきも言った通りあの娘があちら側につく可能性も充分考えられる…」
綱手様は一旦言葉を途切らせると一息つき、先程よりも鋭い視線を向け静かに言葉を続けた。
「もしそうなった時…お前は名前を殺す覚悟はあるか?それに無事奪還できたとしても幽閉は免れない。…それでもカカシ、お前は名前を助けに行くか?」
―――"名前を殺す"―――
その言葉に、自身の鼓動が早くなり呼吸が浅くなる。
名前は……アイツは蓮を裏切れない。
そうなるように、蓮は長い時間をかけて名前の心に自身を深く刻ませたのだ。
まるで毒のように…徐々に身体や心に浸透していくように。
言葉という"呪い"をかけて。
たとえ俺と過ごした時間が名前の中にあり、俺を一時でも選んでくれたとしても、その呪いは消えない。
そうして名前が俺ではなく、蓮と共に生きると決めたなら…俺は彼女をこの手で――――――
「……裏切りませんよ、彼女は。」
不意に聞こえてきた声に顔を上げ、その言葉を発した人物に目を向ける。
テンゾウは真剣な表情で綱手様を見据えていた。
「…名前さんがあの男をどれだけ大切に想っているかは知りませんが、彼女にはここで生活してきた想いも確かに残ってるはずです。それに彼女の居場所が、ここにはある。…先輩を裏切るような事名前さんは絶対にしません。」
「それに幽閉されても、木ノ葉にいてくれるのなら幾らでも解決策は見出せます。だから彼女を何がなんでも救出するんです。…そうですよね?先輩。」
そう言って、笑みを浮かべるテンゾウ。
その後輩の姿を見て自身の情けなさを恥じた。
(…なぁにを弱気になってるんだろうな、俺は。)
そうだ…テンゾウの言う通り、名前はもう昔のままの彼女じゃない。
アイツが帰ってくる場所はここなんだと、誰でもない俺自身が彼女に伝えた言葉だ。
「…まさか後輩に気付かされるなんてな。」
「あれ、先輩もしかして弱気になってました?じゃあボクが彼女を貰っても「うるさい、調子に乗るな」
油断も隙もあったもんじゃないな、と小さくため息をつき、綱手様をまっすぐ見据え問われた事を答える。
「彼女は…名前は木ノ葉を裏切りません。そして殺しも、殺させもしない。きちんと連れて帰ります。…それが俺の答えです。」
そう伝えると、綱手様はフッと笑みを浮かべた。
「……よし、じゃあ話は決まりだ。各々準備ができ次第、名前の奪還へと向かえ!!」