しんげき | ナノ



ちぐはぐ恋愛模様

※リヴァイ先天的女体化




こんな感情、認めるべきじゃなかったのかもしれない。
夢を、理想を邪魔するものは全部排除するべきだ、わかっている。
それでも伝えないと自分を支えられなかったんだ。



「兵長、危ない!」

リヴァイが足を滑らせたと同時に、エレンが飛び出し抱き寄せた。小さく細身な体はエレンの逞しい腕に収まり衝撃を免れる。
周りの先輩方はその機敏さに驚き止まっている。エレンは先輩への優越感と共に小さく強い姫君を抱きしめた。

リヴァイのことを女だと知ったのはつい最近だった。それまでこの人類最強は"男"だと思っていたし疑わなかった。しかしふたを開けてしまえばそこにいたのは、か弱く繊細な女の姿だった。

「ガキが出来たら困るからバレるな、だとよ」
億劫に頭をかく姿からは前のような恐怖は湧かなかった。小柄で、誰よりも強くて、綺麗好き。幼い頃からずっと憧れていた想いも実り、やっと近づくことが出来るようになったのだ。
長らく募っていた感情はいつの日か歪み、擬似的な恋愛感情とまでなっていた。

真実を知れば気持ちが揺らぐに決まっている。年は一回りも離れているが小柄で童顔だ。そんなことは問題ではない。それよりもこの事実を知り、生まれたのは喜びではなく困惑だった。
女である事実を隠しひたむきに兵士として体をはるリヴァイに、いいしれない不安感を覚えたのだ。自分の女としての未来を捨て、真っ直ぐに兵士としての道を歩き続ける後ろ姿は、頼もしくもあり壊れやすい陶器のようで。思わず伸ばした手は意外にも細い腕を掴むことが出来た。

あの時の顔は生涯忘れることはないだろう。
悔しそうに恥ずかしそうに、上目遣いをする可愛い一面を。唇に止まってしまった目を。
偶然、ノックを忘れて開いてしまった扉は秘めていた感情すら開放してしまった。
男にしては小さな体に、ミカサのような必要最低限の逞しい筋肉。胸には綺麗な布が巻かれてはいるが、決して小さくない胸が自己主張をする。そして小さく言ったのだ。照れ隠しをしながら「ノックはしやがれ」と。
咄嗟に何度も謝った。非礼の分、セクハラの分、興奮してしまった罪悪感の分。勿論「気にするな」とは言ってくれた。その横顔が赤かったのを今でも覚えている。

「……悪かったな。憧れの人類最強の兵士長がこんな女で」

落ち込んだ姿すら「綺麗だ」と思ったのは、惚れた弱みか。シャツで胸を隠す姿に生唾を飲み込んだ。
それから、まるで罪滅ぼしのように兵長に尽くした。何かあればすぐに助けたし、進んで手伝いを引き受けた。今思えば罪滅ぼしなんて建て前だったのだろう。
本当は兵長を独占したい、秘密を盾にお近づきになりたいという欲望だったのかもしれない。
触れるだけで嬉しかった。特別になりたかった。いつの間にか感情が歪んでいたのも確かである。以前は気にならなかった周囲の"人類最強への羨望の眼差し"が"欲情"に見え、心がざわついた。それを押さえ込んでいたのはなけなしの理性だけだった。
理性も砕けるのは一瞬だったが。

「オレもこんなナリでも女の端くれだ。若い男に優しくされたらときめく」
「兵長がですか? 俺に?」
「……お気に入りだし、エレン、だし」

いつものようについて歩いていたら、突然言われたこの言葉に酷く驚いた。赤くなるエレンに、拗ねた声が帰ってくる。
今までそんな素振りは一切見せなかった。出会い頭は仕方ないとは言え、冷たい態度に嫌われているとすら思っていた。でも、そうじゃなかった。それだけで幼い恋心は高ぶり燃え上がった。
「年増に好かれても嬉しくねえだろ」と拗ねる体を抱き締めると見開かれた目。

「そんなことないです」
「……、本当か? 本当にオレでもいいのか?」
「なんでそんなに臆病なんですか」
「恋愛なんて初めてなんだよ畜生……」
「それって、兵長の初恋?」
「〜〜それでもいいって言うなら!」

"今夜、部屋に来い。"それは明確なお誘いの言葉だった。

夜、皆が寝静まった時。ゆっくりと蝋燭が廊下で揺れていた。人の気配のない廊下を、迷いなく真っ直ぐに進み、とあるドアの前で止まった。
コンコン
躊躇いがちにドアを叩くと、静かに扉が開いた。かすかに開き覗く細く鋭い眼光。目の隈は相変わらず闇の中でもくっきりと浮かび上がっている。

「……入れ」

促されるままに部屋へと入ると、そこには薄着のリヴァイが立っていた。だらしなくシャツを出して太ももまで覆っているが、素足である。下は履いているかもわからない。

「とりあえず座れ」

促されて床に座ろうとしたら、しっかりと肩を掴まれた。

「そうじゃねえだろ。ベッドまでこい。胸くそわりいな」

乱暴に掴まれた胸ぐらが何故か熱い。相変わらず強い力でベッドに投げ出されると、二人分の重みでベッドが沈む。
見えるのは逆光に照らされているリヴァイの表情。影に紛れて赤らんでいるその頬から、緊張が見て取れた。

「エレン……、」

好きな人に迫られている。これで興奮しない男はいない。現に雄は痛いほど勃ち上がっているが、頭の中は冷え切っていた。
1人になると、つい考えてしまう最悪の事態。考える度に不安になる、胸くそ悪い可能性のために。

「これは、団長からの命令ですか?」
「あ?」
「俺を、巨人の力を繋ぎ止めるための」

リヴァイは、巨人に与える餌ではないのだろうか。
こんな女性を餌にしてまでつなぎ止めたいのは"エレン"ではない、"巨人の力"だ。そんな現実に、心が冷やされる。
押し倒されている状況ではかっこうもつかない。それでもギラついたエレンの真剣な目と問いにリヴァイは顔を歪ませた。

「違う。……これはオレの意思だ」
「証拠がほしいです」
「それは、オレがエルヴィンの言うことなら身体だって売る人間だと。お前はそう思うということか?」
「はい」

ここまではっきりと言えば誰だって怒る。しかしエレンはそんなことでは怯まない。苦い顔をするリヴァイを真っ直ぐ見つめる、何も言わずに答えを待つ。

「…どうすればいい?」

いきなりそう言われても思いつかない。しばらく頭をひねって出てきたのは、ありきたりな回答だった。

「俺の言うこと、何でも聞いてくれます?」

リヴァイは押し黙った。きっと何を言われるのか警戒してのことだろう。断ると思っていた。しかし意外にも答えはイエスだった。

「条件がある。業務や任務に支障が出ることは止めろ」
「それ以外なら、何でも?」
「……ああ」

目線を逸らし、震えている姿にゾクゾクした。こんな人間らしい、女性らしい、人類最強なんて見た者はいないだろう。それでもエルヴィン団長はどうだろう?そう考えると不安と怒りが湧き上がる。
独り占めしたい。
黒い感情に支配される幼い心。何かから守るように肩を抱くとバランスを崩した体がのしかかってきた。

「エレン……?」

機嫌を伺う声が可愛くて、胸糞悪くて。思わず強く抱きしめると、ゆっくりと腕が背に回ってきた。

「エレン。一緒に、寝て……くれるか」

ぼそりと聞こえた声には、強い羞恥心と甘えが見て取れた。

「それは誘ってるんですか?」
「だからそう言ってんだよ……」

顔が見たくても必死にしがみつかれてはそれも出来ない。仕方なく体を抱き締めると、強い抱擁が返ってきた。

「人のものに手を出すなんてしませんよ」
「だからちげえって言ってるだろうが」
「奪ってからです。アンタは必ず奪う、俺だけの物にする」

輝く瞳にリヴァイは目を丸くした。狂気に捕らわれてからは、いつもリヴァイだけを見つめていた。
最初は、強くなりたかった。巨人を殺せるくらいに、強く、強く。
いくら蹴られても、いたぶられても火に油。痛みを憎しみに変えて、更なる高みを目指して必死に"彼"を追いかけた。
しかし冷たい中の暖かさに触れてしまい、炎は揺らいでしまった。家族を早くに失い、忘れていた母親の温もりを、喪失感を彼女で埋めていた。
子供の頃に見て憧れ、檻の中から追い求め、痛めつけられ熱望し、深く触れて恋い焦がれて。

「その目だ……その目に惹かれたんだ」

うっとりとした声と無骨な指が頬を滑る。感情に任せて無理矢理唇を奪ったが、抵抗はなかった。逆に求めるように首に抱きつかれて舌まで絡めてくる。稚拙なキスなんて、あっと言う間に主導権を奪われてしまった。大人の手慣れたキスにまた嫉妬心が沸き上がるが、頭がボーっとしてそれどころではない。

「初々しいな、お前」

唇を舐めて煽る小悪魔を睨みつけれるが鼻で笑われるだけだ。仕返しにキスをしようとするが歯が勢いよくぶつかるだけだった。

「今日は何もしなくていい。だからおとなしくしてろ。」

大人の笑みにときめいてしまったのも事実。高ぶる感情を抑えながらも、明日からどう試練を与えるかを考えながら抱きついた。

+END

++++
続きます

16.4.20

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