26今を生きて

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***


「あ〜……流石に、キツい……」


任務を終え自宅にたどり着き、ソファへドサリと腰を下ろす。

名前の誕生日から2週間。

あの日から、こうも任務が立て続けに入るとは思っていなかった。
まともに休む暇もなく舞い込んでくる任務に、流石の俺も疲れを隠せずにいた。


(……でも、漸く明日は休みだ……)


休みがきたら名前と出掛けようと思っていた。
ただ、任務続きでほったらかしにしていたナルト達も気にかけないといけない。

特にサスケ…アイツはイタチの影を追い、大蛇丸の口車に乗りかねないからな。


(……でもとりあえず名前に癒されたい……)


その為に、今日はそれこそ死に物狂いで任務を終わらせてきたのだ。

今日くらいは名前に会いたいと。
会って彼女の歌声を聴きたいと思って。


(……別に自分の誕生日なんて、昔は気にしなかったんだけどな。)


天井を見上げながら、自身の気持ちの変化に戸惑う。

こないだ名前に「誕生日おめでとう。」と言った時。
あの時、人の誕生日を祝える喜びが芽生えた。
そしてそれと同時に自分の生まれた日も、
少しだけ大切な日だと思えるようになった。


(…ま、別に祝ってほしいなんて…そこまで図々しくないから名前には言わなかったけど。)


それでも誕生日に名前が側にいてくれると思うだけで、これだけ心があたたまるのだから…俺はどうしたって名前を諦められないんだろうな。


「……っさ、そろそろ準備するか。」


そんな自身の想いに呆れながらも、今から名前に会えるという喜びを胸に秘めシャワーを浴びる為風呂場の方へと足を進めた。









「あら、本当に有言実行して任務を終わらせてきたのね。まさかお店に来るなんて思わなかったわ。」

「カカシ…アンタそんなに名前の事想ってるならもっとガンガンに攻めなさいよ!!見てるこっちがイライラしてくるわ!!」

「…会って早々絡んでくるなよ、頼むから…」

店に着いてすぐアンコと紅に出くわし、いきなり失礼な言葉を投げかけられた。

「お前らがいるとは思わなかった。今日休みだったのか?」

そう問うと、既に顔を赤く染めほろ酔い状態のアンコが答える。


「そ〜よ、ひっさびさの休み!!そんでもって昼間は名前と仲良く3人でお茶して、それはもう楽しかったわ!!」

羨ましいでしょ、と意地の悪い笑みを浮かべる。


「…別に俺も明日休みだから全然羨ましくも何ともないな。それに名前と出かける予定だし。」

若干イラついた口調で言う俺を見て、楽しそうな表情を向ける紅。

「……で?自分の誕生日だからって無理して任務を早く終わらせてまで名前の歌声を聴きにきたってことよね?…あ、お誕生日おめでとうカカシ。」

「…お前も大概ひどいな、その取ってつけたような言い方。でもま、一応礼は言うよ。ありがとう。」


言いながら、アンコに席を勧められたので同じテーブルにつく。すると来たタイミングがよかったのか、客席の照明が落とされ代わりに舞台の照明がついた。


「そろそろ名前が出てくるわね。…カカシ、一つ言っておくけどもう前みたいに嫉妬して名前と喧嘩なんかしちゃダメよ?」

「……っ!?なんで知って……!」

紅のその発言に、目を見開き動揺する。

「次の日名前のあんな顔見たら何があったのかなんて嫌でもわかるわよ。本当に…前も言ったけど男の嫉妬は醜いわよ。」

「………肝に銘じておきマス。」


なんの話よ〜?と興味津々に聞いてくるアンコを無視し、舞台の方に視線を向ける。
すると舞台袖から名前が姿を現した。

以前と同じように、黒のドレスに身を包み綺麗に着飾った姿でゆったりと歩く。

彼女が舞台に現れた途端、客席は一気に静まり返りその姿を目で追っていた。


(…やっぱり、嫉妬しない方が無理だな。)


あの時よりだいぶ気持ちに余裕はあるが、それでも他の男が彼女の姿を目に映していると思うと、腹の底からふつふつと何かが込み上げてくる。

しかし、名前の表情を見てそんな感情も小さく消えていった。


(……?どうしたんだ?なんであんな……)


切なげな表情をしてるんだ―――


名前が静かに席に座り、鍵盤に指を置く。

彼女の指から紡がれるピアノの音。それと共に彼女の声が歌となり、店全体に響き渡る。


「…あ、この曲は言葉がわかるわね。以前聴いた時のあの異国の言葉じゃないわ。」

紅のその言葉に、アンコが続けて話す。

「本当ね。でも待って…この曲、恋愛の歌?へぇ〜、あの子もこんな歌唄うのね!…もしかしてカカシの誕生日だからってアンタに向けて「ちがう。」

「あれは…俺に向けての歌じゃない。」


あの曲は…"彼"の為に作った曲だと以前聞いたことがあった。まさかそれを今…今日に限って聴くことになるなんて…

その曲を歌う名前を見て気持ちが沈んでいたが、ふと彼女の表情やその歌声に違和感を覚える。


「……名前、どうしたのかしら?なんだか声が震えてるみたいだし、表情も苦しそうね…」

紅も名前の異変に気が付いたのか、そう小さく声を発した。

その言葉通り、名前の歌声はいつもと違い芯のある声ではなかった。何かを必死に押さえ込んでいるような、迷いがあるような、そんな声を―――……

曲を歌い終え、その場が静寂に包まれる。

いつもならそのまま次の曲が始まるのだが名前は一向に歌おうとしない。そして暫く座ったまま動かなかった名前が徐に席を立ち、客席に頭を下げると舞台袖にはけてしまった。


「え?今日はこれでおしまい?あの子まだ一曲しか歌ってないじゃない。」

アンコが不思議そうに首を傾げる。

「……あぁ、どうしたんだろうな。」


あんな苦しそうに歌う彼女を初めて見た。
……もしかして、"声"の事を気にして思うように歌えないのだろうか?


(…でも自来也様は、言魂の力は強い想いが伴わないと発揮されないと言っていたしな…)


「あぁ、アンタもいたんだね。ちょうどよかった。」


不意に声をかけられ振り向くと、マツバさんがこちらに歩いてくるのが見えた。


「マツバさん、お久しぶりです。以前はご迷惑をかけてしまいすみませんでした。また名前を働かせて下さってありがとうございます。」


名前の声が出なくなった時、いつ元に戻るかわからなかった為、名前は店を辞める事をマツバさんに伝えて欲しいと俺に言ってきた。

それをそのまま伝えに行くと、マツバさんは声が出るまで待ってるから、早く元気な姿を見せてほしいと言ってくれたのだ。


「そんか事は気にしなくていいよ。私もあの子と働くのが楽しいからそうしたまでだ。それに前店で襲われた時、守ってやれなかった罪悪感もあるしね。…あぁ、そんな話をしに来たんじゃないんだ。名前の事なんだが、今日は少し体調が悪かったみたいでね。さっき帰らせたとこだ。」

「……え?帰らせた!?」

「あぁ、だからアンタも早く帰ってやりな。顔色も悪かったから、家でゆっくり休ませてやるんだよ。」


そう要件だけ伝えると、マツバさんは店の奥へと帰っていった。


「名前、体調が悪かったのね。昼間はそんな事なかったのだけど…」

「働いてる最中に悪くなったんじゃない?カカシ、アンタ早く帰ってやんなさい!」

「ああ、言われなくてもそうするよ。じゃあお前ら、またな。」


紅とアンコにそう別れを告げ、名前の後を追う為店を出て急いで家へと足を進めた。


       




(………おかしい、もう着くのに……)

あれから名前を追いかけ、家への道のりを歩いていく。若干急ぎめに歩いていたからどこかで名前と会うだろうと、そう思っていた。

しかし名前と出会うことはなく、ついには家に辿り着いてしまった。


(…そんな急いで帰ったのか?でも体調悪いのにそんなに早く歩けるはず…)


そう思い、急いで鍵を開け中へと入る。しかしそこには人の気配はなく、家の中はしん…と静まり返っていた。

途端に胸がザワつき、不安が掻き立てられる。


(……っ、なんだ?何故いないんだ?…まさか何かあったのか!?)


そう思うと同時に、名前を探しに行こうと家の外へ出た。すると目の前に突然1人の暗部が姿を現す。

「…っテンゾウ、なんでお前がここに……!」

名前を護衛しているはずのテンゾウがこの場にいる事で更に不安と焦りが加速するも、テンゾウは落ち着いた口調で話し始めた。


「先輩、安心してください。ボクは木分身です。本体はちゃんと名前さんの側にいますから。」

「木分身…?じゃあ名前は今どこに……」

「…ボクじゃやっぱり…役不足だったみたいです。」

「…?役不足って…おい、何が「先輩なんですよ。」



「彼女が心で呼んでるのは…先輩なんです。」



"心で呼んでる"―――その言葉に、自身の鼓動が早くなる。


「…行ってあげてください。名前さんは先輩を待ってます。」

「……どこにいる?」

「彼女は今―――………」


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