30抱え切れない程の

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***


『………ん、………』

目覚めると、薄暗い部屋の中にいた。
見慣れない景色に戸惑いつつ上半身を起こすと、自分がベッドの上に寝かされていた事に気付く。


(……ここ、どこ……?)


ぼんやりとした意識の中で、不意に気を失う前の事を思い出した。


――――――・・・・


――『蓮を傷つけないで!!』――
  ―― 『蓮を傷つけないで!!』――


――――――・・・・


『……っ…!…わ、たし……っ』


あの時、力を使ってカカシさんを――――


「……あ、目覚めた?」


突如背後から聞こえた声にビクッと体を震わせる。


『……っ蓮!!』


振り向くとそこには、私に笑顔を向ける蓮の姿があった。


『蓮!!どうして…っ「名前、俺を選んでくれてありがとな。」


蓮が私のいるベッドに上がり、そのまま頭を撫でられる。


『……っ、待って!私まだ理解できない!!蓮は私を騙してたの!?こっちの世界の人間で…私の力が欲しくて私に近づい「違うよ、ちゃんと名前を愛してる。」


蓮の手が、私の頬に優しく触れる。


「昔お前に言っただろ?
俺は"そのままの名前"が好きなんだって。」


いつもの笑顔で、甘い言葉を囁く蓮。
前までならその表情や言葉に救われ、蓮に身体を委ねてた。
でも今は、ただただ不信感が募るばかりで。


『……っ、蓮……カカシさんは……?
カカシさんはどうなったの!?』


私が"声"を発したせいでカカシさんは動けなくなってしまった。蓮の言葉を聞いて、蓮を想う気持ちが強まってしまったが為に…
私は、彼を裏切ってしまったのだ。

その事実に身を震わせていると、蓮が残酷な一言を口にする。


「ああ、はたけカカシ?…アイツなら死んだよ」

その言葉に、ヒュッと息を呑んだ。

『……な、に……言って……
そんな…、カカシさんが…そんなわけ…』


目を見開き、声を震わせながら蓮に問う。
そんな私に蓮はこの場に似合わない明るい声で答えた。


「何言ってるんだよ、名前が俺を庇ってくれたからアイツを殺せたんだ。お前のおかげなんだよ名前、ありがとな!」



――――――わたしの、おかげ?



『……ちが……私、そんな……っ!』



イヤ…嫌だこんなことってない、こんな……
わたしが、あの力を使ったせいで


わたしのせいでカカシさんが――――



口元を手で抑え涙も流せずその場に蹲っていると、蓮の腕がそっと私の背に回る。


「大丈夫だよ、名前。お前には俺がいる…むしろ、お前を本当の意味で理解し守れるのは俺しかいない。だから、名前…」



「……俺の為に生きて、その力を使って。」



―――それはまるで、言葉の呪いのように。
頭に、身体に……そして心に浸透していく。


「……名前」


蓮が私の両頬に手を添え、顔を近づける。
それをぼぅっと見つめながら言葉を呪文のように心で唱えた。


私は蓮を裏切っちゃいけない。


私にはもう、蓮しかいない。


蓮がいなきゃ、私はずっとひとり――――




――"お前はもう、独りじゃないんだよ"――




その時、ふと脳裏に過った彼に言われた言葉。
そして頭に浮かぶのは―――――………



―――――――・・・・


「…名前…心配してたのよ、私たち。」

「ホンットに、意識が戻ったと思ったら家に引きこもって…どれだけ心配したかわかってんの!?アンタ!!」

「…声がでないって聞いてたが、あんまり支障なさそうでよかったじゃねぇか。それに名前の声が直接頭に響くのも悪くねぇな。」

「名前さん!!!俺はどんな貴女でも受け入れてみせます!!」

「…ボク達は貴女を嫌ったりしません。貴女に"力"があっても、です。…だから名前さんもボク達を信じてください。」


―――――――・・・・



『………ちがう。』

唇が触れる寸前、小さく呟いた。
私のその言葉に蓮はピタリと動きを止める。


「……何が違うって?」


近付けていた顔を離し、優しい笑みを浮かべ私に問いかけた。


『…私、もうあの頃の私じゃないの。蓮しかいなかった私じゃない…こんな私にもね…できたんだよ…、』



ずっと独りだった私にも…いつの間にか


かかえきれない程の―――――………



ぽたぽたと流れる涙をそのままにし、蓮を見据えながら自身の想いを口にした。



『…ごめんなさい、私は貴方に従えない。』



その瞬間、蓮から笑顔が消えた。
首を乱暴に掴まれ、そのままベッドへ押し倒される。


『…っは…レ、ン「お前、何言ってんの?」


首を掴む手に力が込められ、今まで見たことのない冷たい目で私を見下ろす。

そして蓮の纏っていたソレが、
"憎悪"の感情で埋め尽くされる―――


「なぁ…誰のおかげで今生きてるかわかる?
一人ぼっちだったお前を誰が面倒見てやった?
全部俺のおかげだろ?そうだよな?
頼むよ…あまり手荒なマネはしたくないんだ。お前のその"声"は、お前が想ってこそ価値のあるものなんだ。"アレ"を使ったら…お前じゃなくなる。力も半減する。…だから早く言えよ。
『蓮の為に生きる』って言えよ、ほら。」



その言葉を聞き、目尻から涙が流れ落ちる。

ああ…やっぱり蓮は私の"声"だけが欲しいんだ。私自身を必要としている訳ではないのだと。
心の片隅にあった僅かな希望を打ち砕かれ、再度拒絶の言葉を口にしようとした時。



「…蓮、アナタせっかく連れてきた子を殺す気?」


恐ろしい程低く冷たい声が、部屋に響いた。
その言葉を聞くと蓮は私の首から手を離し、
体を退け声のした方へ振り返る。


「…まさか、少し話していただけですよ。
……お待ちしておりました、大蛇丸様。」


"大蛇丸"


その名前を聞き、背筋に冷たいモノが走る。
ゆっくり身体を起こしその人物を確認すると、そこには黒い長い髪を背にたらした男性が立っていた。


「初めまして…アナタが名前ね?ワタシの名前は大蛇丸。ずっとアナタに会ってみたかったの。」


そう言って、大蛇丸と名乗った黒髪の男性が私に近づいて来る。
彼は汗をかき呼吸も乱れ余裕のない表情をしているが、纏う"気"がとてつもなく重く、冷たく、禍々しいモノで私は目を合わすこともできず、その場で小さく身を震わせた。

そんな私を見て、その男性はクスリと笑う。


「あらあら、そんなに怯えちゃって…大丈夫よ。アナタがちゃんと言うことを聞いてくれたら手荒なマネはしないから。…でもごめんなさいね。まだ完全には信用していないから、少しだけ拘束させてもらおうかしら。」


蓮がその言葉を聞くと私の腕をロープで縛り、口にも布を巻き付け塞いだ。

『………っ!!』

一瞬の出来事で目を見開き戸惑う私に、蓮がその男性に声をかける。


「大蛇丸様…名前は触れている者の心の"コエ"が聞こえ、また自分の心の"コエ"も人に伝えることができます。なので話したければそのように……」

「あぁ、そうだったわね。じゃあ……」


冷たい目が私を捉え、ニヤリと笑みを浮かべる。


「……少しだけ、お話ししましょうか。」


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