5.特別な想いに気づかない
(アザゼル視点)
「さーく!」
ゴパァンッと水の入った袋が潰れる音が響いた。何が起きたかくらい、この事務所のをよく知る者ならわかる。アザゼルが潰れた音だ。セクハラ、破裂、懲りずにまた突撃。頭の悪いループを繰り返すのはアザゼルの日常となっている。
「アザゼルさん、いい加減にしてください。次はもう容赦しませんよ。」
グリモアを構えつつ凄む佐隈に怯むアザゼルではない。…最初は。今や悪魔使いとして着実に腕を上げる佐隈がキレてからは本気で手が出せないのだ。彼女をからかうのはもうおしまい、次の獲物へ振り返った。
(また見とる)
眠そうな目を更に細め、アザゼルを見つめる彼。呆れともとれるかもしれない、だがこうも見つめられては勘違い、いや確信してもいいだろう。
(さくばっかに構うから嫉妬か)
いつもの悪巧みの笑みではないものを浮かべるとベルゼブブの脇に座った。
「べーやん、どうしたん?」
「別に。」
何でもない、と続ける彼にふぅん?と気のない返事の裏腹、自然と笑みが漏れた。
「なんですか気持ち悪い。いつものウザイだけの顔が酷く悪化してますよ。」
「どういう意味やそれ。まあええわ、暇そうやからアザゼルさんが構ったろうっちゅーわけや!」
「余計なお世話ですよ。」
拗ねている。しばらく放っていただけで相当へそを曲げてしまったらしい。子供じゃあるまいし、何をそんなにむくれているのか、と手を伸ばそうとして慌てて引っ込めた。
少し困ったような目が手を追う様を見て自分の判断の正しさを悟る。
(アカン、なんやその目…可愛いすぎるやろ…)
触らないのか、と訴える目に欲望のままに「抱け」と煩悩が囁く。触れたら最後我慢出来ない、だが気付けば手が伸びて…
「こぉら!ベルゼブブさんが困ってるでしょ。休ませてあげてください!」
なんとタイミングの悪いことか。佐隈抱き上げられてベルゼブブとの距離が遠くなる。
「離せさくぅ!」
「ベルゼブブさん、大丈夫ですか?体調が悪いならもう帰っていただいても…」
「いえ、大丈夫です…」
ベルゼブブの顔は、赤い。
(特別な想いに気づかない)
+END
++++
露骨なのに「可愛いな」くらいにしか思ってないアザゼルさん
11.8.4
修正:11.10.17
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