私のご主人様
※先天的女体化
※メイドべーやんと、ご主人様ルシファー
横暴で、身勝手で。だけどみんなのアイドル、それが私のご主人様。
勿論、使用人であるメイドにも大人気。我先にと世話を申し出ることは日常茶飯事である。確かに見た目はいい、お金持ちだし有名人だから、それも納得する。
だけど、たった一つ。不思議なことがある。
「優。」
目の前には、ルシファーの顔とぼんやり映る天井の白。背中には柔らかい、今朝新調したばかりのシーツ。
あぁ、押し倒されてるのか。冷静な頭が理解する。
「何ですかルシファー様。御用があるのなら仰ってください。」
「なんだよ。わかってるクセに〜」
顔はいい。だがこの性格はダメだ。高慢で身勝手で、自分が中心だと思い込んでいるこの性格は。ため息をつこうが睨みつけようが、この男はニヤニヤ笑うだけだ。
「優は本当に可愛いよなー!俺様の専用のメイドになれよ!」
「貴方は指名が多いのですから、その中から好みを見つけて、抱くなり捨てるなりしたらどうです?」
シレッと毒を吐けども、聞いているのかいないのか。ルシファーの態度には苛立ちを覚えるばかり。クセの強い、ベルゼブブのブロンドヘアーに指を絡めて捲くのはやめてもらいたい。
「嫌だね。優が身を引くなら、全員蹴ってやる。」
「でも私は貴方のものにはなりません。」
「そのつれねえところが好みだぜ…?」
女の首筋に顔を埋める姿は、映画で見る吸血鬼のよう。少し鈍い音をさせ、唇を離せばキツいと思われるくらいの鬱血の跡があった。
「止めてください。人を呼びますよ。」
「ここのメイドは、全て俺様のメイドだろ?」
リボンを解きブラウスを開き、しかし口以外は抵抗の意思は見えない。ただ、強い眼光がルシファーを射抜く。
「なんだかんだで期待してるな?」
「何をバカな。」
「じゃあ抵抗しろよ。」
露わになった胸に、軽いキス。
ピクリと反応はするが抵抗はない。ただ声を抑え、震えるだけの体が愛おしい。
「なあ、優。」
「……」
「はぁ、」
何も言わなくなった彼女に、気が萎えた。抵抗して欲しいわけではないが、何も反応がないのが一番寂しい。精巧な顔立ちをしているからこそ、人形を相手にしている気になってしまうから。
「……行っていいぞ。」
体を退け、ベッドの端にどかりと座り込むルシファーにベルゼブブは少々拍子抜けした。いつもは自分に正直で、尊大な態度しているのに今日は潔すぎるから。
拗ねたように漏れるため息を聞きながら、身なりを整えていく。
「ルシファー様、」
「なんだよ。」
「…………」
再び黙る彼女に、舌打ちする。そのだんまりが嫌いなのに、解放してからもだんまりとはどういうことなのだろうか。苛々だけが募っていく。
「…おこがましいことですが……」
「あぁ?」
「………………私は、貴方を想っております。」
「は?」
思わず間抜けな声が漏れたが仕方ないだろう。ベルゼブブを見れば、顔が赤い。可愛らしい姿に、自然と顔がにやけるのがわかる。
「では失礼します。」
元通りとなったメイド服を翻し、部屋を後にしようとする細い腕を、掴むと再びベッドに沈めた。ぱちくりと瞬く青い瞳。陰のかかった顔もまた綺麗だ。
「優。今日からここがお前と俺様のスイートルームだからな。」
「寝ぼけてますか?ゆっくりおやすみになってください。」
「今夜は寝かさねえぜ?」
「寝言は寝てから仰ってください。」
会話のドッジボールをしてもきりがない。先に折れたのはベルゼブブである。
「わかりました。今のは言わなかったことにしましょう。忘れてください。」
「ヤダね。あんなカワイイことを言われて忘れるわけねえだろ。」
「貴方は人気スター。それにお付き合いしている女性も数多くいらっしゃるはずです。」
「今の俺には妻になる優しかいねえぞ?」
「妻ではありません。身分が違います。」
「お堅いよな、お前。」
頬に手を添え、間髪入れずに奪われる唇に、ベルゼブブは目を見開いた。抵抗しようにも、メイドとご主人様という格差があるために抵抗も出来ない。されるがままに受け入れるが、キスの雨が止む気配は一向にない。
「今の女なんかお前の代わりだよ、優。」
「でも…っ私はっ」
「あー!面倒くせえ女だな!!俺様が、このルシファー様がいいっつってんだろ!!」
感情に任せて掴まれた肩に、ベルゼブブは小さく悲鳴を上げた。
「命令だ。もう面倒くせえことは言うな。」
「はい。」
「それと、今から敬語は止めろ。」
「はい……ぃ?」
「わかったな?」
「はい。」
この命令の後、どれだけの間が空いただろう。口を開く、ことを放棄し黙るなど卑怯ではないか。
「わかった。悪かった。…慣れてからでいいからよ、喋ってくれよ…」
「はい。」
距離が縮まるにはまだ時間がかかりそうである。
+END
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裏にするつもりだったのに、途中で裏が書けなくなったの巻
仕方ないね、時間を空けすぎましたからね
12.2.13
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