*赤い糸
みずみずしい食材よりも、香ばしい香りよりも、なによりも魅力的で旨そうに見えるもの。
「ねぇ〜、まだ〜?」
「もうちょっとだ。我慢しろ。」
「腹が減っては何も出来ないよ〜。」
「だから俺が何か作ってるんだろ。待ても知らない犬か。」
エプロンの似合う新妻、ならぬ友人の背中にへばりつき、邪魔をする。背中に張り付く犬…もといジャックの妨害をものともせずに手を動かすマキナは、さすがと言うべきか。
「危ないからむこう行ってろって。寝ててもいいから。」
「え〜?まさか恥ずかしい??」
「バカ言うなよ。」
ふいと逸らされた視線に口端が弧を描く。規則正しい音が、崩れ始めたことも照れの証であろう。
「だから危な、」
「いった〜……」
「ご、ごめん…」
いきなり体重をかけられたからであろう。刃物を持つ手元が狂い、赤い筋が生んだ。運悪く自分ではなく、ジャックの指を傷つけた。この事実が罪悪感を増幅する。
「今、ケアルを…」
「いいよ〜。舐めてくれたら、ね?」
「出来るわけないだろ…ホラ。」
バカな事を言う余裕があるならば問答無用、とかけられた治癒魔法に不満の声。
そんな声を上げられても困る。睨み返してみるが、ジャックは怯むどころか、あっと手を打った。どうせくだらないことを思いついたのだろう、ならば構ってはいけない。包丁を握りなおした刹那の指への痛み。何があったのか、それはジャックが噛みついたから。手から離れた包丁が鈍い音をたてて落ちた。
「何するんだよ。」
「僕だけ痛いなんて不公平ー!」
この大きな子供は、喚くと厄介である。
「婚約指輪みたいだね。」
言われて見れば、ジャックにつけられた傷は左手薬指。そして痛みを感じたのも、同じ場所。
「ただの歯型だろ。」
「僕ら、いや僕にピッタリじゃーん。血生臭いのが、さ。」
赤い線が、輪を作る。運命の赤い糸のように。
++++
SMプレイに発展しそうな二人
12.1.13
[ 57/792 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]