初恋
流は友達だ。親友と言ってもいい。
しかし、たまに、ごく稀に心が揺らぐのは何故だろう。
「リュウ、その格好は??」
「お帰りキュウ。ご飯はまだ待ってね。」
「ただいま。じゃなくて。リュウ、その格好…」
今日は非番の日。尾行の練習をしていたQが家に帰ると、母の靴はなかった。だが台所からは不思議なリズムを刻む包丁の音と、いい匂いがする。誰、なんて台所を見る前に答えは出ている。その予想通り、それは流の仕業だった。
しかし、いつもと違う光景に硬直してしまった。
「エプロン、だよ?」
流がつけていたのは母がいつも使用しているエプロン。だが流がつけることで見慣れたはずのエプロンが違うものに見える。
「一応料理は出来るし、何か恩返しはしないとね。」
「でもエプロン…」
「服が汚れないようにするのがエプロンだから、使用用途は間違ってないと思うけど。」
苦笑しながら言う流の言葉は最もだ。そんなことはQもわかっている。問題はそこではないのだ。
「……カワイイなぁ…」
そう、可愛いのだ。
同じ性別の彼に言うのもおかしい。だが可愛いのだ。元より中性的な流だがこんな感情を抱いたのは初めてである。
だが男に使うほめ言葉としては間違っている。いや寧ろ変な顔をされるだろう。だが流は微笑んでいた。
「誉められてる、でいいのかな?」
「え、あ、誉めてる誉めてる!」
気にとめることもせず、再びまな板に向き直る流。再び不規則な音を奏でる背中を見つめる。別に寂しい、とかではないが他にアクションがあってもいいのに。それがQの気持ちだった。
「リュウは、告白されたことはあるの?」
「あるよ。」
「女の子から?」
「まるで男からも告白される前提みたいな言い方だな。」
それでも気にとめない流に、Qはハッとなる。
特に責められているわけではない。ないのだが後ろめたさが募ってきた。
「ち、違うんだ!そんな意味で聞いたんじゃなくて…」
「じゃあどういう意味なんだ?」
「えーっと、キンタやカズマが告白したら驚くかなって。」
「なんで二人の名前が出るんだか。」
クスクスと笑いが聞こえてくる。Qとしては真面目に言ったつもりであるが、流はあまり取り合うつもりはないらしい。
そんな穏やかな表情すら可愛く、綺麗に見えてしまう。これは病気だろうか?正常ではないことだけがわかる。
「でも、」
「でも?」
「キュウからなら、考えるかな。」
「え?」と聞き返すことすら出来なかった。包丁の音だけが耳につき、頭の中が真っ白になる。流は何を言っていたのだろう?Qの頭の中でぐるぐる回っている。
「キュウが僕を『好き』と言ってくれるなら、僕は受け入れたい。」
「好、き?」
「キュウがみんなに言ってる『好き』じゃない。特別な『好き』さ。」
野菜を払う音がやけに長く感じる。そして再び包丁の音が響いてきた。
「本気だよ。」
流の顔はトマトよりも赤い。
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13.12.22
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