えふえふ | ナノ



優しさ不器用

別段辛いことがあったわけでもない。人目を憚って宙を仰いでいたかった、それだけである。
地獄の城と呼ばれるだけはあり、ここは人があまり通らない。
だが他人の気配がしたのは、やってきて間もないくらいだった。

「何をしている」

後ろから突然地を這うような声が聞こえ、慌てて振り返ればそこには無表情の皇帝が見下ろしてきていた。
金色が眩しいく見えて目を細めると、負けじと紫を引いた目がさらに細くなる。

「何故泣いている。女々しい奴だ」
「泣いてる?」 
「自覚していないのか」

慌てて目尻を触れば、確かに濡れている気がする。
しかし覚えはない。別段泣く理由もなければ、言われるまで気づかなかった。
思わず目尻をぬぐい続けていると、突然背中に重みを感じた。

「え?」
「おとなしくしていろ」

体重全てをかけ、背中にもたれ掛かられて振り返ろうにも動けない。身動きしようものなら理不尽にも腰を打つ杖に、背筋が伸びてしまう。
何を考えているのかわからないのはいつものことだ。それでも今日は一段と考えが読めない。

「なあ、動けないんだが」
「動く必要はない」
「なんでそこに座るんだ」
「椅子が遠いものでな」
「いや、お前はいつも魔力で浮いてる」
「何故私が動かねばならん」

意地でも動く気のない態度に、閉口するしかない。
本気で抵抗して身を捩れば杖で殴られてしまった。
しばらく続いた沈黙は不快なものではなかった。ただ天敵と二人きり、なにも言わない空間が心地よいというのも不思議ではある。
沈黙がありがたいと思うほど、心は弱っていたのかもしれない。自覚していなかっただけで、涙のように脆くなっていたのかもしれない。
また涙が溢れそうになり、鼻をすするとわざとらしいため息が聞こえてきた。

「城に異物が入り込むのは不愉快だ。メソメソしているなど虫酸が走る」
「そこまでいうなよ。・・・・・・こんな顔を誰かに見られるのも困る」
「ならば動く必要もないだろう」

多分、これが彼の精一杯の優しさなんだと思う。何故優しくしてくれるのかはわからないが、今はこの温もりに甘えていたい。
それでも、もう涙はでなかった。

+END

++++
あなたは『泣き顔を見られてうろたえる』フリマティのことを妄想してみてください。

よし、いけるぞ!

16.12.9

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