27心のままに溢れる想いを
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***
…最初に思い出せなくなったのは温もりだった。
次に匂い。そして声までも…今では曖昧になっている。
それらを忘れた事に気付かないフリをして、蓮の写真を毎日見て、鮮明に記憶を辿っていた。
それでも、少しずつ……少しずつ。
私の中から抜け落ちていく、消えていく。
"思い出"になっていくのを止められない。
そして今日、お店で歌を歌った時…嫌でも気付いてしまった。
もう、私は―――………
夜の静けさが辺りを包み込む。今は風も吹いていない為、木々たちも葉音を響かせることなく暗闇に飲まれ、ただそこに存在しているだけだ。
マツバさんに体調が悪いからと伝えお店を出た後テンゾウさんにお願いをし、ある場所に連れてきてもらった。
それは、私が最初に倒れていた場所…カカシさんと初めて出会った場所でもある第3演習場の中にある慰霊碑だ。
「…名前さん、どうしたんです?こんなところに来て…何かあったんですか?」
後ろにいるテンゾウさんに問われ、彼の方に振り向かず静かに答える。
『…ここに来れば、あの頃の気持ちをまた思い出せるような気がして…』
「……思い出す?」
尚も疑問を抱く彼に返事を返さず、空を見上げ小さく息を吸い、そして歌い始めた。
お店で歌った時と同じように。
蓮の為に作った曲を、蓮を想って―――……
言葉から声に、声を唄に変えて、想いを乗せる。
貴方に届くように。
―――"名前、触れる事を恐れるな
人と関わる事を恐れるな"―――
貴方に届きますように。
―――"俺はお前を独りにしない"―――
どうか、どうか―――………
―――"好きだよ、名前"―――
『…………っ………』
……ここで歌えば、思い出せると思った。
蓮の為だけに生きていた自分を…蓮を想う気持ちを。
それなのに、思い浮かぶのは―――………
「…名前さ『ごめんなさいテンゾウさん…』
テンゾウさんの声を遮り彼の方に振り向く。そしてその目を見つめ―――
『私もう…気持ちに嘘…つけなくなっちゃいました…』
―――……そう、静かに想いを溢した。
「………先輩が好きですか?」
『………』
テンゾウさんのその問いかけに答えることが出来ずにいると、彼は言葉を続ける。
「…名前さん、気付いてないのかもしれませんが…さっきからずっと貴女の"コエ"が聴こえてくるんです。」
『…?そんなはず「先輩の名前、ずっと呼んでますよ…心の"コエ"で。」
『……っ!』
それは本当に無意識だった。そんな無意識に呼んでしまうほど、もう心の中には蓮ではなく彼への想いで溢れていたのだ。
自身の想いを再度認識し何も話せずにいると、テンゾウさんがゆっくり近づいてくる。
そして以前のように頭をぽん、と撫でられ。
「…そんなに気持ちが溢れるくらい好きなら、本人に言ってあげてください。先輩も…それを待ってるんですから。」
そう言い終えると同時に、頭の上にあった手の感触が消えた。顔を上げるとそこには既にテンゾウさんの姿はなく、かわりに目に映ったのは―――
「……名前」
ずっと心で呼び続けていた、彼の姿。
途端に胸が苦しくなり、熱いものがこみ上げてくる。涙でぼやける視界の中彼を見つめる。
―――あぁ、もう止まらない。
『……っ、私、蓮を忘れたくないんです…!』
―― 『……カカシさん』――
彼がゆっくり、私の元へと足を進める。
『蓮との"約束"…っ忘れたくないんです…!』
―― 『カカシさん』 ――
彼が私の前に来て、立ち止まる。
『……っ、蓮を想い続けなきゃ……っ』
―― 『………好きです』 ――
そして、両頬を手のひらで包み込まれ―――
『私は…っ、蓮の事を―――』
続く言葉を遮るように、キスを落とされた。
そしてその場に響くのは……
――― 『カカシさんが、好きです』 ――
――― 『貴方の事が、誰よりも――』 ――
………貴方を想うこの"コエ"だけ。
彼が唇を離し、視線が交わる。
―――あぁ、足りない。
もっと……もっと触れたい。
こんな、口布越しのキスではなくて。
ゆっくりその口布に手をかけると、彼の素顔が露わになる。
そして―――………
『―――すき……』
「………っ……!」
初めて触れた、彼の体温を感じるキスは、優しく穏やかなものではなく。
苦しくて、切なくて、でも確かに愛しいと想う気持ちが込められた
互いの溢れた想いを確かめ合うような、
そんなキスだった―――………
あの後カカシさんに抱えられ家へ着くとそのままベッドに下され、ゆっくり押し倒された。
ドサッと背中に感じる柔らかい感触。
そして口布を外した彼に、優しく口付けられる。最初は啄むように…しかし徐々にそれは深く、息つく暇もない程の激しいものに変わっていく。
角度を変え、舌を絡めとられ。
更に深くなるそれに、私の思考力も奪われていく。
『…んっ…はぁ…カカ、シさ…待っ「無理、待てない。」
低く色気を含んだ声でそう囁かれてしまっては、私の理性も溶けてなくなってしまいそうで。
カカシさんの唇が首筋から鎖骨へと降りていく。
そしてそれと同時に、
手がそっとシャツの中に入れられ―――
『……カカシさん……っ!』
先程よりも強めに彼の名を呼ぶとピタリと動きを止め、鎖骨へと降りていた顔をゆっくり上げた。
そして、……は、と短く息をつき
「………なに?」
欲に濡れた瞳で私を見下ろし、囁いた。
窓から漏れる月明かりに照らされ、彼の銀色の髪が揺れるたびに輝く。その余裕のない表情に、瞳に、自身の鼓動が更に早くなり胸が熱くなる。
『あっあの、私…コエを聴く力があって……』
「ああ、知ってる。」
『…っ、たぶん…わたし力のコントロールが出来なくなっちゃうので…その…っ』
「……コントロールできるくらい余裕かまされる方が傷つくんだけど。」
『そうなんですけど…っ、でも「名前」
顎を掴まれ、逸らしていた視線を合わせられる。そして徐々に顔が近づいてきて―――
「―――……もう黙って。」
……そこからは、言葉なんか必要なくて。
触れ合う身体の熱さと、肌をたどる指先
私の名を呼ぶ甘く切なげな"コエ"
それら全てを肌で感じ、
ただ、ただ彼に溺れた―――………
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