えふえふ | ナノ



「俺の新妻を紹介します」

※皇帝女体化
※「俺の嫁を紹介します」の続き
※らぶらぶ




フリオニールの朝に日課が出来た。
見張りを負えたのは朝日が昇る前。いつもなら日が昇ってから後退するのだが背中を押されてしまっては頷くしかない。
気を使われているのはわかっている。だが素直に頷いてしまうのは、フリオニールも早く戻りたい理由があるからだ。
仲間の行為を甘んじて受け、乱雑に武器が散らばる部屋へと足を向けると布団が膨らんでいるのがわかる。
安堵のため息をつき、ゆっくりと足を進めると布団から金色が顔を出した。

「おはようマティウス」
「おはよう、ではない」

怒り心頭で口もとまで布団をたぐり寄せると、親の仇のように睨みつけてくる。苦笑いをして誤摩化すが、相当ご立腹らしい。

「今日も見張りか。」
「『早く戻れ』って言ってくれたから、早くに戻って来れたけど」
「私の元にこなかったのは、『一緒に寝るのが嫌』というわけではないのだな」
「それは……ないさ」
「何だその間は」

鋭い目で睨まれては怯むしかない。
空笑いも無駄に終わり、暖かい腕が冷たい腕を掴む。それだけで心も温められるようだ。

「また、来てくれたんだな」
「貴様が来ないからだ。妃を歩かせるとは何事だ」
「すまない……あの城の構造がまだわからないんだ」
「下までくれば迎えに行ってやらん事もない」

照れくさそうに言う姿に自惚れてしまう。この女皇帝にこんなにも愛されているのだと思わず頬をかく。
薄い布を巻き付けただけの寝間着だけを身につけ、ずり落ちた布団すら面妖に見える。熱っぽい視線で誘いながらも布団から白い姿を現した。

「無駄な見張りに労力を割いている上に、夜這いにもこない。最近おざなりだろう……」
「そう、だな」
「何だ? 物欲しげでだらしない表情をする」

白い足に目が釘付けになっていると、ずらした布の中から形のよい胸が顔を出した。腕に乗せて誇張する姿も性的で、唾を飲み込むとベッドに押し倒した。

「ふふ、朝から元気だな……」

勃ち上がり自己主張を始める雄にマティウスもうっとりと頬を染める。
これからやってくるであろう荒々しい愛撫を期待して、自ら服をはだけさせていく。ゆっくりと顔が近づいてきて、唇を奪われる……と思ったがそのまま胸へと落ちた。
しかしそのまま動かない。もしやと思い見ると、寝息が聞こえてきて眉を寄せた。乗っかられて布団代わりにされたことよりも、お預けをくらったほうが怒りを呼ぶ。
それでも目の下の深い隈に、夜が寒かった事を思い出して何も言えなくなる。
こんなにもほだされて、人間らしい感情をもってしまうのは彼と一緒の時だけだ。起こさないように布団へと招き入れると、そのまま抱え込んでやる。冷たくなった体から重い鎧を外すと乱暴に放り出す。

「今夜は覚えていろ」

恨みがましくも優しい声で柔らかい猫毛を撫でると部屋を後にした。
このまま根城へと帰るわけではない。勝手知ったる人の家、真っ直ぐにキッチンへと向かうと食料棚を開いた。
リビングには誰もいない。まだ日も昇っていない早朝だ、戦士たちも見張りを信じて眠っているところだ。
別に今ここで暴れて一網打尽にしよう、などとはもう考えずにただ眠る恋人のことしか頭にない。暴君と呼ばれていたのが嘘だと思うくらいにほだされていた。
綺麗に片付いているキッチンの棚を遠慮なく開けて、食料を探していると扉から気配がした。思わず杖を構えて振り返ると、そこには壁に体を預ける金髪の青年の姿があった。

「兵士か。何の用だ」
「また誰かがつまみ食いに来たのかと」

武装をしているということは、フリオニールを気遣ってくれたのは彼なのだろう。そう思うと好感さえ持ってしまう。杖を魔法で消すと、再び背を向けて棚をあさり始める。

「フリオニールは休んでいるか」
「奴に朝食を作ってやろうかとも思ったが、私は今まで料理などした事はない」
「だろうな」
「どうすればいい。燃やせばいいのか」
「台所がなくなるとフリオニールが怒る」

手のひらで燃え盛った炎はフリオニールの名前を出すことで鎮火される。唸る彼女を尻目に、クラウドは料理用のナイフを手に取った。

「俺がやる」
「それでは意味がない」

意地でも場所を譲る気はないらしい。ナイフをぶんどると、慣れない逆手で持ち始めた。これはまずい、と深いため息をつかれてナイフに手を置かれた。

「やはり俺がやったほうがいいだろう……危ないぞ」
「なめるな。血なまぐさい事は慣れている」
「料理で血なまぐさい事が起きるのが問題なんだ」

顔を抑えて唸るクラウドに、皇帝はむっとなる。先ほどの好感度はどこへやら、その目は細くなり敵を見ている時の光を宿している。包丁を振り回しそうな眼光に、クラウドも愛刀に手を伸ばしてしまうほどだ。

「……わかった。手は出さない。だが見張るのはいいだろう」
「敵の見張りはどうした」
「……まずいな」

口を抑えて悩む彼に、思わず笑ってしまった。目が合ったと思えば見開かれる青い目。「なにかおかしいか」と訪ねたら「笑った所なんて初めて見た」と目を瞬かせる。
「フリオニールのおかげだな」言っている意味はわからなかったが、貶されたわけではないならいいとしよう。
台所へと向かおうとすれば、女の声がその背中を引き止めた。

「フリオニールに言わないと、勝手に台所に立つと怒られるわ」

振り返れば、そこにはいつもの赤い服とは違う、ゆったりとした寝間着を着たティナがいた。眠そうに目を擦りながらも引き止める姿から、彼女の真面目さがよくわかる。
何故かもやもやした。他の女から“フリオニール”という名前を聞くだけで、無性に落ち着かない。しかし苦情を言おうとも何を言っていいかがわからない。口をつぐんでいると「いい所にきた」とクラウドが安堵する。

「彼は先程まで見張りをしてくれていた。今は寝ている」
「そうなの?」
「そんなフリオニールのために、彼女が朝食を作るらしい。見ていてくれないか」
「わかったわ。でもエプロンを取ってこないと」

走りにくそうな薄いロングスカートをなびかせながら、ティナは廊下を戻っていった。欠伸をかみ殺しながら戻る準備を始めたクラウドを思わず呼び止めると、気さくな返事。
少し躊躇いながらも意を決して赤い顔で睨み返すと、吐き捨てるように言葉を紡いだ。「男は何を作ってもらったら嬉しいか」と。


***


コトコトとスープが煮える音と一緒に、いい匂いが鼻をくすぐる。
おたまを持ちながらも額にシワを寄せる皇帝の傍らには、料理の本を片手に鍋を見つめるティナの姿がある。
2人とも可愛らしいエプロンをつけており、キッチンがいつもより華やかである。綺麗で端正な顔の美人と、可愛らしくおっとりとした少女が並んでいることもあり、一層周囲が色づいて見える。

「塩、がいるか……」
「はい、塩」

ぼやくだけで、すかさず調味料が出てくることに閉口した。
元の世界では当たり前だった気がする、だがこちらに来てからは言う事を素直に聞く下僕もおらず、不便で仕方なかった。
笑顔で塩の入った箱を手渡してきているティナが少しまぶしく見え、照れ隠しに咳払いを1つと「……ご苦労」と謝礼を一言。
気にした様子もなく、少女は小さく頷いた。

「味はこのようなものでいいのか」
「うん。大丈夫。少し辛いかもしれないけど、好みだから」
「味がいいか悪いかではない。奴好みかどうかが問題なのだ」

真剣に告げるものだから、ついつい笑みが漏れてしまった。怪訝な顔で見てくる皇帝に慌てて両手を振ると弁解する。

「仲がいいから羨ましいな、って」
「当たり前だ。夫婦なのだからな」

力強く答える姿に一層笑みが深くなる。赤らんだ頬は恋する女のもので、可愛らしいと思ってしまう。
2人が正式に交際の発表をしたのは最近の話であるが、片時も離れることはなかった。前々から宿敵ということもあり、一緒にいることが多かったがその時からお似合いだったのかもしれない。1人でいるだけで心配してしまうほどだ。
嘘も偽りもなく、互いを大切にしていることはよくわかった。だから仲間たちは敵であっても咎めはしないし、何よりも彼女がフリオニールの部屋にいることにすっかり慣れてしまった。
2人の事は応援したい。ティナもその1人である。味が整っていることだけを確かめると、あとは彼女の愛情に任せる事にした。

「他に何か必要?」
「材料が必要なら俺たちが行ってくるぜー」

突然の男の声に目を向けると、机の向こうから数人の顔が覗いていた。からかいにきただけかと思ったが、手伝ってくれるらしい。「美人の作る物はなんだって美味しいからな!」と豪語するジタンはおこぼれを貰う気満々である。
目を輝かせて背中を眺めてくる者たちに不快感を表せども無碍には扱わない。丸くなったのは本人も自覚済みで今更何かを言うつもりもない。
ティナの笑顔に見つめられながらも手を動かしていると、子供たちのぼやきが聞こえてきた。

「すっかり新婚さんだな。羨ましいぜー……」
「俺たち彼女すらいないッスからね」
「ユウナちゃんはどうなんだよ」
「まだそんな関係じゃねえよ」

照れて目をそらすティーダに、からかいと祝福の口笛が吹かれるわ小突かれるわ。拗ねて怒る彼に、蜘蛛の子を散らしたように逃げ出す2人。子供たちの鬼ごっこを尻目に、ティナはまだまだ手伝う気満々で近くに座っていた。
そんな中、ゆっくりとした動きで廊下への扉が開かれた。

「お、はよう?」
「起きたか」

フリオニールが欠伸をかみ殺しながらリビングにやってくれば、出迎えてくれたのはエプロン姿のマティウスだった。
白が基調の薄い布地に、同じく白いレース。太ももまでの短い丈なのがまたそそられてしまう。ストイックで女性らしい服を好まない彼女には異例の選択であり、新鮮さを増す。
思いもよらない姿に目を瞬かせていると、凝視されて照れた彼女が体を抱きしめるようにして背中を向けてしまった。
後ろ姿から下にもちゃんと服を着ている事を確認して、安堵と少しの落胆。それが表情に出ていたらしい。睨みつけられてしまった。

「その、エプロンも似合ってる、な」
「貴様の頭にはそれしかないのか。腹は空いているだろう」
「ああ。もしかして」
「私の作った物は食べられないのか」

差し出された更に、フリオニールは目を丸くした。
目の前の赤い顔と皿の上の不格好な料理を見比べると、頬を染めて笑った。


「嬉しいよ。お前が俺のために料理を作ってくれるなんて思ってもみなかった」
「調子に乗るな。私の分の……ついでだ」

先程まで彼の為に四苦八苦していたとは思えない言葉に、その場にいた皆は苦笑する。しかし口にしないのは巻き込まれたくないためだ。
人の恋路を邪魔するものは、馬に蹴られて死んでしまえ、口は災いの元。よく言った物だと思う。

「それでも嬉しいよ。ありがとう」

知ってか知らずか、いや天然だろう。純粋なお礼に彼女は苦々しい表情で押し黙った。
彼の純粋無垢さには未だ慣れなれずに振り回されてばかりだ。そんな初々しい所に引かれたのも事実であるし、ときめいてしまう。

「器用だもんな。美味しいに決まってるさ」
「あ、当たり前だ!」
「ティナもずっと見ててくれたんだろう。うちの嫁が面倒をかけなかったか?」
「ううん。楽しかったわ」

彼が別の女性と話すだけでも膨れっ面になる様に、野次馬たちは冷やかしの口笛を吹く。同時に頭上に炎の玉が通過して悲鳴に変わった。
すぐさまフリオニールに向き直ると、強く腕を掴んで引き寄せた。

「口を開けろ」

不思議そうな表情をしながら大きく口を開けた彼に、呆れたため息をつく。

「そうではない。誰が間抜け面をしろと言った」
「じゃあどうすればいいんだ」
「まずは座れ」

一体何をするのだろう。周囲も見守る中2人だけの世界にいる男女は周囲に目線すら向けない。彼が椅子に座ったかと思えば皇帝自らスープを含み、そのまま深く口づけた。
目を閉じて味わうように交わる唇と、フリオニールの喉がゆっくりと動き唾液事飲み下す。卑猥な水音を響かせながらも飲み干されたスープに、皇帝は赤い顔をして様子を伺っていた。

「……うまいか」
「すまない。よくわからなかったからもう一口貰えるか」
「仕方のない奴だ」

再びスプーンいっぱいの料理を掬うと、それ以上の愛情を込めて口移しを交わす。
そんな2人を他所に、ジタンが鍋へと近づくと、勝手に一口舐めた。表情を変えずに吟味する少年に、他の3人も集まってきた。

「どうだ? うまいのか?」
「いや……甘いしかわかんねえ」

+END

++++
続いた

16.11.16



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