26今を生きて

(prev | next)

     


あの後暫くカカシさんの胸で泣き、落ち着いたところで家路に着いた。

そして結局どこかに出かけることもなく家でのんびり過ごしていたら、気付いたらカカシさんが任務へ行く時間となってしまった。

私は願いを聞き入れてくれたし、こうしてのんびり過ごせただけでよかったと伝えたけれど、彼は納得してくれなくて

「次休み取れたら一緒に出掛けよう。じゃなきゃ俺の気が済まない。」

そう言って、任務へと出かけていった。


―――……でもあれから2週間、私達はすれ違いの日々を送っている。


綱手様が言っていた通り、カカシさんは任務が立て続けに入り家にいる事が少なくなった。
私は私で、声が出たことにより再度お店で働き始めた。

その為、夜に少しだけ彼が帰ってきても私はお店で働いているので、結局あの日以降彼とは会えない日々が続いている―――……




「……やぁっと休みだわ〜。やっぱり疲れた時は
甘いものよね。そしてダンゴが1番!」

そう言って、私の隣でお団子を美味しそうに頬張るアンコさん。

「アンコ……貴女それで何本目?少し食べ過ぎよ。」

そして逆隣には紅さんが呆れた表情をアンコさんに向けていた。

「なぁ〜に言ってんのよ紅!今日は久しぶりに女子だけで集まったのよ!それに夜は名前の歌も聴けるし、こんないい日にダンゴを食べないでどうするってーのよ!!…あ、名前それ食べないなら貰うわよ!」

『え!?あ….はい、どうぞ。』

「名前!それ以上アンコに食べさせちゃダメじゃない!」

『すみません…でも、アンコさんの食べっぷりが見ていて気持ち良くて…』


今日は久しぶりに休みが取れたというアンコさんと紅さんに誘われ、甘味処に来ている。
私の声がでるようになったこと、力のコントロールが出来て外出できるようになったことを2人はとても喜んでくれた。

「……でも、よかったわ。名前の声がでるようになって。あんな戦いを間近で見てしまったら、精神的に参ってしまうのは当然だから。…貴女が元気になってくれて、本当によかった。」

そう言って、紅さんはふわりと微笑んだ。



私の"声"の力の事は、カカシさんとテンゾウさん…それに自来也様と綱手様しか知らない。

綱手様が、わざわざそれを言う必要はないと判断したからだ。

私が狙われている事を知っている人達だから、護衛する理由が増えたところで状況は変わらないからと。なら、この"声"の事を知る人は少ない方がいいということだった。


『…そうですね、あんな戦いを初めて目の当たりにしたので…ちょっと恐怖で心が弱っちゃいましたけど…もう大丈夫です。』


私が声を出せなくなった本当の理由は言えない為、言葉を選びながらそう伝えると、お団子を食べ終えたアンコさんが徐に身を乗り出してきた。


「…で、アンタあれからカカシとはどうなったの?」

『……っへ!?』

「だぁ〜から、"へ!?"じゃないわよ!!アンタもカカシも、好き同士ってのは傍から見たら丸わかりなんだから!!それに私あの時"後悔するな"って言ったわよね?いい加減自分の気持ちに素直になんなさいよ!」


傍から見たら丸わかり…私ってそんなに分かりやすいの…?

アンコさんの言葉を聞いて茫然としていると、紅さんも続けて言葉を発した。


「それは私も思ってたわ。名前、貴女カカシを好きなんでしょう?何故気持ちを伝えないの?」


純粋な疑問を投げかけてくる紅さんから視線を逸らし、暫く沈黙して口を開いた。


『……忘れられない人がいるんです……』


私のその言葉に、2人はただ黙って耳を傾けてくれて。


『いつでも彼を想ってないと…彼を1番に想い続けないと…忘れてしまうから。私の中から…消えてしまうから。だから私は…カカシさんにこの気持ちは伝えられません。』


話を終え息をつく。口から出た言葉たちが、自身の身体の中に浸透していく。


"蓮を裏切ったらダメだ"

"蓮を想い続けなきゃダメだ"

それはまるで、言葉の呪縛のように―――



「………消えないわ。」



小さく、でも凛としたその声が私の耳に届く。顔を上げ声をした方を向くと、紅さんが優しい笑みを浮かべていた。


「それはね、消えるんじゃないの。忘れるんじゃないの…"思い出"に、変わるだけよ。」

『……思い出に変わる?』

「そうよ、思い出になるの。思い出としてその人の事を胸にしまって、そして"今"を生きている人たちと共にこれからを歩んでいくのよ。だって貴女も…"今"を生きてるんだから。」


思い出として、胸にしまって。

そうして"今"を生きている人たちと共に
これからを―――……


『…っ、許されるんでしょうか?そんなことが…っ本当に…?』


震える声で、そう問いかける。すると私の頭をアンコさんがクシャリと撫でて。


「当たり前じゃない!むしろ、そうやって気持ちを偽って生きる方がよっぽど辛いんじゃないの?アンタがその人の事を思い出にしたって、誰も責めないわよ!」


そう言って、いつもと変わらない笑顔を向けてくれた。


……本当に、いいのだろうか。
これからを彼と…カカシさんと一緒に。
蓮の事を"思い出"にして―――……


「……名前?」

紅さんに呼ばれ、はっと我に返る。

『あっ……ごめんなさい、わたし…もう行かなきゃいけないので失礼しますね!またお店で待ってますから!』


そう言って、気持ちの整理がつかないまま2人に別れを告げその場を去った。


残された2人は、私が去ったあと―――


「…あの子の闇は深いわねぇ…もっとカカシがガツガツいけばいいのよ!そしたら名前も気持ちが固まるかもしれないのに。」

「…そうね、あとはカカシに任せるしかないわね。…そういえば、カカシは今日も任務よね?あの2人、最近会ってないって言ってたけど大丈夫なのかしら?」

「あ〜、そういえば昨日たまたまアイツと会った時"明日こそは絶対帰る"なんて意気込んでたけど…ん?今日って何日……?」

「え?今日?9月15―――……」

「「………あぁ、なるほどね。………」」


そんな意味深な会話をしていたという事は、その場から立ち去った私には知る由もなかった。

 next (1/2)
[back]
- ナノ -