えふえふ | ナノ



美味しい恋人の作り方1

※付き合ってる光ウリ
※蒼天〜



 俺、自称光の戦士と呼ばれること以外、一般的なアウラ男性召喚師。組織「暁」の公認で、砂の家の執務長ことウリエンジェと、お付き合いの真っ最中です。
初めは口数少なく、謎が多いと思っていたすが、何度か言葉を交わすうちに人間らしい表情が見えてきたのが始まりでした。そこから共に資料を探したり、フィールドワークへと出ているうちに、放っておけないと思い始めてしまったのが運の尽きだったと思います。
 ミステリアスな雰囲気を出しながらも、間食用のおにぎりを嬉しそうに頬張る姿も見たし、急に物珍しいものに目を奪われて転びそうになったり、片付けが苦手だったりと危なっかしいのです。カーバンクルを愛でているときに、微かに上がった口角を見て、思わずドキリとしてしまいました。たまに見せる優しく見守るような眼差しから、子供の頃に感じた懐かしさも覚えました。
 普通はパートナーとして異性を選びますが、俺は元より変わり者で、性別など関係ありません。それに待つのは性に合わず、アウラ式の愛情表現をしてしまいました。
アウラ族は東方の民族。生態についての知見に乏しいかと思いましたが、流石は物知りな先生です。驚き口を開いた姿から、この求愛がバレたことを察しました。
 アウラは、角を擦り付けることで求愛行動をします。寝不足で荒れた頬でしたが、触れあうだけで今まで感じたことのない幸福感を得ることができ、何度もすりよってしまいました。
 彼に情愛を抱いているのは否定しません。しかし、この気持ちを公にするつもりはありませんでした。冷静になり思わず逃げ出そうとすれば、腕を捕まれて無言でキスのお返しをもらったのが馴れ初めです。
 よくよく考えれば、英雄と呼ばれる男の機嫌を損ねないようになのかもしれないですが、打算も迷いもなく手をとってくれたことも嘘ではないとわかります。あの時の赤く染まった顔を反らし「私も、ずっとお慕いしておりました」と小声で呟かれた言葉から。



「さぁ、このくらいでもういいだろ!」

 光戦士は、今窮地に立たされていた。目の前には暁の賢者たち。その後ろには石の家にある、唯一の出口である。そして椅子に座らされては、恋人との馴れ初めについて強制的にノロケさせられているのである。
隠れて壁に戦士を取り囲むように賢人たちが真剣な面持ちで座る。膝の上で抱え込んでいるのは、酔って寝息をたてている恋人。ガタイのいい男の体はほどよい重石となり、動きを制限するし、首元に当たる吐息で力が抜ける。いつもなら嬉しい体制ではあるが、今は退路を断つための拘束具にしか思えない。
恋人自慢は始めは楽しかった。しかし、徐々に「恋人を語る」というよりも「恋人との普段の行動を事情聴取される」内容へと変換された辺りから、疲労感に押し潰されそうだ。
祝福は二の次の、尋問である。

「いえ、まだよ。最近ウリエンジェが不調なの。理由を調べなくてはいけないわ」
「本人がここにいるけど!?」
「声をかけても『あの人はお元気ですか?』の一点張り。原因は貴方しかいないのよ」
「それに、寝るとしばらく起きねえし」

 あくまでも真剣な表情をして詰問してくるのはヤ・シュトラ。その目は真剣で、猫目が細く鋭く光っているのが恐ろしい。サンクレッドも男同士が身を寄せる姿を笑いもせず、真剣な面持ちをして眠る友人の頬をつつく。賢人たちの冷静さには逆に困惑してしまう。だが、一番困惑しているのは部屋の片隅に賢者たちが集まっている様を横目で見ている隊士たちである。

「隈が深くなっているな」
「毎日、夜の散歩で徹夜をしていると聞くわ」

 ふわりと払われた前髪が、サラサラと額へと落ちる。
跡にならぬように首へと落とした眼鏡の下から見えているのは、長い睫と切れ長の目。そして目元に濃く浮かぶ隈である。眉間の皺は初めより薄くなったが、唇が強く引き結ばれている。夢見が悪いのだろうか、真実は本人すら目覚めて忘れてしまうだろう。

「最近会えなかったから、知らなかった……」
「浮気してないだろうな」
「ええ……サンクレッドじゃあるまいし」
「お前も言うようになったな」

 相手は賢人と言われる年上の男性だが、いい加減付き合いは長くなってきた。伊達に英雄と呼ばれていない。肝の座り方なら誰にも負けないのだ。
 眠る彼を慰めるように角を擦りよせると、何か感じ取ったのか小さく笑顔を浮かべて頬を上下に動かして答えた。アウラ族としては嬉しい反応に頬を緩める。が、すぐさまため息をついては落胆の色を見せては弱々しく震える声で呟いた。

「恋人らしいこと、通話以外してないから怒ってるかも」
「毎日しているの?」
「忙しくないときは毎日」
「おー! ロマンチック!」

 嬉しそうなのはイダだけである。
他の面々は恋愛相談とは思えないほどに真剣な面持ちで首を捻るのだ。
暁の面々は、仲間というより家族に近い。サンクレッドが敵に取り込まれた時も、ウリエンジェが怪しい素振りを見せた時も、詰問するわけでもなく切り捨てるわけでもなく、ただ信頼しては放任していた。
そんな家族に受け入れられて祝福されている、という事実に改めて胸が熱くなる。だが、大切にしているが故に詰問をされるのは心臓がいくつあっても足りない。
 ともかく、今は腕を思い切り締め付けてくる恋人のご機嫌取りだ。原因はわからないが、普段酒気を帯びていない彼が急にやけ酒など、尋常ではない。

「今日も残ってくれたと思えば、急にお酒を飲み干して倒れるしさ」
「その時、何か言ってなかったかい?」
「『愛情の定義とは、斯くあるべきなのでしょうか』と」

 本当は、もっと一緒の時間を過ごしたかった。いつもは集会があってもすぐさま戻ってしまう彼が、珍しく残ってくれていたのは本当に嬉しかった。久しぶりの再会を喜んでくれるかと思ったのに、この始末である。
あわよくば、本日を初夜にとまで考えていたから落胆は大きい。

「もしかして、愛想つかされたかな……」

 どんよりと肩を落として頬を優しく撫でると、薄く開かれた唇。ウリエンジェが何か言葉を紡ごうとしたところで、机へ何か叩きつける音が聞こえて、反射的に勢いよく手を引いてしまった。
音源は、乱暴に置かれた文献の山。そして、悪鬼の表情で近づいてきたアリゼーと、どたどたと走ってきたアルフィノである。

「ちょっと! ウリエンジェに何したの! 危険な目に合わせたら許さないんだから!」
「そうだとも。いくら君でも許されない!」

 急に怒鳴られ、驚いて彼の体を強く抱き締めて守れば、酒気を帯びてほんのり赤く染まった頬がフードの下から覗いた。本能のままに首へと唇を寄せ、味わうように覗いた舌が首を撫でたが、アリゼーの怒気でそれどころではない。ちゅう、と赤い花をアウラ・ゼラ独特の黒い肌に残しては、彼は再び寝息を立てるのだ。気づいていたのは、下から見ていたパパリモだけである。

「お酒を飲んで倒れたんだ!」
「お酒? 彼、弱いから人前では飲まないはずなんだけど」

 しゃがんでは覗き込み、穏やかな寝顔に年相応な少女の笑みを見せる。2人は特に付き合いが長く、仲がいいと聞く。アリゼーが怪我をしたときは、ウリエンジェも砂の家にも戻らず甲斐甲斐しく世話を焼いているのを見たから、軽い気持ちで邪魔をできる空気ではなかった。

「俺、彼のこと、まだまだ知らないんだな」
「なら、貴方はどこまでウリエンジェのことを知っているの!?」
「え?」

 ビシッと音がするかと思うほど、真っ直ぐに付きだされた細い指に、たじろいでしまった。
彼女は真剣そのもので、まるでテストの監督官。宥めようとするアルフィノも威圧感に怯み、情けなく手を宙で踊らせるだけである。

「趣味は? 好きな物は? 嫌いな物は? 好きな人は!?」

 「お前は父親か」と、ここにいる誰もが思った。彼女の声は凛として通りやすいのも仇となり、敷居の外側から他の隊員たちがなんだなんだと覗き込んでくる始末だ。
すぐさまイダとパパリモが「見世物じゃないよー」と追い返してくれたが、中央にいる身としては十分恥ずかしい。それでもアリゼーはぶれず、仁王立ちで腰に手を当て、答えを待ち望んでいる。逃げることはできない。

「ええっと、読書が好きで、夜空を見るのも好きで。人付き合いが苦手。動くことも得意じゃない。好きな人……は……」
「まどろっこしいわね! 貴方しかいないわよ!」
「は?」
「久しぶりに会ったら彼は言ったわ。『私の恋人は、貴女もお気に召す強く真っ直ぐな魂をお持ちです。よろしくお願いします』と珍しい微笑み付きでね!」

 「どうして貴女が誇らしげなんだ」と呆れるサンクレッドは、すぐさまヤ・シュトラによって口を塞がれる。

「それに、会う度に『かの旅の戦士は、今も尚、健やかに道を歩んでおられるでしょうか』なんて言われたら、妬くに決まっているでしょう!」
「そんなことを?」
「……素直に言えないだけで、ずっと裏では貴方のことを心配しているのよ」

 迷子の子供のような困り顔を浮かべる豪勇の戦士など、今日で最初で最後だろう。彼の寝顔をフード越しに見つめては、唇を引き結ぶ。
そんな彼女に真剣な面持ちで「不幸にはしないから」と言えば「そんなの当たり前じゃない!」と涙目で怒鳴られた。
 そのやり取りがうるさかったのだろうか。腕の中で身動ぎの音がして、ずれたフードの中から幼い印象を受ける無防備な寝顔が現れた。

「起きちゃった?」
「……」
「ん? 何?」

 まだ目は閉じているために、寝言だろうか。何かを呟いているのだが、聞き取ることはできない。

「……、……」

 耳を寄せれば、名前で呼ばれて全身が粟立った。いつも名前なんて呼んでくれないのに、意識がない状態で口にするなんてずるいではないか。

「あーもう! それ、反則……」

 蕩けるほどに、甘く。愛を囁くような音色に顔を抑え、悶えるしかできない。

「まだ、自惚れてもいいのか……?」

 愛の告白は、誰にも聞かれていない。慈しむ視線を向けては顔が見えないようにフードを被せてやる。
このままではずっと寝顔を眺めてしまうだろう。吹っ切るように勢いよく頭を上げれば、少年の悲鳴。覗き込んできたアルフィノに当たるところだったらしい。
怯えた少年に平謝りをしていると、くるるる、と鳴いた小さな腹の虫。始めに吹き出したのはアルフィノで、徐々に穏やかな笑いが広がっていく。音源は、ガタイのいい眠り姫からである。

「料理が口に合わなくて食べてない、とか」
「いんや。コイツのことだから、考え事してて忘れてたんだろ」
「俺、この人が起きたら買い物行ってくる」
「今から行ってこいよ」
「私たちが見ておくわ」
「……何もしない?」
「なんで俺を見るんだ」

 女好きではあるが、人の物に手を出すことはないとはわかっている。頼れる兄貴であるからこそ、こんな憎まれ口を叩けるのだ。

「あはは、冗談冗談! 信頼してるって」
「では私もついて行こう。荷物もちも出来るからね!」
「私も行く。アルフィノだけじゃ不安だもの。それに、彼の好物を知っているわ!」

 いつものように光の戦士へと懐く双子をみて、皆も安堵の表情を浮かべる。気難しかった2人が進んで人のために動くようになったのは、他ならぬ彼の影響。
 はしゃぎながら英雄様を引っ張り、石の家を出てすぐだった。寝心地が悪そうに眉を寄せ、彼が目を覚ましたのは。

「ん……」
「今度こそ起きたみたいだな」
「おはよー!」

 元気一杯な女性の挨拶と、可愛らしい年上の童顔ララフェルが第一の情報。ウリエンジェは勿論気がついてはいるのだが、誰かを探して迷子の子供のようにキョロキョロと世話しなく周囲を見回した。
そして、自分の体を抱き締めている男へと目を向けては、無表情の顔に感情が宿ったのだ。

「あ……待っていてくださったのですね……。私の……」

 ふわふわと、寝ぼけた声で甘く微笑むと、視界も歪むままに目の前の男の首に腕を巻き付け、しっとりと唇を重ねた。
 認識したのは「側にいた男」という点だけ。顔も確認せぬままに舌を付き出しては、より濃厚なキスをせがむ。

「ぅ……」

 鼻につく甘い吐息と、見たこともない惚けたの表情。驚きに硬直していると、積極的に舌を差し出し、取ってくれるのを今か今かと受け身に待ち続けるのだ。慣れていないのは一目瞭然である。
つい流されそうになってしまった。慌てて、ガリと舌へと牙を立てれば、鈍い痛みが彼を覚醒へと促す。
 恋人からの冷淡な態度に驚きつつも、視点の合った先にいたのは見知った友人のヒューランがいるのだ。

「落ち着け。俺だ、サンクレッドだ」
「あの、方では、ないのですか……?」
「悪かったな。アイツじゃなくて」

 男にキスをされながらも、動じることなく冷静に諭す姿はシュールではあるが、笑うものはここにいない。落ち込む友人の成人男性の頭を撫でてると、当の人物は少し落ち込んだ後に、無表情でゴシゴシと唇を拭う。

「失礼いたしました」
「そんなに力強く拭われたら傷つくな……」
「あの人を、もう裏切りたくないのです」
「それはいい心がけだ」

 自分よりも長身だが、丸くなって腕に収まる青年の頭をポンポンと撫で、男らしく歯を見せて笑う。眉をハの字にしては落ち込んでしまった彼の姿を見ては、兄貴風で宥めようとする。

「ねー、いつもおはようのキスしてるの?」
「いえ。今のは衝動的です」
「弱っている証拠だな」

 好奇心に目を輝かせるイダと、うんうんと頷くパパリモ。同性であっても彼らの想いを尊重するという態度をとるのだが、本人は心ここに有らずの様子で改めて家の中を見回す。

「あの方は帰られましたか……?」
「いや、すぐ戻る」
「よかった……」
「元気のない貴方のために、特別な料理を振る舞ってくれるそうよ」

 目をぱちぱちと瞬く姿はどことなく幼く、首を傾げながらも小声で「手作り?」と呟く姿は成人男性とは思えないほど無防備である。

「うふふ。英雄様の手料理は美味しいものね」
「はい。以前、夜食をいただきました」
「あら。今日の宴の料理も全部英雄様の手作りよ」
「うん! 前よりすごい美味しくなってた!」

 驚愕で唖然とするイダは、頬に手を当ててみせ、口にしたシチューやサラダの味を思い出しては、うっとりと頬を緩ませる。他の面々も味わったご馳走を思い描いては蕩けた笑みを浮かべる姿に、食べ損ねた身としては焦りが生まれる。

「思案に耽り、自己の世界に没頭しておりましたので、食事どころではありませんでした」
「そんなことだろうと思った」
「せめて一口だけでもいただきたいですが、もう残っておりませんよね……」
「寝ている間に全部食われちまったな」

 シュンと目に見えて落ち込む姿に、思わずその場にいる者は頭を撫でてやりたい衝動に駆られる。
イダだけが素直に手を出しては「よしよし」と優しい女性の顔を浮かべながらも、自分より背の高い男性を励ますのだ。「ありがとうございます」と小声で呟かれた言葉と、更に恥ずかしがってはフードを深く被る姿には微笑ましい思いが募るばかりだ。

「彼は、幻滅してませんでしたか? こんな情けない姿を見て」
「逆だ。心配だとベッタリだったぞ」
「……睡魔に抗えなかったこと、非常に後悔しております」

 相手はサンクレッドであるが、身を寄せては抱きつこうとするのは寒いからか。否、出掛けてしまった恋人に似た、逞しい男の腕にすがりたくなったから。
いつもの無表情はどこへやら。目に見えて落ち込んでは抱きついてくる、暁の知恵袋を見て庇護欲がされてしまった。ゆっくりと、髪をかきあげながら撫でては宥め、伏せられた金色の目を真っ直ぐ見つめる。その目はいつものような活字ではなく、無機質な扉を見つめては動くことはない。見えることのない、彼の背中を探して。

「最近元気がなかったのは、アイツに会えなかったからか?」

 観念して頷けば、やっと一同が肩の荷を下ろしたように深い息を吐き出した。
自分のことを話さない彼が、少しでも意志疎通を図ろうとしてくれたのは僥倖なのだ。

「よかったー! 別れるなんて言い出したら、殴ってでも説得したよ!」
「イダ……君が殴ると洒落にならない」

 スパン! と甲高い音を立てて、向かいの手のひらに叩きつけられた拳に、相棒が冷や汗を流す。彼女の場合、本気か冗談かがわかりずらいのだ。いや、きっと本気だろう。仲間への想いは、拳ほど重い。

「あの方が多忙なのは存じております。しかし、いつ今生の別れが来るかと考えるだけで、夜も眠れず動悸が激しくなります」

 ムーンブリダのこともあり、堪えているのは誰も口にはできる空気ではない。何も言わずに見守っていると、いつもの秘密主義な彼とは別人かと思うほどに、ポツリポツリと言葉を紡ぐのだ。

「私も持ち場を離れるわけにもいきません。さしずめ、織姫と彦星の擬似体験をしているようです」
「遠距離恋愛をそう例える人、なかなか居ないぞ」

 軽い冗談で重い空気を和らげようとしても、等の本人が沈む一方。

「あの方もそう思っているとは限りません。英雄、色を好むと言います。既に他にお相手が……」
「それはないから安心しろ」
「何故言いきれるのです?」
「お前にゾッコンだからだ」
「貴方と違ってですか」
「お前らほんとなんなんだよ」

 恋人同士の2人に、全く同じことを言われてしまっては、言い返す言葉もない。付き合いの長いこの男は「違うのですか?」と真顔で首を傾げる始末。さすがに弄られ続けては、サンクレッドも軽い頭痛を感じて顔を押さえると、ヤ・シュトラが憎らしいほど楽しげに笑う。
 口論が始まりそうな2人を他所に、完全に目が覚めたとウリエンジェも体を起こしては自分の足で地面を踏む。まだ酔いが覚めて時間も浅い。ふらつく体が倒れる前に肩を抱くと「ありがとうございます」と、嘔吐しそうな声音で小さく呟いた。

「貴方、ここまでお酒に弱ったかしら?」
「いつもならば、人前で酔う失態はいたしません」

 何度か酒を交えての公論を行ったが、酔うどころか顔色1つ変えることはなかった。それが一杯飲むだけでこの始末とは、恐ろしいものである。

「あの人の顔を見たら安心して、心が乱れ、つい甘い果実酒の誘惑に飲まれたところで記憶が……」
「無意識に我慢していたのでしょうね」
「共に過ごせる時間ができたというのに、惰眠に耽ってしまうとは不覚でした」
「それだけ、安心したのでしょう」

 無意識に聞かされる惚気に、パパリモがお腹いっぱいだと舌を出す。イダは相も変わらずキラキラとした瞳で乙女のように楽しんでいるし、ヤ・シュトラはうんざりとした表情で興味を失くし、何処かへ行ってしまった。
しばらくして、集まってきた隊士たちを追い払うために出ていったイダとパパリモを見送り、眼鏡をかけ直したウリエンジェに、サンクレッドが悪戯に笑う。

「ちょっと買い物に付き合え」
「はい?」
「いい服をプレゼントしてやるよ」
「服、ですか」
「愛しの恋人様も、きっと喜ぶだろうさ」



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