ててご | ナノ



蛇と貴族の神隠し5−1

※5
※バイパー×イチハツ♀
※蛇人×人間
※性描写あり


 蛇たちの寝ぐらに厄介になり、恋心を理解して半月は過ぎた。蛇の女王は気さくなもので、気まぐれにワニや鳥を届けてくれる。始めは警戒していた信者たちも「母親が優しくするのならば仲間だ」と言わんばかりに木の実ををくれるようになった。よほど人に慣れていないのか、言葉を知らないのか、なにも言わずに遠くから眺めているだけなのだが、意地悪で追って捕まえても、怯える顔はしなくなった。

「あらジョゼフ。また写真を撮っているの?」
「この辺の生態系は、知られていないからね」
「その写真で悪さをしないならいいさ」

 唯一持ってきた趣味のカメラを片手に、今日もフィールドワークである。意外にもあの男の蛇は機械に精通していて、不法投棄や人間からの贈り物を持って帰ってきては、何らかの道具を作成しているのだ。その合間に、カメラを教えては修理もしてもらった。頭は人に負けずいいらしい。

「で。ルカは何をしているのやら」
「今日は、薬を扱うから入るなと」
「ああ。いつもの傷薬ね」

 女王は何気なくいうが、あの傷薬は軽い物言いですむような効力ではない。
初めて出会った日、塗り込んでもらったあの白い軟膏のおかげで全身の傷が綺麗さっぱり消え去ったのだ。あの、弟を失う原因となった国内戦争の火種が刻まれた傷が、だ。それでも、弟へと想いは消えない。彼がいなくなっても、必ず不死の研究は完成させる。そう、彼の墓前で誓ってこんな辺境の奥地にまでやってきたのだから、今更命おしさに帰るわけにもいかない。
 薬について探っているのだとバレてはいるが、彼女は差して気にした様子はなかった。見つからないと鷹を括っているのかもしれないが、邪魔をしないのと世間話をする程度の仲になってきたのなら問題ないかもしれない。

「あの薬は、どのように作っているのか知っているのですか?」

 何気なく、自然に問いて見たが、彼女の反応は薄い。首を傾げ、周囲の少女たちにも目を向けるが、一同が首を横に降り続けるのだ。

「作っているところには立ち会っているが、どうしているのかは知らないねえ」
「立ち会っている、と」
「まぁ、1人でもできるらしいが、2人のほうがいいからね」

 知識がないものでも手伝えるのだろうか。だが、立ち会っているのに肝心の作成方法はわからないというのは不思議な話である。
もしかして特別な知識が必要になるのだろうか。製薬の場に立ち会えば、秘薬の秘密もわかるだろうか。淡い期待を抱いて決意を露わに拳を握りしめると唇を噛み締める。下から覗き込む少女たちを一瞥すると、勢いよく顔を上げて前を見据えるのだ。

「製薬している様は思えなかったが……」
「作り方が特殊なのさ。そうさね……私の口からは説明し辛い。お前さんなら直接見てくればいいだろうさ」
「そうだな……そうしよう。感謝します」

 彼はいつも部屋から追い出してくるから、制作過程も門外秘かと思ったのだが、そうではないらしい。そうと決まれば善は急げだ。素直にイドーラへ頭を下げると、歩き固められた地を蹴り、小走りで駆け出した。いつもの薄い笑顔を浮かべて見送る蛇の女王であるが、側で身を竦める少女たちに手招きをする。

「アンタたちは、あの儀式が嫌なんだったね」

 数多の少女たちがいるが、一斉にコクコクと激しい首肯をするのだ。一同が怯え、不安、恐怖といった表情を浮かべてはいるが、動作は皆同じで思わず笑ってしまった。ゆっくりといつも側にいる赤目の少女の頭を撫でてやれば、他の少女たちも我先にと集まってくる。代わる代わる撫でてやれば、皆嬉しそうに口を緩ませては可愛らしく微笑む。
 立ち会ったことはあるのだが、確かにあれは人間には向かないかもしれない。それでもイドーラは知っているのだ。ジョゼフが現れた理由が薬にあること。しかし、今は蛇神とおつきの子供たちに害をなすことはないこと。そして、少なからずルカのことも意識し始めたことを。

「まぁ、気が強いし成人しているようだし、大丈夫だろうさ」

 嫌ならば抵抗くらいするだろう。相手が蛇だとしても、ルカは研究者気質だ、力も比較的弱く人間の男と変わらない。対してジョゼフはいつも短剣を帯刀しているし、腕っ節も確かだ。護身術を学んでいると聞くから、暴漢対策もしているだろう。

「さて、アンタたち。ご飯の支度でもしようか。2人は水入らずにしてあげたらいい」

 始めは気にしたそぶりであったが、すぐに興味は自分と少女たちへと向かう。一様にうなづく子供たちの見つめて豪快に牙を見せて笑うと、シュルシュルと蛇の尾を引きずっては森の中へと食材を探しに向かった。



 このログハウスはこんなに高かっただろうか。ジョゼフは、第二の我が家へ戻ってきては、入り口になる梯子の下で立ちすくんでいた。もう数ヶ月もここで寝泊まりしていたのだが、今回はやけに緊張してしまう。なんせ、長年探し求めていたものの正体が、わかるかもしれないのだ。手に汗を握り、冷や汗だって湧き出てしまう。
ゆっくりと木を切ってできた使い古された梯子を上り、ログハウスの入り口へとたどりつく。ほんの数メートルの高さだ、だがまるで高山にやってきたかのような呼吸のし辛さ。変な汗すら出てきてしまい、ゴクリと唾を飲み込んだ。
 行動は早くしなければ、決意が揺らいでしまう。
自分の足に言い聞かせ、平手で鞭打つと勢いよく木の扉を押し開けた。

「バルサー」
「ん?」

 決意をした割に、返事はなんとも間の抜けた音だった。振り返ったマイペースな蛇は、鱗と目を煌めかせながらもフラスコを弄っている最中であった。
この蛇は、人に化けてはたまに町まで行き買い物をしてくる。地元では「蛇神は女性だ」と伝わっており、まさかこの男も蛇だとは誰も思わない。人ではない者が身の回りにいるかもしれないなんて、誰も疑わない。人の危機感知能力など、その程度である。

「今日は薬を作る間、1日は入ってはいけないよ」
「手伝いにきた」

 遠慮なくずかずかと我が家へと入り込めば、キョトンと幼さが残る童顔で見つめられる。正座をして居座る姿勢を向ければ、唸り、そして乱雑に整っていない頭を掻き毟るのだ。

「人間が立ち会うと危ないのだけれども」
「少女たちも手伝ったと聞くが」
「うーん、一度だけさ。あれ以来、あの子たちが怯えた顔をする」

 そんなにも危ない薬品を使うのだろうか。だが、長年人の悪意には触れてきたのだが、危険は感じることはない。泳ぐ目と乾いた笑いから様々な可能性を勘繰るが、答えが出るわけでもない。

「私は子供じゃない」
「そうじゃなくて。ええと、いいのかい?」
「何が」
「始めると1日かかるんだよ」

 製薬は専門外なために、そんなに時間がかかるものなのかは知らない。だが、彼が嘘をつけるほど狡猾な性格ではないし、本当なのだろう。もしかして、夜更かしをしたために子供たちが嫌がったのだろうか。机上の空論をしていても何も始まらないが。

「では、食糧を集めてこよう。何が食べたい?」

 手が離せなくなるほど忙しいのだろうか。無邪気に首を傾げる彼の意図はわからないが、外の世界へと這い出したお人好しの蛇は、何度も腕いっぱいの木の実を抱えてきては、山のように積んでいくのだ。1日でそんなに食べられるはずはないのだが、静止の声もお構いなしである。ポカンを口を開けてその様子を眺めるしかなかったのだが、やがて体が隠れるくらいに盛り上がった。さすがにもういいだろうと額を拭っては、目を白黒とさせる彼女の目の前に這ってきては蜷局を巻いて落ち着いた。

「さて、あの薬のことなんだが」

 やっと秘密を喋る気になったのか。存外素直に口を開くものだから驚きはした。つられて正座をして向かい合えば、溜めることもせずに言葉を紡ぐ。

「あの薬は、生命の種だよ」
「という、のは」
「人間は、精子というのかな」

 まさか塗り込まれた薬の正体が精液だとは誰も思うまい。予想だにしない答えに目を丸くしていると、脱皮をするように下半身の皮の間から細長いペニスを取り出した。

「な、何をしている!」
「薬作りを手伝ってくれるのだろう? 薬の材料には精液が必要なんだ」
「せ、セックスをするのか!?」
「セックス?」
「その、あの、性行為、だ」

 真っ赤になり口籠る理由を、人間を知らない蛇はわからない。気が変わり、拒絶されているものだととった彼は背を向けては自らの寝床へと1人で這い上がる。丸太に這いずり跡を残しながらも、乗り上がると蜷局を巻いては丸くなる。そんな一連の流れを、つい「美しい」と思ってしまった。
 しかし、見惚れている間も彼の行動は進んでいく。天幕を閉じると、背中で語るのだ。

「やはり、今日はイドーラたちの所ですごしてくれ」
「何故!」
「交尾は、人間の女にとって忌避することではないのか」

 人間の女ならば、突然性器を露出する男に怯えるものだ。だが、首を傾げる常識違いの蛇に言ったところで更に首が直角に曲がるだけ。蛇の神様は、生殖とは無縁だから。妊娠も、子供にも、縁がないのだ。
すっかり1人で製薬に、もとい自慰行為に励むつもりの彼がゆっくりと体を丸めていくのが、影絵で大きく映り込む。コイルを利用した電灯が作り出す蛇の巨大な影絵に恐怖を覚えるのは確か。人里を離れてこの蛇男と生活を始めたのではあるが、いまだに慣れることはない。
 人外のものに手篭めにされるのは恐ろしい。ましてや蛇だ。文字通りに丸呑みにされても文句は言えない。
それでも、ここで尻込みをしてしまっては人の生活を捨ててまで辺境の奥地にまでやってきた意味がない。それに、彼のことは嫌いではないのだから。

「ヤる。貴方に、付き合うから」

 意を決してカーテンを勢いよく開くと、自らの竿に手をかけた彼の、丸い目と目があった。
何度も見ても雄々しく長さもある雄だ。女としての期待と、恐怖が同時に襲いくる。
 ジョゼフは、お付き合いもままならないうちに母国の戦争に巻き込まれ、傷物になってしまった。体の経験はない。そんな彼女の初体験となる男が蛇なのである。怯えるなという方が無理な話である。
 そんな人間の女の決意も知らない蛇は、誰もよりも優しい表情で首を傾げ「無理しなくてもいいんだよ」と、耳障りのいい甘い声で。

「無理なんてしていない」
「そうか。なら、手伝ってもらいたい」
「……優しく、してほしい」
「怪我はないはずさ。だが、体調に異変を来したらすぐに言ってくれ」



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