27心のままに溢れる想いを

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***



―――夢なんじゃないかと、思った。

名前が"彼"ではなく、他の誰でもなく、俺を選んでくれたことに。

それが現実なんだと確かめるように、ただ只管に彼女を求めた。


触れる度に漏れる吐息も


濡れた瞳も、熱を帯びるその身体も


そして…耳と頭に響く、その甘い声(コエ)も


それら全てを自身に刻み込んで―――……










朝が近づいてくる気配を感じ、ゆっくり目を開ける。カーテンの隙間から漏れる淡い光が俺の腕の中で眠る彼女を薄く照らした。

(………夢じゃ、ないんだよな……?)

起こさないようにそっと優しく頬に触れ、そのまま唇へと移動し指でなぞる。

不意にその艶やかな唇から漏れた甘い声を思い出し、キスをしてしまいたい衝動に駆られた。

そしてそれを抑えきれず、少しだけ名前の顔を上向きにさせ自身のそれを重ねた。

……優しく、触れるだけのキス。

たったそれだけのことなのに、直接キスを交わせる事実に胸の奥が熱くなる。

(…あ〜、ヤバい。俺このまま死んでもいいかも)

『………ん、……』

そんな事を思いながら彼女を見つめていたら、長い睫毛が小さく揺れ、名前が目覚めた。


「……おはよ、名前。」
『……んぅ……カカシさ……、』


まだ寝ぼけているのだろう。小さく身動ぐが再度目を瞑り、声色もぼんやりとしていた。

(……っ、もうホント…可愛すぎでしょ…っ)

また組み敷いてその身体を求めてしまいそうになるのを必死に理性で抑え込み、変わりに優しくその頭を撫でてやる。


「…まだ少し早いから、寝てていいよ。」

『…はい…もう少し寝ま……、……?』


言いながら、何か違和感を覚えたかのように言葉を途切らせた。名前は閉じていた瞼をゆっくり開け、俺と視線を交わらせる。…そして。


『…っ、あ、えっと…おはようございます…』


視線を外し、顔を真っ赤に染めて小さく呟いた。
そんな仕草を見て愛しさが溢れ、そっと額に口付ける。


「…顔、真っ赤。ホントもう可愛すぎ。名前は俺のことどうしたいの?」

『どっ…どうと言われましても…というか、赤くならない方がおかしいと言いますか…』

「ん?なんで?…あぁ、昨日の事思い出した?…いや〜、口ではイヤなんて言いつつ、心であんな事思ってるなんて俺も『そっ、そんな事言うカカシさんなんて嫌いです!!』


先程よりも顔を赤く染めた名前が、腕を目一杯伸ばしながら俺と距離を取ろうとする。


「っはは!いや、ごめんごめん。名前が可愛すぎてつい、ね。…でもそんな離れちゃっていいの?俺的には逆に見やすくなって嬉しいけど。」

『え?………きゃあっ!!』


俺の顔を見てきょとんとし、しかしすぐに言葉の意味が分かったのか再度俺の胸に飛び込んできたのでそのまま腕の中に閉じ込める。


「……ックク、はい、捕まえた。名前って本当単純だね、見てて飽きない。」

『…っ、カカシさん、なんだか嫌なヤツっぽいです!なんなんですか!性格変わっちゃったんですか!?』


俺の腕の中で悪態をつきながら、少しでも身体を隠そうと身を縮こまらせる名前。


「ん〜、性格は変わってないと思うけど。ま、好きな子をいじめたくなるタイプではあるかもな。……名前に対しては特にね?」

言いながら背中をツゥ…と指でなぞると、名前の身体がビクッと反応した。

『…っ!あ、あの今日出掛けるんですよね!?ど、どこ行きましょうか!!』


口では俺に敵わないと悟ったのか、突然話題を変え視線を俺に合わせてくる名前。そんなところも可愛いと思えてしまうのだから、俺も大概名前に溺れてるなと苦笑しながらその質問に答える。


「ああ、それなんだけど…悪い、午前中はナルト達と会うから、出掛けるなら午後からになるんだ。だからあまり遠出はできないし…やっぱり何かプレゼントでもって思うんだけど、名前欲しいもの考えといて。」

『え!?欲しいもの、ですか…う〜ん…本当に私、物欲ないんですよね…。でも折角カカシさんが何か買って下さるなら…考えておきます。…あっ、そういえば!』


『カカシさんの誕生日はいつなんですか?』


聞かれた瞬間、ギクリとした。たぶんこれを言ったら名前は、自身の誕生日の事なんて頭から飛んでしまうだろう。でも嘘を言うわけにもいかず、言葉を濁しながら正直に答えた。


「え?あ〜………昨日。」

『そうですか、昨日で………昨日!?』


案の定名前は目を大きく見開き驚きの声を上げる。


『え…っ、それ本当ですか!?なんで言ってくれなかったんですか!?』

「いや、俺もう誕生日とか祝ってもらう歳でもないしさ。それに昨日のうちに帰れるかもわからなかったし…帰れたとしても、名前と会えたらそれだけでいいと思ってたから。」

そう言うが、名前は到底納得するはずもなく。

『そっ、そんな事ないです!歳とか関係ありません!ちゃんとお祝いしなきゃ……!…そうです、今日私もカカシさんにプレゼント買います!そうしましょう!!』

『あとはお夕飯はカカシさんの好きなものを作って…あ、秋刀魚がちょうど旬になりましたから…いやでも誕生日に秋刀魚?もっと誕生日っぽいものの方が「あ〜もう、お前は本当に…」


そう1人で思い悩んでる姿を見て思わずグッと身体を引き寄せ強く抱きしめると、名前は話すのを止め腕の中で硬直する。


『……っカカシさ「俺、もうプレゼント貰ったからいい」

『え?いえ、私なにも「名前」


「…昨日たくさん、名前を貰ったからいい」


そう静かに呟き、少しだけ身体を離し名前の顔を見る。そこには想像していた通り、顔を真っ赤に染めた名前が俺の腕の中で固まっていた。


「……また顔真っ赤になってる。」

『…ですから、ならない方がおかしいんです…っ』


その言葉にクツクツと笑い頭を優しく撫でていると、俯きながら名前が再度話し出した。


『じゃあ…私もプレゼントいらないです。』

「え?なんでそうな…『私も、貰いました。』


言いながら彼女は視線を俺に合わせ、


『私も昨日……沢山貰いましたから……』


そう言葉を溢し、未だ熱の引かない顔で恥ずかしそうに微笑んだ。


「……あ〜、今のは名前が悪い。」

『え?何が……って、カカシさ……っ!』


上半身を起こし、戸惑う彼女に覆い被さる。


『な、何して……っ「我慢してたのに、そんな事言うお前が悪い。抑え効かなくなったから責任とって。」

『む、無理です昨日あれだけしたのに…!身体がもう限界で「だいじょーぶ。」


起こしていた頭を徐々に近づけ、彼女の耳元に顔を寄せる。


「………気絶するくらい愛してあげるから。」

『…っそれ大丈夫って言わな――……っ!』


         










『…鬼です……カカシさんは体力の鬼です…』

立ってるのも辛いのか、壁に肩を預け俺を見上げる名前。結局あの後も心ゆくまで名前を堪能し、出掛ける時間になった為玄関まで来ていた。


「いや、だって名前があんな事言うから。でもちゃんと加減してあげたでしょ?本当なら意識飛ばすくらいして『わっわかりましたからそれ以上言わないで!!』


(……ヤバいな、癖になりそう。)

名前を言葉でいじめるのは程々にしないとな…と思う反面、もっと恥ずかしがる表情が見たいなんて思う俺はどうかしてる気がする。

そんな事を考えていたら、名前に声をかけられた。


『あ、あの!やっぱり誕生日のお祝い、きちんとしたいので…今日のお夕飯はカカシさんのリクエストに応えようかと思うんですが、何がいいですか?』

「え、いーの?…じゃあ、秋刀魚の塩焼きとナスの味噌汁で。」

『……やっぱり好物がいいんですね。』

「ま、誕生日っぽいものじゃないけど…好きなものを食べれるのが嬉しいかな。」


そう伝えると名前は壁に預けていた身体を起こし、ふわりと微笑む。


『わかりました、今日出かけた時に材料も買いにいきましょう。』

「…ああ。じゃあ昼頃には帰ってくるから、そしたら一緒に出かけような。」


言いながら、彼女の頭をぽんと撫でた。


『はい、いってらっしゃい。』


笑みを絶やさず送り出してくれる名前を見てまた愛しさが湧き上がり、そのまま撫でていた手を後頭部に回し、もう片方の手で口布を下ろすと触れるだけのキスをした。

唇を離すと顔を赤く染めた名前と目が合う。


『……急にどうしたんですか……』

「ん?……いってきますのキス。」

『……ベタですね。』

「………ベタだね。」


言いながらおでこをくっつけ2人で笑い合い、
ああ…本当にこんな幸せがあるんだと胸が熱くなった。





………この時、思いもしなかったんだ。



"一緒に出かける"というこの約束が果たされないなんて。



名前の「いってらっしゃい」が聞けなくなるなんて。



浮かれていた俺は、気付きもしなかった。




――"最後"がすぐそこまで近づいている事に。



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