*仲良しこよし
夕方に差し掛かり、外の喧騒が段々落ち着いてきた。事務所には珍しく佐隈一人、いつもは騒がしいアザゼルもおらず芥川もいない。ベルゼブブも姿もなく、入ってきた光太郎を笑顔で歓迎すると再び視線を雑誌に移して熱中し始めた。
パラリ、パラリと静寂の中、本の音だけが耳を擽る。
「姉ちゃん、なにそのほ…ってべーやんさんいたのかよ。」
「おや少年、帰っていたのですか。おかえりなさい。」
死角になっていたのと佐隈の服が保護色になっていたために気づかなかった。人形のように抱きかかえられているベルゼブブも雑誌に夢中になっていたようで、今更ながらぺこりとない首で会釈した。
「これはカレーのレシピだけど?」
「さくまさん、さくまさん。今日はこのカレーグラタンなどどうでしょう?」
カレーや混沌とした事件のことになると子供のようなベルゼブブである。目を輝かせながら佐隈の服の裾を引きページの一角を指し示す。その動作に見た目も背を押し可愛い、と思ってしまうのは女子供だけではない。
「うーん、でもレベルが高くないかな……」
「このベルゼブブ、カレーのためなら一肌脱ぎましょう!」
「料理できんのかよ。」
「失礼な。微塵切りなら得意です。」
「野菜に失礼だよ。包丁を使ってくれ。」
段々ムキになり今にも飛びかかろうとしたベルゼブブを腕で取り押さえる佐隈の姿は、物強請りをしている子供を止めているようにしか見えない。さすがに彼の首刀の威力は笑えないし、首筋にで収縮を繰り替える鼻提灯を見ればグシオンは使えない。
「はいはい落ち着いて落ち着いて。なら光太郎君も手伝ってよ。ベルゼブブさんを見張っててくれたら私も安心だからさ。」
どうやらベルゼブブは彼女の信用も得ていなかったらしい。だが本人は雑誌のカレーに夢中であり、気づかない。逃げたいところだが言い訳も思いつかない上、「光太郎君のカレーにだけおいしいルーが入るかもね」と脅されては完全包囲されたも同然。
やれやれ、たまにはおとなしく言うことを聞くのもいいかもしれない。
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さくちゃんとべーやんは仲良し&面倒な天然
11.7.11
修正:11.10.14
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