えふえふ | ナノ



最高のお守り

※バッツがジタンに嫉妬する話


最近、スコールから距離を置かれている気がする。
いや、気がするではない。これは確信だ。何も言わずに離れていく後ろ姿を見て、バッツは眉間に皺を寄せた。
スコールは元々1人で行動するのを好む少年だ。それは知っている。
気がつけば1人で敵陣まで乗り込んでいったこともあるし、見回りと称して小一時間帰ってこないこともあった。仲間たちと合流してからも、素材や食材を集める2人当番になっても、1人でいつの間にか終えていることもあったし、武器の手入れをするときは離れて、皆が一望出来る位置にいる。勝手に行動しないようにと、ウォーリアやフリオニールに注意を受けているのも見かけたことがある。
だが、ジタンとバッツ、スコールの3人で行動をするようになって彼は変わっていった。勝手な行動はしなくなったし、何よりバッツが離さなかった。

「仲間である以前に、俺たちは恋人だからな!」

強く言い放った言葉に、彼は無言で俯いたのはよく覚えている。影の差した無表情に、引き結ばれた唇。感情を抑える事に必死な頬は、赤かった。
いつもは仲間に迷惑をかけるようなことはしなかったし、「勝手に行動はしないように」と恋人としての約束もした。
なら怒らせる事をしてしまっただろうか。首を捻りながら剣を振るうと「大丈夫か?」と陽気な声がかかった。
心配そうな丸い目で見つめてくるジタンは、スコールとは正反対である。1人で行動することは少ないし、いつも仲間たちの中心にいる。騒ぐ事が大好きであるし、普段は子供っぽく遊び回る。
「気にすんなよ」と手を振れば、「そっか」と納得をして笑顔を浮かべる。ああ、スコールならこんなに簡単に笑わないのに。と恋人と比べたところで、彼が出かける準備をするのが目に入った。

「んじゃ、行ってくるな」
「おう。行ってこい行ってこい」

武器を磨きながら、手と尻尾を振る少年にバッツは気さくな返事を返した。笑顔で走っていく少年ジタンは今日の見回りの当番らしい。
遊び相手がいなくなるのは寂しいが、仕事なら仕方がないと見送れば突然隣にいたスコールまでも立ち上がった。
トイレにでも行くのだろうか。気に留めずに作業を再開しようとしたら、「んじゃ一緒に行くか」と言う声が聞こえてぎょっとした。
慌てて頭を上げると、ジタンと何か話している彼が見えた。何を話しているのかは、離れてしまって聞こえない。それでも彼らが共に出かけるというのはわかった。

「おい、待てよ!」

自分も駆け出そうとしたが、気付いたジタンが「大丈夫だって!」と手を振ってきた。
違うそうじゃない。2人きりという状態からして大丈夫ではない。
スコールは大切な人だ。親友、では終わらない。恋人だ。
大切で目に入れても痛くない恋人が、他の男、しかも女好きでタラシな友人と2人きりという状態が心配なのだ。しかし慌てて付いていこうとした時には2人の姿はなかった。
しまった。思案に耽りすぎた。右往左往していると「2人は大丈夫だよ」と優しいセシルの声が聞こえてくる。
いつもなら「そうだな!」と快活な声で返せる。しかし今回は緊急事態である。

「お前、ジタンがスコールに何もしないと言い切れるか?」
「え? んー……大丈夫だよ」
「なんだよその間!」
「フフ、君は本当にスコールが好きだね」
「恋人は大切にするのが当たり前だろ!」
「その気持ちはわかるよ」

元の世界に恋人がいるというセシルは、ほんのり頬を染めて断言してくれる。のんびりとした声から出る芯の通った言葉に、相手のことをどれだけ大切にしているかは伝わってくる。
わかっている。ジタンは人の恋人を奪うような真似はしない。
けれども惚れた弱み、心配に嫉妬。もしかしたら、万が一、と暗い気持ちがわき上がってくる。

「やっぱり俺、探してくる……」
「ジタンも君たちのことはわかってくれてるから。心配しなくても大丈夫」
「でもよ!」
「君が一番彼らの事を知っているだろう?」

そう言われてしまえばぐうの音も出ない。
2人の関係を聞いても笑顔で祝福してくれたし、からかわれることもない。納得のいかない顔をしながらもおとなしく頷けば、眩しいばかりの微笑みが見えた。

「そんなに心配なら、体を動かせばいい。動けば忘れるだろう?」

甲冑の音がして、恐る恐る振り返るとそこにはウォーリアがいた。鎧と武器を完全装備した臨戦体勢はもはや見飽きてしまった。鋭い眼光で言われてしまえノーとも言えない。思わず身構えてしまえば、それが戦闘の合図になってしまった。

「2人もすぐに帰ってくる。それまでつき合ってもらうぞ」

どうやら鍛錬の相手を捜していたらしい。戦闘狂のような行動には汗が垂れるが、確かに忘れる為には体を動かすのがいい。待っているだけなんて性に合わない。
2人を探してあてもなく走り回るのも悪くはない。だが、皆を、スコールを守る為の力をつける方がいいと直感が告げる。
もう、目の前の人を守れないのは嫌だ。はっきりとした記憶はないが、いつも胸が痛み、目が覚める。

「ああ、いいぜ! すぐやられんなよ!」

今日はどの武器にしよう。咄嗟に彼愛用の武器を選ぶと、器用に武器を手の上で踊らせる。
ガンブレードは癖が大きいものの、一緒に戦っているような気になってお気に入りである。彼の前で使うと怒られる為に、1人で戦う時のお守りにしている。
「スコールの武器か……」と呟くウォーリアに野性的な笑みを向けると、地面を蹴り、懐目指して駆け出した。

*

ああ、青い空が眼前に広がっている。疲れきった体を大の字に広げて頬を撫でる風に目を閉じる。
久しぶりに何も考えずに戦えたかもしれない。いつもは彼が傍にいた。彼を助けないと、守らないと。
頼もしい存在で、信頼していないわけではない。だが、戦いながらも守る事を考えてしまい気が気でなかったのは正直な話である。
今は、久しぶりに自分の為に戦えた。背負う物がなければ、こんなにも動きやすいのだ。体が羽のように軽い。
それでも、足りない。何かが足りない。
体が軽くて違和感を覚えてしまう。

「やっぱりアイツがいないと調子が出ないなぁ……」
「よっ。お疲れさん」

空を遮ったのは、風に揺れる金糸だった。眩しい太陽の笑顔が、今日はやけに煩かった。

「ん……ああ、おかえり」
「なんだぁ? 元気ねーな」

いつものように笑うジタンだが、今日は一緒に笑える気分ではない。反抗するようにしかめっ面になると、不思議そうな顔をされる。

「なんだよ色男。俺の顔に見惚れてんのか?」
「そんなんじゃねえよ。……あれ、スコールは?」
「お前、いつもスコールの話だよな」

彼の事で笑われるのは我慢ならない。思い切り不機嫌な顔になれば、冗談じゃない事が伝わって「怒んなよ。内緒にして悪かったって」と両手を振り降参のポーズを取る。
わかっていて彼を盗る、というのは何かを企んでいる以外の何者でもない。
もしかして浮気だろうか。いや、スコールはそんな事をしない。何よりも嘘は得意じゃないし、根が真面目なのだ。
もしかして誑かされているのではないだろうか。それともマンネリなのだろうか。不安と嫉妬が渦巻いて、つい牙を剥いてしまうと「本当に悪かったって!」と必死な形相が見えた。

「ずっとお前には内緒しておきたいって、頼まれたんだ」
「何の話だよ……」
「本人から聞いた方が早いか?」
「わけわかんねえ」

ジタンが体をずらすと、そこにはスコールが佇んでいた。
いつもの孤高な立ち姿ではなく、なんだか自信がない足にこっちまで不安になってしまう。俯いていた顔を上げると、そこには強い決意の光りが宿っていた。

「手を出せ」
「へ?」

口答えを言わせない強く低い声に、反射で手を差し出せば手のひらに乗るものがあった。
それは、石で出来た刃だった。
綺麗に磨かれたそれは、その辺で拾った物ではない。人工的な手が加えられた顔が映るほどに鋭利に光り輝いていた。

「これって……」
「スコールがお守りを作りたいって頑張ったんだぜー。なかなかいい石が見つからねえし、うまく削れなくてやり直したし」
「余計なことを言うな」

ジタンの尻尾を乱暴に引くと、電灯のように静かになった。
つまりこうだ。
彼はこの石のナイフをプレゼントするために東奔西走していたらしい。きっと1人ではどうしていいか悩み、器用で物を見つけるのがうまいジタンにでも相談したのだろう。
それでも時間がかかってしまい、バッツが心配して嫉妬をしてしまうまで苦戦を強いられた、そんなところだ。

「……お前のお守りの羽はなくなってしまったから」
「あれか? 気にすんなよ」
「するだろ」
「俺も気にしなくていいだろーとは思ったけどさ。恋人にお守りを渡す、なんてロマンチックじゃねえか」

「まあ相手が女の子だったら理想だけどさ」と笑う彼には冷やかしも邪気もない。
友人を少しでも疑って罪悪感が湧きあがる。思わずしょげていると、無邪気な瞳で笑いかけられる。そうだ、彼は女たらしではあるが仲間思いで人の物を無理矢理盗るような盗人ではない。

「ジタン、ごめん」
「何がだよ」
「お前が、スコールのこと盗ったんだと思ってた」
「んなわけねえよ。もし盗ったとしても、当の本人がお前しか見てないっての」
「ジタン!」
「ははははは! じゃあお疲れさん。あとはうまくやれよ」

後ろ手を振りながら去って行くジタンをぼんやり見送っていると、慌てたスコールの声が彼の背中を捕まえようとする。また、彼がジタンに連れていかれる気がしてしまって、つい手を伸ばして捕まえると丸い目がそこにあった。

「……なんだ」
「ありがとな。大切にする」
「……そうか」

短い返事ではあるが照れているのは赤い頬で一目瞭然だ。頬をかく姿を見つめながらナイフを遠い太陽で透かしてみるが、黒い光りがまるで彼を見ているようだった。

「でも、俺にはお前がいたらお守りなんていらないけどさ」
「は?」

さっきの模擬戦でわかった。一番のお守りは、守りたいと思う大切な存在そのものだ。それがあるだけで頑張れる、自分の全力以上の力が出せる。
疲れたって構わない。それで彼が守れるのならば喜んで力を振るおう。

「俺の最高のお守りは、お前だからな! もう絶対に離さねえ!」

笑顔の告白の答えなんて、最初から決まっていた。

++++
バッツの羽の代わりに、お守りを探してくるスコールの話

17.9.26


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