ててご | ナノ



*もしかしての話

「別れてほしいんだ」

唐突に告げられた言葉は、短く端的で。だが、どんなダガーナイフよりも鋭利で、確実に精神を抉る凶器。
致命傷となり、ハンターの足すらその場に留めるには充分な威力を持ち得ていた。
何も考えられない。
どうして目の前の恋人は、唐突に別れを告げる?
皮肉にも、ここは結婚式の痕跡の残る教会。ーーーの、墓場。
止めを差すかのように、彼は小さく笑うのだ。皮肉を込めた、卑下した嗤いで。

「何故」
「私だって嫌だ」
「矛盾している」
「いや、正当な理由さ」

無意味な問答に興味はない。
徐々に恐怖よりも苛立ちが勝り、勢いよく煮え切らない囚人の胸ぐらを掴んだ。

「私の納得のいく理由を述べろ」
「やはり、成就するべきではなかった」
「男同士だからか」
「くだらない」

冷たい眼差しとは打って代わり、弾けるように笑えば、黒い羽が空へ飛び出した。煤汚れた羽を舞い散らせる。不快な笑い声に、一閃された写真が羽を細やかに切り裂く。相当気が立っているとわかれば、それ以上精神を逆撫で出来る勇者はいない。
この写真家は、見た目の優雅さと反比例するほどに気性が荒いのだ。

「ここに必要なのは、冷酷無比なハンターと、恐怖に足掻くサバイバーだ。色恋にうつつを抜かす者はいらない」
「分別はつけるとも。そこまで餓鬼じゃない」
「どうだろう。心の奥底では、赦しを求めているかもしれない」

襲い来る痛撃への赦し、吐き出される血痰に対する罪悪感への赦し。この異常な日常に慣れてしまった今でも、まだ彼の姿をゲームの中で見つけたときは、胃が裏返りそうになる。

「関係ない。実験の、願いのためなら私は、貴方が立ち塞がろうが容赦なく斬る」
「随分と嫌われているものだ。ならば、やはり」
「別れはしない」
「何故」
「私たちは、同業者だ。違うかな?」

研究のためなら手段を問わない。例え「命」を犠牲にしようとも、成し得たい成果がある。
そのためにここにきた。ただ、研究材料以外の、余計なものを見つけたに過ぎない。実に、不可解で役にはたたない思考を。

「君に価値がある日まで、逃がすつもりはない」
「それが君の答え?」
「もういいだろう。今日は特にくだらない冗談だ」

呆れたため息を、深くついては怪力で優しく手を掴む。死臭いが染み付く地から、一刻も早く離れようと腰をも抱き寄せれば「くすぐったい!」と無邪気に口角を吊り上げるのだ。

「今日のふざけた"もしも"の話は終わりだ。帰る」
「 帰って夕食にでもしよう!」
「貴様が作るように」
「わかったよ。お詫びだ」

八重歯を見せて笑う彼に、自然と眉を寄せる。楽しそうに抱きついてくる汚れた衣服を払いのけて体を離せば、表情が不満を訴える。両手を広げて腰に抱きつけば、すかさず肘撃ちがこめかみを叩く。痛みは、ない。

「うん、貴方の気持ち、よくわかったよ。嬉しいね!」
「私は君の気持ちが理解できない」

いつになったら、無邪気な囚人の目は心の底から笑うのだろうか。ギラギラと剣呑な光すら帯びるネイビーブルーを見つめ、眉を潜めた。

++++

貴方は囚写で『別れてください』をお題にして140文字SSを書いてください。
#shindanmaker
https://shindanmaker.com/587150

どこまで本気?
20.9.8

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