えふえふ | ナノ



クリスマスネタまとめ

注意


※異説外伝状態
※4つのCPが入ってます
※全部上から繋がっていますが、単体でも楽しめるかと思います



【クラセフィ】 / 【フリマティ】 / 【バツスコ】 / 【ジタクジャ】















クラセフィ

見上げれば薄汚れた血のような色の空が広がっていた。
秩序の神が失われてからずっとこうだ。空は曇り、闇が陰り、生き物たちも怯えるようになりを潜めてしまった。
こうやって食材を探すのにも一苦労である。昼を回った頃なのに鳥が飛ぶ事自体が珍しい。
青も負けて空を追われてしまったのだろうか。雲に覆われた天を眺めても何も答えはでなかった。
木々の間から見える丸い空。まるで瓶の中に閉じこめられたかのような錯覚に陥って落ち着かない気持ちになる。
闇の中から、落ち葉を踏む音がした。振り返る必要もない。続けて空を眺めていたら足音は隣で止った。

「何を見ている」
「空」
「感慨に耽るのもいいが、早く行かねば本当の闇がくるぞ」
「わかっている」

何組かに分かれて食料の調達をしているが、已然生物の気配はない。
「食料など必要ない」と豪語するエクスデスや暗闇の雲はいいとして、他の者は体力をつけなければ決戦まで保たない。
一時は争った仲ではあるが、一時休戦すると言い出した以上は責任をもたねばなるまい。

「獲物はいたか」
「魔導士たちがセンサーを張り巡らせるが何もかからない」
「クラウドー!」

遠くからティファが息を切らせて走ってくるが、表情は浮かない。セフィロスがいるからかもしれないが吉報は望めないだろう。

「こっちもダメ。何もいないわ」
「困ったな……」
「このままでは今晩は水のみか」
「不吉なことを言わないでくれ」

彼女に睨まれながらもセフィロスは楽しそうに笑う。まるでからかっているかのような物言いには困ったものだ。

「もう、こんな奴放っておいて、私たちといきましょ!」

胸に押し付けるように腕を引かれ、思わずバランスを崩した。
左右から強い力で引っ張られたのだから。

「クラウド! こっちででっかい影を見たッス!」

いつの間にやってきたのだろうか、ティーダが反対側の腕を強く引っ張っていた。また彼女の機嫌が急降下。負けじと強い力で引かれてしまい、腕がちぎれるかと思った。武術をたしなむ彼女の力は計り知れない。

「ダーメ! クラウドは私と行くのよ!」
「俺が道案内しないとわからないだろ」
「そんなの、音でわかるわよ!」
「なんでいつもクラウドを独占しようとするんスか!」

まるで子供が父親と取り合うかのような稚拙な言い争いに頭を抱えるしかない。
同郷のよしみでティファと一緒にいくのが落ち着く。しかしティーダじゃないと獲物の場所はわからない。どうしたものかと思案していると、いきなり腕を掴まれて浮遊感がした。
言い争いをしている子供たちは足下に見える。じゃあ誰が?

「こっちだ。音がした」
「セフィロス……?」
「2人の対処に困っていたのだろう。顔に出ていたぞ」

何でもお見通しだと笑う彼にはぐうの音もでない。楽しそうに笑いながら木々を蹴り、黒い羽を広げる姿を睨みつける。

「あ、羽」
「私の事ではないだろうな」
「そうだと言ったら?」
「食べるところなどないぞ」

怪訝な表情で慌てて羽をしまうところは焦っているらしい。そんなに空腹を表情に出していた自覚はしていないが、彼を警戒させているのはわかった。笑える冗談と笑えない冗談の違いも大体わかった。

「食べる所はあるだろう」
「まだ言うか」
「お前本体とか」
「……は」

バカにした表情をされるなんて心外である。少しずつ距離を置かれているからこれもマズイ冗談だったようだ。以後気をつけようと思う。
突如、地面に影が差した。木々を揺らす羽音と鳴き声に身構えると、姿を確認する前にフェンリルを構える。

「これが噂の獲物らしい。行くぞ」

5m以上はあるだろう巨体は食料としては十分である。これを仕留めれば今後の非常食としても多いに役に立つ。期待を胸に地面を蹴ると、ため息をつきながらもセフィロスが続く。
「先程の言葉、どこまで本気なのだ」とぼやきながら。

+END









フリマティ

背中からいきなり堅いものが投げつけられた。
鳥の下ごしらえの為に血抜きをしていたから、危うく指を切る所だった。抗議と非難を込めて振り返れば、杖を振り上げて再び投げる体制をとった皇帝がいる。
退屈そうに頬付けをつき、機嫌取り酒にも口をつけていないようである。
無視をすると機嫌が悪くなるのはわかっている。暴れだす前兆がわかってきた為に直前で抑える事は可能だ。しかし今回のような予兆は初めてだ。
フリオニールも人間だ。邪魔をされると怒る。一度本気の喧嘩になって以来彼は学習して踏み込まないようになった。

「おい」
「なんだ」
「まだ終わらんのか」
「初めて一刻もすぎていないが」
「他の者にやらせればよかろう」
「役割分担だ」

反論をすれば納得のいかない顔をするのもいつものことだ。いちいち構っていては日が暮れる。
今日は大きな鳥が取れたと皆がはしゃいでいた。珍しくクラウドが率先して狩ってくれて育ち盛りの男児たちは大喜びだ。大きさからしてロック鳥だろうか。さばくのも一苦労である。

「フリオー。こっちの羽は終わったぞー」

巨体の向こうから羽を頭につけたヴァンが顔を上げた。
エアロの魔法をふんだんに使い手伝ってくれるのは非常に助かる。魔法があまり得意ではないために、そんな器用な使い方は出来ないのだから。

「助かったよ、ありがとう」
「なあ、ここで羽毛に埋もれて幸せそうな奴はどうする?」
「チョコ、クラウドの所に連れて行ってくれ」

「ボコー」ぼやきながら離れないバッツ首根っこを掴むと、ゆっくりと引きずっていく。
寝ているのか起きているのかはわからないが、力が強くて羽が根こそぎ抜けたのには驚く。手間が省けたからよしとしよう。

「なあ王様。早く終わってほしかったら手伝えよ」
「何故平民の仕事を私がせねばならん」
「いつもこれだ」

あきれ顔で乱暴に連行していく姿を見送って、再び刃を入れる。所々傷が入っているのはきっとクラウドの仕業だ。その傷を便りに刃を入れるとすんなりと羽の部分が落ちた。鋭い切れ味に驚いた。
また背中に堅いものがぶつかった。背骨を狙っているのはわざとに違いない。眉を寄せて振り返ると、ちょうど投げた箱を引き寄せているところだった。
乱雑に扱っているわりには綺麗な箱だと思う。

「それどうしたんだよ」

問いても無言で引き寄せるだけだ。手中に収めると弄びながら恨めし視線で威嚇をしてくる。
そんな怒れる動物のような目をされても困る。懐に入れて隠す動作は拗ねた子供だ。
相手をしたいのはやまやまである。だが今日に限ってはりきる者たちがいる以上、手を抜く事は許されない。斧に持ち替え首を落とそうとすると、風を切る音がした。

「動くな」

言い終わるか否や頬をかすめる一陣の風。小さな痛みが走り血すら滲み、体が硬直すると跡を追うように風が横を吹き荒む。
皇帝の魔法だ、と気がついた時には目の前の鳥は綺麗に解体されていた。後ろの男は涼しい顔で、子供が絵を描くかのように指を踊らせている。

「見ていてるだけで欠伸が出る。貴様らに任せていては飯を食いっ逸れるわ」
「あ、りがとう」
「もっと敬意を込めろ」
「ありがとう。助かった」

向き直って正面から礼を言えば、照れながらも鼻を鳴らす。
足を紐で括って吊るし上げと、少量ながら水たまりほどの血が流れる。これで大体終わったと切り落とした破片を拾っていると、また背中に当たるものがある。何がそんなに気に食わないのかは知らないが、今日は一段と機嫌が悪い。
慌てて振り返ると、腕の中へめがけて鳥の破片が飛び込んできた。

「さっさと受け取れ。日が暮れる」

間髪入れずに飛び込んでくる鳥たちに、慌てて木の器を用意すると目標を変えた。あっという間に山になった様を感心していると、次は風が巨体を刻んでいく。
これでもう準備も終わるかと思えば、遠くからヴァンの声が聞こえた。その声にいち早く反応したのは皇帝だ。眉を寄せたと思えば、いきなり切り刻もうとした風の刃が止った。

「届けてきたぞー」
「ありがとう」
「あれ、もう出来たのか。早いなー」

「それは皇帝が」と言おうとすれば魔力に引き寄せられて杖が口を塞ぐ。手を貸したことに苦い顔をする彼の横顔を、微笑ましい表情で眺めていると手の匂いを嗅ぎながら怪訝な顔をしているのが見えた。

「獣臭い」
「ここに風呂はないぞ」
「水場はどこだ」
「あっちだなー」

間の抜けた返事が聞こえたや否や滑るように進んでいく。当然フリオニールは引きずられる体制となり非難の声を上げる。

「俺は関係ないだろう!」
「貴様が一番獣臭い」
「まだ準備がある!」
「あとは空賊に任せてよかろう。それとも、私に1人に人目のつく場所で水浴びをしろと」

こうなっては何を言っても無駄のようだ。ため息をつき体の力を抜けば、マントの裾から何かが落ちた。

「おい、何か落ちたぞ」
「ああ。拾え」

これはさっき皇帝が投げつけていた箱ではないか。揺すれば音からして小さな物が入っているらしい。

「ホラ」
「返すな。貴様の匂いが移る」
「失礼な奴」
「責任をとって持っていけ」

不敵に口角を上げたと思えば、歩調が早くなる。機嫌がよくなるようなことをした覚えはないが、機嫌がよくなったのならよしとしよう。
日を明けて朝に小箱を開けば、中からはローズクォーツのついた指輪が現れた。

+END









バツスコ



「なあ、もう歩けるって」
「じゃ歩けよ。お前、重いんだよ」
「筋肉と言ってくれ」

バッツは引きずられていた。ふかふかした羽毛に夢心地になっていた所を容赦なく引きはがされて、引きずられていた。
ヴァンはなかなか遠慮がない。空気も読まないし今も靴が擦れて大変な事になってきた。
一体どこまで連れて行かれるのだろうか。遠くにまた別の一団を見つけたが、イミテーションかもしれない。それでも大手を振りながら走っていく彼には感服する。他の者に言えば「お前が言うな」とくると自負はしているが。

「おや、空賊の坊やではありませんか」
「あ、魔女のお……おば、おね……お前何歳だっけ」
「口の減らない坊やだこと」

女性に容赦なく年齢を聞く所もさすがだと思う。さすがにここまでできない、こともないがしようとは思わない。命は惜しい。
咄嗟に殺気から身を引こうとして気がついた。アルティミシアの膝に見知った顔がある事を。

「スコール? どうしたんだ?」
「見張りをしていたら疲れて寝こけてしまった。昨日も寝ずの番だったからな」

櫓の上から丁寧に答えてくれたのはライトニングか。顔をこちらに向ける事もなく前を見る姿は立派な女戦士だ。横にはティナも座り込んで上から笑顔で手を振ってくれた。2人で振り返すが、そういえばオニオンの姿がない。珍しく別々の配置のようだ。

「それでどうした。お前たちは調理班だろ」
「あまりにコイツがサボるから、狩り組へ引き渡しに」
「サボってた訳じゃないぞ!? ただのホームシックだ」
「半分寝てたくせに」

ムキになって言い争いを始めると、シーっと息の音。ティナが口に指を当てて、無言でスコールを指差して気がついた。慌てて口を抑え合うと彼女も笑顔になって手で丸い形を作っている。

「よし、俺もここに残るぜ!」

小さな声で豪語すれば、ヴァンからため息が聞こえた。

「お前なぁ。狩りが得意なんだしそっちに行けよ」
「スコールを女性ばかりの所に置いておけるか!」
「一緒にいたいだけだろ」
「女は獣より怖いんだぞ! それに俺はフラグなんて立たない!」
「威張れた事か、それ」

座り込んでだだをこねるとこれ以上の説得は面倒くさいと考えたのだろう、何も言わずに元来た道へと戻っていった。
きっとフリオニールもわかってくれるし、見張りも立派な仕事だ。ゆっくりと眠る彼に近づけば、アルティミシアが離れていった。

「貴方が来たなら任せます。私も昨日から休んでいないものでね」

昨日の見張りはスコールとウォーリアだったはず。
さりげない気遣いに頭を下げると、面妖に微笑まれた。大人の色気というか、魔女の妖しい魅力というか、童貞ならば落ちていたかもしれない。
そんなことよりもスコールだ。
マントを外すと枕代わりに膝に敷き、ゆっくりと頭を乗せる。女性の太ももよりも堅いが、起きる気配はない。余程疲れていたのか、気付いて上げられなかったことに罪悪感がわき上がる。

「カオスの根城も近いからな。ずっと気を張っていたようだ」

相変わらずライトニングは視線を外す事なく告げる。赤い空の向こうに雲が立ちこめ、まるで煙のようになっている。
あそこが、暴走したカオスのいる歪み。目指している場所だ。

「それはお前も同じだろ。毎晩寝てないの知ってるぞ」
「私は昼間に仮眠を取っている」

仲間を思いすぎて気を張り巡らせるのは皆同じ。
バッツ自身も1人眠れぬ夜を過ごしたことは少なくない。昨夜も目が覚めたら、彼が外を眺めていたのも知っている。声をかける事も出来ずに寝たふりをしたが、一体何を考えていたのだろうか。
問いかける幼い寝顔を眺めて髪を撫でてやれば、小さな声が聞こえた。

「いつもごめんな」

額に口づけると身じろぎをする。くすぐったかったのだろうか、それでも構わずに何度も口づけを落とすと「もうそのくらいにしてやれ」と静止が聞こえた。
まだまだ足りないが、この辺にしておこう。顔を離すと仄かに赤くなった健康的な寝顔がそこにある。

「ふわぁぁ、俺もなんだか眠くなってきた」
「やれやれ。お前は何の為に来たんだ」
「いいじゃない。おやすみなさい」

2人の優しい声に、意識はすぐに遠のいていった。
それから数時間経った頃。森へと探索へ出ていたオニオンナイトたちが帰ってきた。

「ただいまティナ! 木の実を取ってきたよ!」
「お帰り。頼んでいたものもあった?」
「モミだよね? 今セシルたちが運んでるよ」
「ありがとう! これで準備ができたわ」

笑顔で手を合わせる少女に答えるように、少年は微笑む。遅れて戻ってきた皆は陣へと戻る中、ラグナは櫓の影に凭れ掛かる人影に気がついた。

「おー、スコール。お姉様の膝枕は終わりか」
「今は大きい子供のお守りだ」

風に吹かれて揺れる茶髪を、優しい手が撫でる。身じろぎをしながらも幸せそうに眠る姿を見て彼も小さく笑った。

「これが寝言で呼んでた『彼』だろ」
「なっ!?」

珍しく感情的な声を上げる姿に、ニンマリと笑う。すっとぼけて口笛を吹くとすごい剣幕で噛み付かれた。膝に重しをする存在がいなければ掴みかかられていただろう。

「あれ、違ったか? まだ全員の名前と顔がわからなくてなー」
「寝言なんて言っていたのか!?」

慌てている姿を見るのは楽しいが、虐めるのはほどほどにしようと思う。

「嘘だよ。でも自覚してるなら応えてやれ」

「スコール……」と小さく呼ばれて、思わず赤面する姿が微笑ましい。
次にからかうのはバカップルの言動にしよう。恋人よりも親子を見ているような慈愛に満ちた手に、思わずぼやいた。「ケーキよりも胸焼けする甘さだ」と。

+END









ジタクジャ


鬱蒼とした森の中、虫たちの輪唱と光だけが闇を彩る。
悪戯好きの妖精のように、浮かんでは消え、消えては現れ好き勝手なダンスを踊りだす。幻想的ではあるが、一歩間違えば闇の中だ。仲間たちに目配せをしながら魔法を絶やさず、巨大なモミを運んでいた。

「なんでこんな薄暗い場所にこなければいけないんだ」
「しょうがないだろ。どこの森もこんな様子なんだ、近いにこした事はない」
「ジメジメしてるし虫は多いし……はぁ。やになっちゃうね」

カンテラを器用に尻尾で掴みながら、ジタンは皆の先導に立つ。初めは保存食になる木の実やキノコ、薬草を探しにきたのだがティナから「モミがあったら取ってきてほしい」と頼まれて二つ返事をしてしまったのだ。
「小さいものでもいい」と言われたから簡単な依頼だと思っていた。
だが盲点だった。この森の木々は巨大化が進んでいて、小さいと言っても3mは超えてしまっていたのだ。

「どうだカイン? 出口はまだか?」

脚力を生かして木の上から偵察をしてくれているカインへ問いかけるが「まだ光は見えない」と絶望的な返答。特に周囲に変化はない、と言われても闇ばかりの場所では気を張りつめてしまう。
エクスデスは楽しげではあるが、セシルの笑顔に元気がない。挙げ句の果てには後ろに浮かんでいるだけのクジャが、悲観的な事を呟き続ける。疲労も溜まるわけだ。

「大丈夫かセシル」
「うん、大丈夫だよ兄さん」

背後から互いを想い合う兄弟の美しいやりとりがあっても、何もしない男が自分の兄だと思い出すだけ。その落差にまだ気が滅入ってきた。

「ねえ、知っているかい? モミっていうのは聖書に出てくる知恵の木の代用品さ」
「聖書?」
「地域によってはお祭りになっているようだけどね。聖書にでてくる偉人の誕生日に使うそうだよ」
「ふぅん」

いきなり何を言い出すかと思えば知識自慢らしい。モミの上に座り「重い」とエクスデスが一喝されても聞く耳は持たない。

「本物じゃないのに持て囃される。すごいもんだね」
「偽物ってわけでもないだろ。本物がないから代用してるだけだし」
「生命の樹、なんて大層な名前まで奪っているのに?」

一体何を言いたいのかわからない。でも大体の予想はついた。
「偽物」「造り物」「紛い物」この言葉に強く惹かれているのだ。彼はこの言葉を毛嫌いする。元の世界の記憶が薄れているが、いい思いをしないのは同じだ。ガーランドに対する怒りもそれが関係しているのは薄々わかっていた。
ふてくされて葉を抜き始めたところで、怒られた所で曲がったヘソは治らない。どうしたものか、と思案しているとゆっくりと雪が降ってきた。

「あ、雪」
「数日前までは暖かい気候だったのに」
「それほど世界が不安定だということだな」

これ以上はまずい。道を見失うと遭難の恐れもある。
温存していた魔力を使い、2人がかりでモミを浮かせると早歩きになる。
兄弟の歩幅を合わせようと駆け出すと、いきなり尻尾を掴まれた。相手なんて確認しなくてもわかる。兄だ。

「離せよ」
「イヤだね」
「機嫌直せよ」
「怒ってなんかいない」
「嘘付け」
「しつこい」

拗ねるといつもこうだ。強くなる力に頭をかきながら観念して振り返る。真っ直ぐ白く儚い姿を見つめると真っ直ぐ告げる。

「造り物だとか、偽物だとか、代わりだとか関係ないだろ。お前はお前だ。俺にとって価値があるのはお前だ、クジャ」

しんしんと雪だけが降っている。周囲には誰もいない。
急にクジャが吹き出した。クスクスと笑われるなんて心外である。こっちは恥を忍んで真面目に告白したのだから、ふざけているつもりはさらさらない。
しばらく腹を抱えて笑っていたが、ゆっくりと波は引いていった。膨れ面で腕を組んでいると「ごめんごめん」と気持ちのこもっていない謝罪が聞こえた。

「君のロマンチックな告白、確かに受け止めたよ。ククッ」
「おい。わざとだろ」
「悪いね。こんな三文芝居は初めてで。あははっ」
「もう知らねえ! 置いていくからな!」

踵を返して皆に追いつこうとして、姿を見失った事に気がついた。慌てて足跡を追おうとするが足下が暗くて見え辛い。
蒼白とする顔を覗き込んできた白い顔を睨みつけると、目を瞬かせて首を傾げる。状況がわかっていないのか、それとも何か策があるのだろうか。

「皆がいないこと、気付いているか?」
「ああ、本当だ。大変だ」
「絶対思ってないだろ」
「まあね」

やはり危機感がないだけか、と慌てて駆け出そうとすると呆れたため息が聞こえてくる。ため息を着きたいのはこっちだ、とムキになって振り返ると手に炎を宿した彼がいた。

「雪の中、むやみに体力を使うのは自殺行為だ。知らないのかい?」
「……知ってるよ」
「仕方が無いから僕が力を貸してあげる。豪華客船にでも乗ったつもりで安心していなよ」
「どこぞの船が沈んだ話、聞いた事あるぜ」
「そんなボロ船と一緒にしないでおくれ。お礼はちゃんとする。借りにはしない」
「お礼?」

さきほどまでだらけていた姿が嘘のように、巨大な炎を作り出すと辺り一面を照らし出す。
すぐに見つけた。前方を進む人影とモミという奇妙な一団を。慌てて走り出したい気持ちを抑えて、振り返り白い手を取る。雪女にしては暖かく、人間にしては強すぎる力を持つその手はゆっくりと握り返してくる。

「モミの下で告白された者は」
「ん?」
「なんでもない」

楽しそうな鼻歌を音楽代わりに2人だけで雪の中を走る。
ロマンチックというには状況が危機的ではあるが、炎に照らされた氷の結晶がまるで妖精のように跳ね回る。
虫たちはもうどこかへ消えてしまったが、さっきよりも世界が美しく見える。このまま2人でどこかへ行ってしまおうか。いや先に世界に巣食う偽物の神を倒そう。
帰るべき場所に帰る為に。

+END

++++
16.12.24

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