ててご | ナノ



*あと●回の記念日






「はい。これ」

 急に渡された可愛らしいラッピングの箱に、ライトブルーの目が瞬く。写真のようにピントを合わせていたが、少しズームを下げると正面には白黒の服がはっきりと映り込む。
送り主はニコニコと笑顔を崩さない。

「これは?」
「今日は聖バレンタインデーという日ではないのかい?」

 受け取った子綺麗な箱を見て、送り主の汚れた顔を見て、再び整ったラッピングを見る。受け取った写真家は動かないのだが、視線だけが忙しなく動くところがまるで小動物のようで可愛らしいと思う。

「それはわかっているが、どうして貴方が私に渡すのかを聞いている」
「だって、恋人に贈り物をするんだろう?」

 バレンタインという祭事は、大切な人に贈り物を渡す日である。この写真家と囚人は影ながらも恋人という関係性であり、祭事の意図としても間違いはない。

「そうではない」
「何が言いたいか分からない」
「貴方なら忘れていると思っていたが」
「酷いことを言う!」

 拒絶でも、怒りでも、軽蔑でもない。純粋に期待をしていなかったのだ、この男は。
ゴソゴソと豪勢な上着のポケットをまさぐると、見目美しい包装紙と可愛らしい薔薇を模した紅いリボンで彩られた小箱を取り出した。

「今年も私から渡さないと、行事が成り立たないと思っていたよ」
「酷い! 去年の白眼視で懲りたのに!」

 取り下げられては敵わないと、渡された高級チョコは腕の中へと抱き込む。
手に持っていた、彼からの贈与品には劣るがよく見かける有名なサインの書かれた菓子の箱を、押し付けるのを忘れずに。
一連の動きの速さに目を瞬かせていたが、クスクスと笑っては慈愛が彩る青い目で贈り物を見つめては、大切そうに洋服のポケットへと隠してしまった。

「来年はもう1ランクあげた贈り物を期待しよう」
「研究がうまくいけばいいんだけどな」
「あと、来月はあまり期待していないが、楽しみにしている」
「え。今のプレゼントでチャラだろう?」
「何を寝ぼけているんだ」

 「言えばちゃんと実行するとは、ペットよりは賢いのだろう?」と挑戦的に笑う美しい恋人には頭を抱えるしかない。面と向かってホワイトデーの催促をされるとなれば、日付が変わる頃に渡さなければどうどやされるかもわかったものじゃあない。時間にうるさく、約束には厳格な彼はそういう男である。
決して怒っているわけではない。急に首に巻かれた防寒具に白い指が伸びてきては、ゆっくりと解いて抜き去ってしまった。服と同じ縞模様のマフラーは、まるでシマウマの保護色のよう。使いまわしたせいで少しほつれて小汚いそれに、楽しそうに頬擦りをするのだ。

「さもなくば、このマフラーを私物化してやろうか」
「それは頂けない。もっと綺麗な物を用意するから」
「わかっているじゃないか」

 どうやら貴族様は、お揃いのマフラーを御所望らしい。どういうプレゼントをしようかと悩んでいた身としてはありがたいおねだりだ。
交渉成立と見るや否や、ポイと粗雑に手に持つマフラーを放り投げては、自ら身につけているストールをしっかりと首へと巻きつけては、白い息を吐き出す。

「私は……そうだな。楽しみにしていたまえ」
「あまり高価なものだと等価交換にならないからね?」
「ほう? 今の状態で釣り合っているとでも思っているのか?」

 渡した高級なチョコレートの見て、ポケットの中の小さな箱をたたき、写真家は目を細める。
迫力のある表情であるが、これもまた不機嫌なわけではない。面妖に微笑む口元に、瞬きを繰り返すサファイアの瞳。どんな罵詈雑言が飛んでくるのかとハラハラして目を伏せていたが、その曳き結ばれた口と困り顔が愉快だったらしい。軽快に笑い出したと思ったら、軽快なステップで地面を踏み踊る。

「等価交換が必要なら、私も気合を入れて選ばなければいけないな」
「ちょっと!」
「精々破産しないよう頑張りたまえよ」

 恋人同士の約束の行事。この一年という長く短い周期の中で、あと何回共に祝えるのだろうか。

+END

++++
遅刻バレンタイン

23.2.17

[ 26/115 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -